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ニューコラムスタート!「半導体・電子部品工場におけるサーキュラーエコノミー最前線!」

第1回 「なぜいま、電子部品・半導体業界にサーキュラーエコノミーが必要なのか」

    産地リスクやESG圧力が高まる中、業界の現場目線から循環型への必要性を探る。

第2回 「なぜ再資源化が進まない?電子部品工場の“もったいない構造”をひも解く」

    材料ロスの構造的要因や品質基準の壁など、再資源化が進みにくい理由を明らかにする。
第3回 「フロン代替はなぜ進んだのか?過去から学ぶ突破口」
    オゾン層問題で進んだ代替の成功例から、循環型社会へのヒントを探る。
第4回 「“薄く広がる”を濃く集める:リサイクラブルなプロセス設計の挑戦」
    回収効率を高めるため、設計や工程段階から“濃度を上げる”工夫の提案事例を紹介する。
第5回 「提言:電子部品・半導体業界の循環経済を加速するために」
    技術・設計・経営をつなぐ新しいサーキュラー戦略の方向性を提示する。

 

今回はその第1回をお送りする。

 

第1回

「なぜいま、半導体・電子部品業界にサーキュラーエコノミーが必要なのか」

 半導体・電子部品業界に長年身を置いてきた者として、この数年、強く感じていることがあります。それは、「素材の循環利用」がいよいよ本格的に避けては通れないテーマになってきたということです。とはいえ、これまではどちらかといえば、「再生材は品質が劣る」「先端産業には向いていない」といった空気がありました。実際、私自身もその“難しさ”を強く実感してきました。

 

 ですが、いま、時代の潮目が確実に変わり始めています。

 

■サーキュラーエコノミーと半導体・電子部品業界は水と油?

 「サーキュラーエコノミー」と聞くと、プラスチックのリサイクルや、家電の再資源化といったイメージを持たれるかもしれません。では、半導体や電子部品やの分野ではどうでしょうか?正直なところ、「うちには関係ない」と思っている設計者やエンジニアも、まだまだ多いと思います。

 

 しかし、現実には、私たちの現場にはすでに「循環経済」と向き合わざるを得ない材料が、数多く存在しています。たとえば、スパッタリングに使うターゲット材は、製品には薄く堆積するだけで、多くはチャンバー内に堆積してしまいます。しかもその多くは、いわゆるレアメタル(希少金属。レアアースも含む)です。こうした材料が、産地の偏在や地政学的リスクを抱えていることは、今や誰もが知るところです。

 

■経済安全保障の視点が、静かに圧力をかけている

 2020年代に入り、「経済安全保障」というキーワードが日本企業の中でも定着しつつあります。これは単に“地政学リスク”の話ではありません。調達できない材料が一つあるだけで、工場は止まり、製品は作れず、納期遅延に発展します。つまり、原材料の「サプライチェーン・レジリエンス」が経営課題になってきたのです。

 

 とくに半導体や電子部品では、部材が非常に専門化・細分化しており、しかも使用量がごくわずかであることが多い。だからこそ、調達の不確実性にさらされやすく、再利用やリサイクルという“代替手段”を持っていることの意味は極めて大きいのです。

 

■再利用が進まない理由も、ちゃんとある

 もちろん、再資源化・再利用が進んでいないのには理由があります。たとえば品質です。半導体や電子部品の製造現場では、「純度」が命。数ppb(10億分の1)レベルの不純物が歩留まりを大きく左右し、「再生材だから多少不純物があっても仕方ない」という発想は通用しません。

 

 さらに困ったことに、こうした材料の中には、微量であっても“性能を決定づける元素”が含まれています。たとえば、Nd-Fe-B系の磁石におけるDy(ジスプロシウム)やTb(テルビウム)などの重希土類は、添加量は少量でも温度特性や耐磁場性能の向上には不可欠です。近年はDyフリーの開発が進んでいますが、それには高い技術力と設計の工夫が求められ、実現には大きなハードルがありました。

 

 同様に、半導体用でも、Si(シリコン)基板に添加するAs(ヒ素)、B(ホウ素)などのドーパントが重要な役割を担っています。Siそのものは豊富に存在する資源ですが、超高純度な半導体グレードとなると再生の難度は高く、ppb(10億分の1)〜ppt(1兆分の1)レベルの濃度制御が求められる世界では、こうした添加元素の再調整は非常に困難です。

 

 このように、「濃度的にはマイナーだが性能的には極めて重要」な材料こそが、再生利用を難しくしている要因の一つなのです。

 

■サステナビリティの重心は「気候」から「資源」へ

 こうした課題を前に、多くの企業がこれまで「やりたいけど無理」と諦めてきたのは事実です。しかし、ここにきて企業の姿勢や社会の潮流が確実に変わりつつあります。

 

 CDP(気候変動・水・森林などの環境情報開示を促進する国際NGO)の気候変動・水セキュリティ分野では、すでに企業に対して温室効果ガス排出量だけでなく、水の使用量や再利用の割合、地域への影響まで問われるようになってきました。さらTNFD(自然関連財務情報開示)の登場に象徴されるように、「自然資本」への視点がこれからの主流になりつつあります。

 

 気候変動はある程度“受容”できるかもしれないが、資源がなければモノは作れない。

 

 つまり、サステナビリティの関心が「温暖化リスク」から「資源確保リスク」へと軸足を移しつつあるのです。これは、机上の理論ではなく、まさに製造業の現場が日々直面している“切実な現実”に根差したものです。

 

■本連載のねらい

 この連載では、私が半導体や電子部品メーカーの現場で培ってきた知見をもとに、「循環経済って、言うほど簡単じゃない。でも、何かヒントをつかみたい」というテーマでお話をしていきます。

 

 サーキュラーエコノミーという言葉が独り歩きすることなく、技術と経営のリアリティに根ざした取り組みへとつなげていけるよう、少しでもお役に立てれば幸いです。

 

 

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桑島哲哉(Kuwashima Tetsuya)

1960年生まれ。大学で金属材料を学ぶが、当時は学問より音楽に夢中。ある日出会った

ピアノの師匠は日本思想史の研究者。そんな巡り合わせが、その後の人生に微妙な“歪

み”をもたらす。半導体でメタル配線、電子部品で磁性体、環境部門で脱炭素と、現場

を転々としながら、気づけば金属も思想も再学習する羽目に。欧州技術者との議論でよ

うやく西洋合理主義が腹落ちしたのは50代後半。60代に入り、遠回りも寄り道も、すべ

ては“学び直す力”のためにあった気がしています。

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