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元鉄鋼マンのつぶやき#110 チタン合金とUS-2改の夢

中学生の頃、理科の先生に質問した事があります。5種類の脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)の内、両生類の綱だけが、種の数が極端に少ないことに気付き、なぜかを先生に尋ねたのです。先生の回答は「いろいろ理由はあるだろうが、生息地が水際に限られることと、水中、陸上のそれぞれの環境に適した構造にすることが難しいからでは?」という奇妙な内容でした。

 

 飛行艇は人間が開発した両生類です。宮崎駿のアニメ「紅の豚」では飛行艇が主役の世界が登場しますが、現実世界ではそんなことはなく、航空機の世界ではかなりマイナーな存在です。当たり前ですが、飛行機としての性能と、船としての性能の両方を満足しなければならない両生類だからです。しかし、そのマイナーなニッチな世界だからこそ・・・というべきか、日本の飛行艇は世界一の技術力を誇ります。具体的には新明和工業が製造する飛行艇US-2です。これは世界最高の性能だそうです。

 

 本報告では先日(5.22)日本チタン協会の講演会で話された新明和工業の田中克夫技師長による「新明和工業(株)航空機事業におけるチタンの使用と将来需要」という講演を聞いた感想を申し述べます。

 

(関連記事)

→ 日本のチタンと展伸材は世界一のクオリティ 世界の航空機産業は日本のチタンなくして製造できない チタン協会会長&副会長

 

 日本が飛行艇の世界で一目置かれていたのは第二次大戦の頃からです。川西航空機の二式大艇は、第二次大戦当時に、多くの性能で、PBYカタリナ飛行艇など他の飛行艇を凌駕する圧倒的存在でした。材料面で言えば、ゼロ戦の翼桁と同様に、超々ジュラルミン(7000番台のアルミ合金)を極めて早い時期から導入しています。もっとも超々ジュラルミンは、耐食性にやや難があり、飛行艇に使用するのが正解だったかは不明ですが。

 

材料以外でも特筆したいことがあります。筆者の記憶が正しければ、二式大艇は、日本で最初にトイレを装備した飛行機だったと思います。これは航続距離、滞空時間とも長大な二式大艇ゆえの装備だと思います。もっともこれはタンク式ではなく、機外に放出する方式だったようです。二式大艇には爆弾や魚雷を投下する機能がありましたが、別の爆弾も投下可能だったのです。

話は飛躍しますが、飛行機にトイレがある・・ということは、素人の搭乗員も乗せるということです。それまで日本の飛行機は、専門の搭乗員だけを対象としていました。つまり、ある種の覚悟を持った人だけが乗る飛行機だったのです。しかし、二式大艇は普通の人を乗せる用意がある飛行機でした。勿論、軍用機ですから普通の人といっても軍人ですが・・・。

 

戦後、この画期的な飛行艇はPS-1となって復活しました。海上自衛隊の対潜哨戒の方針の変更もあり、PS-1は救難飛行艇US-1に進化し、さらに改良を加え、US-2になりました。

 

再び脱線しますが、新明和の人々はこのUS-1についてもっと語るべきではないか?と思います。1994年に天皇皇后両陛下(現上皇陛下ご夫妻)が小笠原諸島に行幸された際、US-1に御座上になっています。これは父島に滑走路が無いからですが、両陛下がご利用になるということは、つまり旅客機と同じように、誰もが快適に利用できる安全な航空機であると証明されたようなものです。

 

今回の田中氏の講演はこのUS-2の素材についての解説と、これからのTi合金の採用の展望について解説するものでした。非常に興味深い内容でした。

ちなみに新明和工業の航空機事業部門は、US-2だけを作っている訳ではありません。ボーイング787の多くの部材(フラップ、エルロン、スポイラー、スラット(前縁フラップ)を提供しています。(なぜか、ラダーやエレベーターは対象外のようです)。

また海上自衛隊の多くの機材のメンテナンスも行っています。(田中氏の説明では、徳島工場で担当する多用途機U-36Aのメンテナンスが含まれていませんでしたが、これは同機種の運用が終了するからでしょうか?)

 

ボーイング787の場合、新しい設計なので、素材構成を見ると、炭素繊維系の複合材料がほぼ50%を占めています。Ti合金の比率はアルミ合金の比率よりも小さいのですが、面白いことに、歴史を見ると、複合材料の比率と比例して増大しています。これは膨張率や防食性、接合時の親和性などで、複合材料とTi合金の相性がいいかららしいのですが、意外です。

 

素人が考えると、金属系材料と複合材料はライバルの関係にあり、複合材料が増加すれば、その分、Ti合金は減ると思いがちです。現に三菱重工が開発を断念したスペースジェット(MRJ)では、当初、複合材料の採用に意欲的でしたが、結局諸般の事情で妥協し、金属素材の比率が増加し、新規性と話題性がなくなり、ついには開発断念に至りました。

 

しかし実際にはTi合金については、複合材料とともに使用量が増えていくのです。これは金属材料ファンである筆者には心強く、ありがたい話です。

それでも、Ti合金にも検討課題は多くあります。現在、航空機用Ti合金の代表であるα+β型合金のTi-6Al-4Vより引張強度と破壊靭性に優れた、Ti-5553(Ti-5Al-5Mo-5V-3Cr)合金が開発されており、どちらを採用するか・・が問題です。軽量化だけを考えれば、強度に優るTi-5553となりますが、Ti-64に比べて疲労強度が劣ります。読者諸兄もご承知の通り、疲労強度は特に航空機において重要な指標です。結局ボーイング787では、昔ながらのTi-64を採用したそうです。

 

 航空機の設計者が保守的なのは材料選択だけではありませんが、ボーイング787の設計では、コスト面と疲労強度の両面からTi-64を採用したのだそうです。

 実はTi合金は万能ではありません。例えば大きな衝撃荷重が発生する降着装置ではシャフトに鋼材を使用しています。軽量化だけを考えれば、比強度の高いTi合金で肉厚を薄くするのが合理的です。しかしそれでは剛性が足りず、ヘナヘナになってしまいます。即ち圧縮荷重に対する耐バックリング(座屈)性能が低下し、降着装置のシャフトには不適となります。筆者の個人的な考えではマルエージ鋼がシャフト材として最適と思われますが、それではコスト的に厳しいだろうな・・と思います。

 もしコストを考えなくていいなら、いろいろなアイデアがあります。機体の部位によって求められる性能が異なりますから、部位毎にTi合金の種類を変えるのも当然の手段です。

またTi-64とTi-5553をサンドイッチ状、あるいはミルフィーユ状に積層し、引張強度、破壊靭性、疲労強度の各特性を同時に満足することも可能です。積層する方法もいろいろありますが、現代なら3Dプリンターを使用するのも一案です。積層でなくても、局所的に合金成分を変更したり、濃度に勾配を持たせることは可能です。

 

但し、後述しますが、3Dプリンターの採用には、いろいろな手続きが必要となる見込みです。

 

US-2に話を戻します。US-2の設計はかなり古いですから、素材の80%はアルミ合金で、複合素材やTi合金の割合は低くなっています。これは改善の余地がありそうです。飛行艇は飛行する度に海水を浴びる訳ですから防食性能は非常に重要です。単に見栄えの問題ではなく、腐食が進行すると強度が低下し破壊の原因になります。

 

US-2は飛行する度に、真水で機体を洗いますがそれでも腐食は激しいそうです。ここはアルミ合金を減らし、複合材料とTi合金に比率を高めるべきです。三菱スペースジェットでは挫折しましたが、飛行艇ではぜひ採用して欲しい事柄です。

 

素材の問題を離れますが、エンジンの問題もあります。US-2のターボプロップエンジンは、海水をまともに浴びると冷却されて停止してしまいます。有名な辛坊治郎を救助した際も荒天下で着水し、海水を浴びてエンジン1基をロストしています。それなら、エンジンの配置を変えて、高い波浪の中でも海水を浴びない位置にすればいいではないか?と思います。

例えば、主翼の前にプロペラを設置するのではなく、主翼の後ろ側にプロペラを付けるプッシャー式にするのも一案です。しかし失速速度を遅くしSTOL性能を確保するには、主翼上面とフラップに沿って下向きの気流を作るコアンダー効果を利用することになります。実験機飛鳥で採用された方法です。US-2はコアンダー効果を明確に意識した設計ではありませんが、やはりSTOL性能を考えるとプッシャー方式は不適かも知れません。

 

それなら、思い切って電動化する方法もあります。無論完全な電動飛行機は無理ですから、ハイブリッド方式にして、プロペラ駆動を電動モーター化し、モーターを覆って海水を浴びないようにすればいいのです。発電はターボプロップかターボシャフトエンジンで行い、それらのエンジンは海水のかからない位置に装置すればいいのです。4発である必要はありません。6発でも8発でもいい・・と筆者は考えます。

 

でも確か、飛行機オタクの某総理大臣は、海自の飛行機は4発に限る・・と以前発言していましたが・・・。

 

US-2をさらに改良して高性能にする余地はあります。そしてさらに高性能化して、輸出に活路を見出したり、日本でもその必要性が叫ばれる森林火災消火用の消防飛行艇に応用するアイデアがあります。US-2改の潜在的な需要は大きく将来はバラ色だと筆者は考えます。

 

かつて川西航空機は駄作だった紫電を改造し傑作機である紫電改を作り出しました。US-2もUS-2改となることで、新たな可能性が広がります。

 

ここから、Ti合金の問題点と課題に触れたいと思います。

航空機用の金属材料の問題の一つは、削り出しによる成形(除去加工)が多いということです。それは、軽合金での接合技術(溶接や接着)がまだ信頼されていないからですが、削り出しというのは歩留まりも悪ければ、時間もかかり、コスト的にも最悪です。

 

筆者は昔、超音速機コンコルドの主翼の桁材が削り出しで作られていることを知り、その非効率さに驚いたことがあります。ちょうどその頃、塑性加工の世界ではニアネットシェイプ化やインクリメンタルフォーミング化が大きな課題になっていました。そしてニアネットシェイプ化の極致が3Dプリンターになります。

 

ところが3Dプリンターはまだ航空機材料の世界では認知されていません。信頼できる金属材料とは鍛造品か圧延品であり、鋳造品でさえ信頼性に欠けるのに、いわんや3Dプリンターの製品など使えるか・・という議論です。まさしくその通りで、3DプリンターのTi合金が市民権を得るには時間がかかるでしょう。

 

 そこで田中氏が面白い意見を言われました。「有人の航空機への採用はハードルが高いがUAV(無人機)やドローンならハードルが低い。そちらで実績を踏み、やがて有人の航空機に採用する方法がある」とのことです。その場合、大型のUS-2などより「空飛ぶ自動車」などの方が、採用が早いかも知れません。

 

 もう一つの課題というか問題は、サーキュラーエコノミーの実現です。

 

Ti合金のリサイクルを考えると、端材や切粉の分別が大変です。特に削り出し加工では、膨大な切粉や端材が発生しますが、その分別と再利用が日本では難しいのです。理由は幾つかあります。合金の種類が多様で、小規模事業者(下請けの町工場)では、それを識別管理する手間がかけられないことが理由の一つです。また精錬工程で合金成分を除去して純Tiを取り出したり、合金成分であるバナジウムやモリブデンを取り出すのが難しいこと(これはTiの精錬が困難なことに由来します)も理由の一つです。

 しかし、これは単純に管理だけの問題ですからシステムを改善すれば対応できるはずです。例えばスクラップバッグにバーコードやQRコード、ICタグを付けて、合金の種類ごとに厳密に管理することは可能です。ISO9001やAS9000を取得している事業所ならできないとは言えないはずです。

 もっとも、そんなことよりニアネットシェイプ化を進めて切粉の量を減らす方が先ではないか?と言われれば、その通りです。

 扱いにくい素材の代表であったTi合金は、これから急速に扱いやすい材料になるはずです。

 

 高価で手間のかかるクロール法に代わる画期的な精錬方法が東大の岡部教授によって発明され、さらに3Dプリンターの利用などでニアネットシェイプ化が進んで加工コストが大幅に下がれば、Ti合金はもっと身近な存在になり、7000番台のアルミ合金に替わることになるでしょう。

 

 かつて超々ジュラルミンを採用した画期的な飛行艇二式大艇が空を飛んだように、Ti合金と複合材料をふんだんに使用したUS-2改が空を飛ぶ日が来ると筆者は信じます。

 

 話は脱線しますが、かつて広島県の常石造船は自社で水上飛行機を開発して尾道の瀬戸内海で遊覧飛行を実施していました。残念ながら不採算ですぐに撤退しましたが、もし飛行艇があれば遊覧飛行ではなく、定期路線を飛ばすことも可能でしょう。滑走路を持たない小島と本土を固定翼機で連絡できます。造船のノウハウを持つ常石造船と航空機のノウハウを持つ新明和、さらにプロペラや降着装置の専門家である住友精密工業などがタイアップすれば高性能なUS-2改ができそうです。(Ti素材を誰が提供するかは分かりませんが)。

 その時はぜひ東京=小笠原(父島)路線を飛んで欲しいですね。筆者も乗ってみたいです。畏れ多いことですが、天皇陛下の経験された空の旅を、筆者も経験したいと思います。

 

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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