
インタビューに答えてくれた小泉主査
環境負荷軽減などのメリットが注目される一方で、なかなか普及が進むイメージがない水素燃料電池自動車(FCV)。しかしながら、産業界ではゆっくりではあるが社会実装に向けた試みが着実に進んでいる。その一翼を担うのがトヨタ自動車やいすゞ自動車、日野自動車、スズキ、ダイハツ工業で構成されるCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT、東京都文京区、中嶋裕樹社長)。同社の小泉雅史主査にFCトラックを主としたFCVのメリットや現状、今後の展望について話を聞いた。
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幹線輸送を中心に力を発揮するFCトラック
――FCトラックを主としたFCV開発の現状は
CJPTではバッテリー式とFCの両面から、自動車の電動化を図っている。その中で、水素燃料電池(FC)トラックに関しては主に都市間の幹線輸送やその先の各地域への輸送プロセスで普及させていくことを想定している。それよりも短い距離の走行、いわゆるラストマイルの走行はバッテリー式のEVが得意とする分野だと認識しており、それぞれの特性をうまく生かしていきたいと考えている。
CJPTが社会実装プロジェクトで利用するFCトラック(小型と大型)
FCトラックにおいては東京や福岡で大規模な社会実装に向けたプロジェクトを進めているところ。これまで、国からの補助を受け、地方自治体からも協力をもらいながら、大手のコンビニエンスストアや物流企業の実業務で走行をしてきた。その規模は58社、161台に及び、走行距離は延べ約230万キロメートルとなり、かなりの実績を積み重ねてきたといえる。その中で、車の性能面だけでなく、水素ステーションの設置など環境面での課題もリアルに見えてきた。
今年は重点地域政策始動の節目となる予定。春ごろには国がどこを重点地域にするかを決定する見込みで、我々もそこに車両を集中的に導入していく流れになると思う。
離れられなくなる乗り心地
――FCトラックの強みは
車体の性能としてはかなりの高評価をいただいている。静粛性に加え、振動がなく疲れにくい点、またディーゼル社に比べ加速がかなりスムーズであることから、「運転時の負担が少ない車」として多くのトラックドライバーから好評の声を頂いている。航続距離についても、ディーゼルには劣るものの、現在利用いただいている企業の業務で使用する分には1日1回の充填で乗り切れるレベルには至っている。
トラックドライバーの時間外労働が制限された物流2024年問題の影響もあり、ドライバーの確保に苦労する経営者も多いと聞いている。運転しやすい、疲れにくいというFCトラックの長所が認知され、一種のムーブメントが起これば嬉しい。自分自身もマイカーをFCVに買い替えたが、とにかく乗り心地が良く、もうFCVから離れられなくなってしまった。とにかく顧客層にFCVに乗っていただく機会を増やすことが私たちのやるべきことであると捉えている。また、経営者目線でみれば、カーボンニュートラルに貢献できる点も大きな魅力だと考えている。
――FCトラックの課題は
大きな課題ではまずコストが挙げられる。ディーゼル車と比べ3~4倍の車体価格になってしまうのがFCVの現状。車メーカーとしてではなく、企画会社として、将来的にこの価格を下げていくためにどういったことに取り組めばよいかという点をCJPTとして検討している。また、水素ステーションの整備を進めていくとともに水素燃料が将来どこまで安くなるのかについても正確に見極めていく必要がある。現段階では水素インフラ企業と密に議論しながら、水素社会の将来像をしっかり描いていくことに注力している。現在はランニングコストの問題から24時間営業のステーションは少なく、ユーザー企業様から指摘を受けることもある。
燃料電池と水素タンクをそれぞれ積む必要があるため、荷室のスペースが少なくなってしまうこともデメリットとして挙げられる。企業様によってはその点が導入時のネックになってしまうケースもあり、どのようにそれを解消していくかは今後の課題といえる。車両設計のバリエーションを増やしていくことも選択肢の一つかもしれない。
販売価格の低減に向け後押しを行う
――導入価格はどこまで下げることを目指しているか
お客様に広く使っていただくためにはFC大型トラック、FC小型トラック共に実証でご利用いただくレベルでは不十分だ。市場動向も見ながら適切な価格まで車両供給メーカーが車両費低減する事を何らかの形で後押ししていきたい。
車両供給シナリオ(モビリティ水素官民協議会資料より引用)
一方で価格をかなり抑えたとしてもディーゼル車両よりも価格は高くなると見込まれる。この差がどこまで縮まるかは技術の進化次第ともいえる。ただし、一般論としては、FCVも含めたEVは仕様上、車両単体で見ると価格は高くなる傾向にあると思う。
――国に求める政策は
需要を創出するだけの助成はやはり必要だが、その点では国も理解を示しており、すでに手厚い支援をいただいている認識。あとは燃料となる水素の価格が将来的にどこまで抑えられるかという見通しを立てる部分で国にリーダーシップを発揮していただけたらと期待している。
(IRuniverse K.Kuribara)