2025年10月27-28にタイ・バンコクで開催されたBIR秋季会議の国際環境評議会および国際貿易協議会セッションで、世界的な保護主義の高まりと資源循環の持続可能性をめぐる議論が白熱した。両セッションでは関税や環境規制といった制度的枠組みが、リサイクル産業の国際競争力を左右する現状が浮き彫りとなった。
国際環境評議会(10月27日):欧州リサイクル業界の構造問題と規制の影響
27日に行われた国際環境評議会では、BIR欧州部門 市場開発担当官であるOlivier François氏(ベルギー)が座長を務め、欧州の再生プラスチック業界が「安価な輸入品流入」と「環境規制による輸出禁止」の板挟みにあると訴えた。
François 氏は「欧州は世界で唯一、リサイクルプラスチック市場を強固に構築した地域であるが、これがかえって域外からの安価な再生樹脂流入を招いている」と指摘。結果として欧州内のリサイクルプラントは閉鎖や倒産が相次ぎ、約100万トンの再生プラスチック生産能力が失われたという。
また、欧州委員会が進める「European Steel and Metal Action Plan(SMAP)」が、鉄、アルミ、銅などの再生金属輸出に制限をかける可能性を示唆している点にも懸念を表明。「こうした措置は、世界的な需給バランスを崩しかねない」と警告した。
セッション最初の登壇者であるBIR 貿易・環境政策担当官の Olatz Finez Maranon 氏(ベルギー)は、SMAPが現時点では法的拘束力を持たないものの、「再生資源市場のルールが変わる可能性に備え、業界は上流政策の動向に注視すべきだ」と述べた。今後、排出削減を目的とした輸出量制限や課徴金制度の導入、再生資源市場を拡大するための循環経済法改正が検討される可能性があるという。
これに対し、François 氏が中国が2025年夏に国際標準化機構(ISO)へ提出した「recycled steel classification」に関する提案にも言及。ISOは技術報告書を作成し、正式標準化に向けた検討を進めている。BIRは独自の作業部会を立ち上げ、既存の欧州EFR規格や米国ISRI/ReMA基準が考慮されていない点を問題視している。
続いての発表者であるBIR貿易・環境部門ディレクターの Alev Somer氏(ベルギー)は、「既存の国際規格との整合を欠く」として、技術専門家の参画を呼びかけた。さらに、国連バーゼル条約の改正によって「電子廃棄物の越境移動」が混乱している現状を報告。2025年1月以降、家電や電子機器のスクラップは有害・非有害を問わずPrior Informed Consent(PIC)の対象となり、輸出国・経由国・受入国すべての同意が必要となった。非有害のモーターやシュレッダースクラップ(B1010、B1050)でさえ、Y49分類として扱われる事例が発生し、アジア地域では通関トラブルが相次いでいるという。BIRは条約作業部会で改正の影響が「当初の意図を超えている」と主張し、是正を求めている。
またBIRは、UNITAR(United Nations Institute for Training and Research)との協働による「Global E-Waste Monitor 2027」や、国際銅・鉛・亜鉛調査グループとの共同研究など、データ主導の政策提言も進めている。
最後の発表者であるBIR貿易・環境政策担当官の Bianca Mannini氏(ベルギー)は、8月に交渉が決裂した「UN Global Plastics Treaty」の現状を報告した。12月の再交渉に向け、再び合意形成への機運が高まっているが、参加国は「High Ambition Coalition」と「Like-minded Group」に分裂している。前者はプラスチック汚染をライフサイクル全体で管理する包括的条約を、後者は廃棄物管理や自主的取組みにとどめる方針を主張している。
BIRは生産・設計・リサイクル・循環性の各段階での産業意見を重視し、条約策定に積極的に関与する姿勢を示した
国際貿易評議会(10月28日):保護主義 vs 自由貿易の激論

28日に行われた国際貿易評議会では、Galloo Group(フランス/ベルギー)の公共・規制担当ディレクターであるEmmanuel Katrakis氏が座長を務め、米国と欧州それぞれの代表者が「関税政策」をめぐり真っ向から意見を交わした。
まず初めに、European Metals Recycling(イギリス/ドイツ)の経営責任者である Murat Bayram氏が「欧州鉄鋼業界の支援は必要だが、関税による保護は逆効果だ」と警鐘を鳴らした。Bayram氏は、欧州では再生鋼材の供給は十分にあるものの、経済の停滞により需要が弱く、根本的課題は「リサイクル産業ではなくマクロ経済にある」と指摘し、保護主義ではなく協調を重視すべきだと主張。「欧州内で処理・製錬された製品に対してCO₂証書の利益を共有するようなインセンティブ制度を設けるべきだ」とし、高エネルギー価格が欧州製鉄業の最大のボトルネックであると訴えた。
一方、SA Recycling(Uアメリカ)のCEO George Adams氏は、「私は関税が大好きだ」と語り、関税が米国鉄鋼業を救っていると強調した。
「海外で安価に生産された鋼を輸入すれば、国内産業は空洞化する。それは国家的リスクである」と述べ、関税を通じた国内製造基盤の維持を擁護した。輸入鋼材の価格上昇が自動車産業などに影響を与えることを認めつつも、「産業の維持こそが競争力の源泉」と語った。
最後に座長のKatrakis氏が「欧州でのリサイクル鋼消費が減れば輸出が増え、増えれば輸出が減る。市場は自律的に均衡する」と述べ、輸出規制や課税は不要と指摘した。彼もまた、欧州鉄鋼業の真の課題は「高エネルギーコスト」であると強調した。
今回のBIR大会では、リサイクル産業が経済安全保障や環境規制のはざまで揺れている現実が浮き彫りとなった。各国が自国産業を守るために関税や輸出規制を強化する一方、自由貿易を前提とする資源循環の仕組みは分断の危機に直面している。特に欧州の高エネルギーコスト問題や、電子スクラップ・再生プラスチックを巡る複雑な国際規制は、もはや一国単位での解決を許さない課題である。今後求められるのは、経済と環境を二項対立で捉えず、循環経済を共創するための国際的な調整と技術的連携であろう。
本稿をもって、タイ・バンコクで開催されたBIR世界リサイクリング大会の報告を締めくくりたい。
(IRuniverse Midori Fushimi)