IARC2025「プラスチック再生材含有目標値:欧州リサイクラーの反応は?」

ベルギー・アントワープで開催された国際自動車リサイクル会議のセッションから、今回は、欧州のリサイクル業界団体EuRICによるプレゼンテーションについて報告する。20日午後会議最後のセッションでは、プラスチック関連のステークホルダーが参加しELV規則案におけるプラスチック再生材目標値を主議題としてトークが行われたが、EuRICは、目標値をめぐる欧州プラスチックリサイクラーの意見を報告した。EUが導入を予定している自動車へのプラスチック再生材の使用義務は、関連業界の大きな懸念の一つであり、EU内でも目標値の最終決定をめぐり白熱した議論が交わされている。
EuRICは、ブリュッセル拠点の欧州のリサイクル業者を束ねる産業団体だ。主にリサイクルおよび廃棄物処理セクターの業者から企業5500社、75の産業団体・連盟を会員に抱える欧州では大きな影響力を持つ組織である。同協会が扱うセクターは、プラスチックをはじめ、金属、非金属、紙、テキスタイルなど。
まず欧州のプラスチックリサイクルの現状だが、2012年以降2023年の10年間で急速に拡大し、過去5年で55%の上昇を示している。しかしながら、2023年以降は価格変動と市場の混乱により、成長率が6%落ち込んだ。
EU27カ国+3(EFTA)におけるプラスチックリサイクル施設の処理能力は、1320万トン(2023年)、再生材の使用量は720万トン(2023年)となっている。
最近改正が行われたEU廃棄物輸送規則では、2026年5月からOECD加盟国へのプラスチック廃棄物の輸出について、輸送先政府からの事前承諾(PIC)が必要となる。また2026年11月からは、非OECD加盟国へのプラスチック廃棄物の輸出が全面的に禁止となる。これらの規制強化により、EU域内にはプラスチックのリサイクル材料の急増が見込まれている。
一方で、欧州のプラスチックリサイクルの現状は、需要低迷・海外からの輸入品の大量増加・バージンプラスチックの低価格・エネルギーコスト高・投資の伸び悩みなどにより、先行きが不透明となっている。そのため、プラスチックリサイクル業界は、ELV規則案によるプラスチック再生材含有目標値の設定は、欧州業界にとって大きなテコ入れとなると見ている。
EuRICは、欧州委員会による提案数値25%(ポスト・コンシューマープラスチック廃棄物由来)および6.25%(
ELV由来)は、既存のリサイクル能力と今後の能力拡大への適切なインセンティブがあれば、十分実行可能であると主張している。また、目標値の設定により、EU域内の廃プラ需要の安定化を図り、EU域外からの輸入品に対しEU域内と同等(ミラー条項)の条件を課すことにより、公正な市場の形成が可能となることも強調する。これにはEUによる再生ポリマーに関する実証法とトレーサビリティメカニズムの構築、リサイクル技術における公正な計算法の設定、第三機関による認証の義務化、そしてサステナビリティ条件の設置が不可欠であることも付け加えている。
EUに対し野心的な目標値の設定を奨励するプラスチック関連業界と、「現実的」な目標値の設置を要請する自動車OEMとの対照的な意見は、現在ELV規則案の調整作業が進むEU内でも大きく反映されており、野心的数字と現実的数字がどの点で妥協するのか、この先の欧州議会とEU理事会の動きに注目したい。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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