25/3期12.9%減収50.8%営利減と半導体向け不振で大幅減額も26/3期大幅回復予想
株価4635円(7/8) 時価総額310億円 発行済株6703千株
PER26/3期DO予(9.7X)PBR(0.76X)配当(26/3DO予)166円 配当利回り3.6%
要約
・25/3期12.9%減収50.8%営利減と半導体向け不振で大幅減額も受注5.3%増
・26/3期14.3%増収59.2%営利増予想と半導体向け急回復で収益回復見通しは上振れ期待
・新中計で先端半導体向け拡大し28/3期売上高690億円、営利110億円予想変更せず
25/3期12.9%減収50.8%営利減と半導体向け不振で大幅減額も受注5.3%増
平面研削盤でシェア5割、またシリコン半導体ウエハ加工用装置も手掛けファイナルポリシャでは世界7割シェア誇る。 5/13に25/3期決算発表、6/13に決算説明会が開催されたが、具体的数字開示不足し電話取材後、有価証券報告書提出で数字確認した。
25/3期は売上高437.34億円(期初計画比12.66億円未達、12.9%減)、営業利益30.15億円(同5.85億円未達、50.8%減)、経常利益29.16億円(同6.84億円未達、53.6%減)、税引利益20.24億円(同4.76億円未達、55.6%減)と、大幅減額で着地した。なお受注は344.51億円(同5.49億円未達、5.3%増)と、計画比未達も前期比増を確保した。受注残は391.08億円(同7.16億円上振れ、23.7%減)と、一部顧客の納期延長などが響き計画比で滞留した形に。
事業別では工作機械事業が売上高308.61億円(期初計画比7.39億円未達、2.3%減)、営利13.80億円(同6.20億円未達、31.9%減)、受注264.78億円(同5.22億円未達、1.7%減)、受注残96.38億円(31.3%減)となった。工作機械事業売上の内訳は工作機械が215.82億円(6.6%減)、歯車61.78億円(2.4%増)、鋳物31.02億円(26.5%増)となった。国内は売上高156.58億円(2.4%減)と、中小企業での設備投資鈍化、平面研削盤の主力ユーザーである金型業界向けが低迷。海外も152.03億円(2.3%減)と、アジアが84.60億円(4.3%減)とEV向け大型平面研削盤向けが低調、北米も40.88億円(9.1%減)と落ち込むも、欧州が23.44億円(14.6%増)と前期受注のEV向け大型平面研削盤の寄与で売上増となり、全体では国内とほぼ同じ減少に。利益面では岡本工機の歯車工場稼働などで減価償却費17.77億円(16.3%増)、収益性の高い平面研削盤の構成比が減少したことでMIX悪化などもあり、微減収、大幅営利減に。工作機械事業受注では工作機械が174.11億円(8.8%減)と国内は中小企業の設備投資低迷で減少、海外は中国がEV向けの不振で減少、欧州も景気停滞で微減、一方で米国向けは堅調な動きで増加、全体では工業会受注の伸びを下回った。歯車・鋳物合計受注は90.62億円(17.7%増)と、歯車がロボット向け在庫調整の一巡で増加、鋳物は売上同様に高い伸びに。
半導体関連事業は売上高128.72億円(期初計画比5.28億円未達、30.8%減)、営利30.01億円(同1.01億円上振れ、44.3%減)と、300mmシリコンウエハの需要伸び悩み、在庫調整、設備投資延期などの直撃が影響した。仕向け先では日本が70.76億円(21.5%減)とグリーンフィールド向けファイナルポリシャ(FP)が納期の一部延長などもあり減少したと見られる。また海外も中心となるアジアが44.21億円(46.0%減)と中国でのウエハ投資の反動減が影響し大幅減に。受注は79.73億円(37.6%増)と、国内、東南アジアの次世代パワー半導体や高周波通信デバイス向けにグラインダ、FP受注を獲得、ボトム脱出となった。利益面では大幅減収に伴い大幅減益となったものの、収益性は大幅減収ながら半導体関連サービスが19.52億円(横ばい)を確保、計画比で多少の上振れとなった。
26/3期14.3%増収59.2%営利増予想と半導体向け急回復で収益回復見通しは上振れ期待
26/3期会社予想は売上高500億円(14.3%増)、営利48億円(59.2%増)、経常利益47億円(61.1%増)、税引利益30億円(48.2%増)、受注500億円(45.1%増)予想とした。
部門別では工作機械事業が売上高343億円(11.0%増)、受注321億円(21.2%増)予想。サブセグメント予想の開示はないが、工作機械については工作機械工業会受注予測が7.7%増予想としており、工業会予想を大きく上回る予想としている。これは前期落ち込んだと見られる半導体関連の回復、医療・航空機関連などの受注拡大などを見込んでいる他、三井物産の100%子会社のエリソンテクノロジーズ(全米工作機械販社として最大手クラス)との提携による米国での工作機械販売拡大などが寄与すると見ている模様。また歯車については最大手ユーザーであるファナックのロボット生産回復、EV関連ギアへの対応拡大などで需要回復が続くと見られる。
半導体関連装置は売上高157億円(22.0%増)、受注179億円(2.2倍)予想としている。基本的に受注が23/3期の179億円程度まで回復するとの前提。従来全体の90%近くを占めていたと見られる300mmウエハ向けファイナルポリシャが26/3H2以降のNANDフラッシュの回復によるウエハ需要の回復、先端デバイスにおける平坦度要求の拡大に伴うFP需要の急回復を見込む。また非FPとして化合物半導体向けなど難削材向けグラインダ需要の拡大などで受注拡大を見込む。加えて3Dデバイス拡大に伴い両面全自動BGテープ平坦化研削用のグラインダも本格拡大が見込める。
全体として、工作機械事業については同社の工作機械事業で自動車関連のウエイトが他社よりも低く、トランプ関税の影響は軽微と見られるが、高い伸びは難しいと見られ、同事業については収益の未達懸念がある。一方、半導体関連装置事業は、依然として豊富な受注残高を抱え、納期延長を実施しているグリーンフィールド関連の納入が進むと見られることに加え、中国での継続的なウエハ製造設備投資の実行、更にはAI半導体の拡大に伴うさらなるウエハ平坦度要求の高まりなどが追い風に、受注拡大が見込まれる。これに対し、既存の生産設備増強に加え、100%子会社化した大和工機が4月より共同事業を開始、収益の上振れが期待される。全体として計画並みの売上、利益はMIX良化で若干上振れが期待される。
新中計で先端半導体向け拡大28/3期売上高690億円、営利110億円予想変更せず
同社は昨年5/22に三井物産との間で資本業務提携を行い、第三者割当増資198.59万株(議決権比率30%)を実施した。この提携により著しい成長が見込まれる次世代半導体市場の成長を捉え、競合他社に対し優位性のある製品開発を行い、ショールームなどの拡充、さらには新規設備投資も多額の資金投入を行い、外部パートナーとウインウインの関係を築くとした。新中計数値目標として、28/3期に売上高690億円、営業利益110億円、配当性向45%を目標とした。そして今回、25/3期収益が厳しかったものの、新中計数字予想の変更はなかった。
事業別では半導体関連事業について売上高270億円(26/3期予想比72%増)、工作機械関連420億円(同22%増)と、中心となるのは半導体関連事業。この新中計は、従来当期計画として「ビジョン2030」で目標としていた31/3期に売上高700億円、営業利益115億円目標を3期前倒し達成する意欲的な中期経営計画となっている。
半導体事業はSi半導体に加え、SICウエハ加工プロセスの高度化、化合物パワー半導体(SIC、GAN等)対応機の拡充、難削材ウエハ対応のポリシャ、グラインダなどを投入、次世代材料向けで100億円程度の売上を見込む。また10/29にSi貫通電極ウエハの超平坦・金属汚染フリー・薄膜化加工のための研削技術がJSTにより開発成功認定を受けた。従来コストの問題や歩留まり(良品率)の低さが課題で三次元実装は一部の高機能デバイスでしか実用化されていない。同社のSi貫通電極ウエハ全自動研削装置はこれらの課題を克服し、三次元実装技術の普及を促進する可能性を持つ。
具体的な特徴は、①従来方法でSi貫通電極の長さにばらつきが生じやすく歩留まり低下の要因に対し、Siウエハ裏面からSi貫通電極を露出させ研削加工を全自動で行うことでばらつき低減に成功、②従来の研削方法ではSiとCuの同時研削が困難だったが、多くの気孔があり目詰まりしにくい研削砥石(Cuによる目詰まりを抑制するために、多数の気孔を持つ特殊な研削砥石)を使用し安定的な同時研削を実現、③従来方法ではウエハ上に残留Cuがあり性能低下の原因となっていたが、特殊な洗浄プロセス(研削中に砥石表面に付着したCuを高圧水またはマイクロジェットで連続的に除去する機構を搭載)で残留Cu除去に成功したなどがある。さらに研削中にIRセンサーを用いてウエハの形状・厚みをリアルタイムで測定し、研削ヘッドの傾きを動的に自動補正している。
この様な複合技術により、Si貫通電極形成プロセスの効率化、 従来の方法と比較しSi貫通電極形成プロセスを効率化、接続電極を用いない直接積層が可能となり、半導体回路のさらなる高性能化、三次元実装技術の適用範囲が拡大し、様々なデバイスへの応用が期待される。また平坦化プロセスである化学機械研磨(CMP)の一部工程を代替する可能性もある。特にTSVリビール工程(ウエハの裏面を研削して、内部に埋め込まれたCu製のTSV電極の先端を露出させる)では、特定のCMPステップを不要にする可能性がある。最終的な表面品質要求によってCMPは依然として必要となるが、一部代替が可能となれば大きな需要が期待できる。今後さらなる工程安定化や特性向上に取り組み、装置コスト、工程数を低減し、歩留まりを大きく向上させ、次世代HBMや3D半導体の拡大で採用され、年間60億円の売上げを目指すとしている。また同社は、先端パッケージングを必要とするデバイスにおいて、次世代半導体製造の極めて重要な課題に対応する「両面全自動BGテープ平坦化研削技術」も開発した。
この技術は、同社の全自動ウエハグラインダ「GNX200BH」を核に、「ウエハを研削する前に、まずBGテープの表面を研削して完全に平らにする」という画期的なアプローチ。表面に高い凹凸(トポグラフィ)を持つウエハの薄層化において大幅な進歩をもたらすために、3Dパッケージングの多層化に不可欠なプロセスとなり得る。この技術の特徴は、薄層化工程の前にウエハ表面に貼付されるバックグラインド(BG)テープを平坦化する能力にある 。ハイバンプ(高い突起)などの特徴を持つウエハにBGテープを貼る場合、テープがその凹凸に追従し大きなうねりが残る 。このうねりはウエハを薄く研削する際に厚さのばらつきや割れのリスクを高めるため、従来は達成可能な薄さや歩留まりを制限する要因となっていた。これに対し同社は3段階のプロセスでこの問題を解決した。
具体的にはBGテープ貼付( ウエハのバンプ側にBGテープを貼付)、BGテープ平坦化(GNX200BHを使用し、BGテープ自体の表面を研削して極めて高平坦度に仕上げ)、ウエハ薄層化(ウエハ反転させ、裏面を所望の超薄厚まで研削)の工程。この予備的なテープ研削工程により裏面研削時にウエハが完全に平坦な状態で保持され、TTV(Total Thickness Variation:総厚みばらつき)が劇的に改善できる。具体的にはBGテープ研削後にTTVが51µmから7µmへと向上したとのこと 。この技術の中心となるのが全自動ウエハグラインダ「GNX200BH」である。3テーブルと2スピンドルを搭載し「ウエハの搬入・位置決め」「研削」「搬出・洗浄」といった異なる工程を同時かつ連続的に行い、装置を停止させることなく高い生産性を維持、連続的で効率的な加工を可能としている。また高馬力・高剛性仕様なため硬脆材研削に適し、ウエハを固定するためのワックスが不要なためワックス貼付、剥離、洗浄の工程が不要となっている。そしてBGテープの平坦化とその後のウエハ薄層化の両方を自動で行い、必要機械の数を減らし、生産プロセスを格段に合理化できる。
なおディスコはウエハ裏面研削の際に、ウエハ外周部を削り残し支持リング(フレーム)のような構造(TAIKO)を作り、 この支持リングで極薄ウエハの剛性を保つことで搬送時や加工中の「割れ(破損)」を劇的に低減することで歩留まりを向上させる手段をとっている。東京精密は装置本体の基本性能を極限まで高め、研削によって発生した微細な加工痕や厚さのばらつきは、その後のドライポリシング工程で除去し最終的な平坦度を確保することで、高精度な加工を実現するアプローチとなっている。各社、異なるアプローチを行っているが、他社は同社のように研削前の「基準面」に加工を加えるのではなく、「研削」と「仕上げ」工程の精度を極限まで高める手法であり、コスト面で同社の優位性が発揮される可能性がある。
ところで中計において既存Si向けFPについて大きな伸びを見ていないが、現実にはAI半導体の急拡大に伴い、HBM向けSiウエハ需要の拡大、更に今後、AI推論向けデータセンタ拡大により、NANDフラッシュの需要も本格回復が見込める。またAI搭載PCやAIスマホの普及などもウエハ需要喚起が見込める。また先端GPUでは基板の大型化に伴い1枚当たりのチップ枚数が激減、これもウエハ枚数の拡大をもたらす。このためAIにより改めてグリーンフィールド投資が必要となる可能性があり、結果としてSi向けFP需要も再拡大が見込まれる。いずれにしても従来のシリコンウエハFPの一本足打法から、中工程、難削材加工などへエリア急拡大により、半導体関連装置の中計見通しは十分に達成可能と見られる。
一方、工作機械事業では工作機械において中心となる平面研削盤は、EV関連でリチウムイオン電池製造装置向けの長尺超精密平面加工向け、モーターコア製造用連装金型向けの超精密平面加工向けに大型超精密門形平面研削盤などの拡大が期待される。さらに半導体製造装置・電子部品製造装置向けではセラミックス等の難作材加工向けにせ切削粉除去の注水装置、真空チャック仕様の精密ロータリー研削盤の拡大も見込める。また岡本工機の歯車事業は新工場で生産能力が3割アップ、国内で月産50万個、中国で月産10万個の歯車生産能力を持つが、現在の生産個数は国内30万個、中国10万個となっている模様で、国内新工場での能力アップしたものの、現在のところ低稼働率にとどまっている。岡本工機は特に産業用ロボット向けのシェアが高く、最大手顧客のファナックのロボットの回復、ナブテスコの減速機向けなど、26/3期以降、数量増と主に産業用ロボットの多関節化などで1台あたりの歯車仕様個数の拡大も加わり、需要の再拡大により収益拡大が見込める。
また岡本工機の歯車の特長は世界で唯一の「超音波援用歯車研削」により加工されている点にある。超音波を利用し、歯面に微小な凹凸を作り、そこに油が浸透する。潤滑性が向上し振動・騒音を抑制し耐摩耗性にも優れているため、高速回転で高性能を発揮する歯車となっている。しかも歯車加工用設備、歯切り工作機械、カッターなどを内製し、熱処理から一貫生産できる。従来は産業用ロボットが50%強、10%程度が減速機、船外機がそれぞれ10%程度、その他に電動工具向けなどがあった。今後は新分野として駅のホームドア、医療機器などにも拡大する見通しであるが、EV化で歯車の静音化ニーズから静音性の高い精密歯車への需要が高まる可能性があり、EV用途が広がれば急拡大が見込める。このように工作機械事業も平面研削盤を中心に半導体、EV関連向けの拡大、加えて歯車ビジネスでも用途拡大で、中計計画の達成が期待される。
同社株価は25/3期大幅減益予想が開示され大幅に下落、さらに昨年5/22の三井物産への第三社割り当て増資で株式が希釈化、PBR1以下での割り当ての批判も受けさらに株価が下落、8/5には市場暴落の中で高値から半値以下の3105円まで売られ、その後多反発したものの、シリコンウエハの在庫が溜まり、シリコンウエハ需要見通しも不透明さを増したことで株価は再度下落、4/9には3000円大台を割り込み2890円の年初来安値を更新した。その後はウエハの在庫調整も進んだことで緩やかに株価が戻り、25/3期決算発表で26/3期大幅収益回復予想が開示されたことで5/13以降4000円大台を超え、説明会が行われた6/13以降、さらに上昇を続け、6/30には5000円一歩手前の4965円まで戻ってきた。現在、26/3期会社予想EPS453.78円に対しPER9.8倍は東証スタンダード機械平均PER11.3倍に対し若干割安、プライム市場のウエハ製造加工装置関連のディスコ(6146)コンセンサスPER33.2倍、東京精密(7729)のPER17.5倍、スタンダード市場のOBARA(6877)はPER9.0倍と同水準となっている。
現在、受注がボトムから回復基調に転じており、26/3期収益は多少利益の上振れが期待され、27/3期はAI半導体需要拡大により受注回復テンポが更に高まり、新製品群の需要拡大から収益の急拡大から最高益更新、配当も28/3期45%には配当性向目標を打ち出しており大幅増配が期待される。画期的な製造装置開発、従来はガラス基板の超精密ポリシング装置の納入実績もあり、半導体パッケージ用のガラス基板など先端半導体製造装置関連メーカーとしても注目度が増し再評価されると判断、三井物産の資本参加で企業体制変革も期待しポジティブ継続としたい。
*ウエハ製造関連ディスコ(6146)、東京精密(7729)、OBARA(6877)との比較
*ウエハメーカーの信越化学(4063)、SUMCO(3436)との比較
(H.Mirai)