26/3期5.8%増収5.4%営利増予想もMIX良化で増額含みから連続最高益更新期待
株価2529円(8/15) 時価総額567億円 発行済株22490千株
PER(25/3DO11.6X)PBR(1.5X) 配当(26/3予)76円 配当利回り:3.0%
要約
・26/3Q1は水処理向けが牽引も半導体、医療低調で0.2%増収10.2%営利減
・26/3期5.8%増収5.4%営利増予想に変更なく緩やかながら連続最高益更新予想
・中計で28/3期に売上高530億円、営業利益69億円目標
26/3Q1は水処理向けが牽引も半導体、医療低調で0.2%増収10.2%営利減
半導体、医療機器向けの強味を持つケミカルポンプ専業・総合メーカー。「ポンプのデパート」と呼ばれる多品種少量生産体制が最大の強みで、ケミカルポンプを中心に流体制御機器を展開している。
26/3Q1決算を8/8に発表、同日説明資料が開示された。26/3Q1は売上高112.46億円(0.2%増)営利12.85億円(10.2%減)、経常利益15.55億円(6.7%減)となった。水処理向けが牽引も半導体、医療低調で微増収、営業利益は在庫の払い出し、生産調整影響で営利減となった。
地域別では国内が51.53億円(3.4%減)で、半導体、医療機器向けが低調に推移した。欧州も14.16億円(9.2%減)と化学市場を除き低調に推移、中国も半導体、医療が低調で13.12億円(17.6%減)となった。一方、米国は主要市場の水処理が好調で19.33億円(24.3%増)と伸長し2四半期連続で過去最高額を記録、アジアもマレースア向けなど好調で7.62億円(10.9%増)となった。
市場別では水処理が米国中心に伸長、マレーシア向けも拡大し28.75億円(16.8%増)、化学は欧米で増加し12.07億円(4.3%増)に。一方、半導体・液晶向けは18.32億円(8.6%減)ながら、前期比12.6%増と回復基調にある。
医療向けは19.82億円(8.9%減)と、国内、中国が低調。
製品別では主力製品の定量ポンプが20.32億円(9.3%増)と、水処理市場の好調もあり拡大した。一方、空気駆動ポンプは半導体・液晶市場が低調で12.93億円(15.6%減)、回転容積ポンプも7.04億円(15.6%減)と医療向けの低調が影響した。最大売上のマグネットポンプは36.54億円(2.7%減)と半導体、プリント基板製造、化学市場などの伸び悩みで減収に。
利益面では収益性の最も高い定量ポンプが9.3%増となったものの、在庫払い出し及びこれに伴う生産調整の影響から総利益率が0.6ポイント悪化し40.1%となり、販管費が若干増加し、営業利益減に。なお持分利益が台湾の好調などで2.00億円(50.4%増)となり、経常利益は6.7%減にとどまった。
26/3期5.8%増収5.4%営利増予想に変更なく緩やかながら連続最高益予想
26/3期会社予想に変更はなく、売上高484.39億円(5.8%増)、営利61.59億円(5.4%増)、経常利益66.01億円(1.3%増)、税引利益47.88億円(7.2%増)予想を据え置き、連続最高益更新予想とした。
市場別売上面では全事業で増加を見込む。水処理は米国向け拡大で118.17億円(7.3%増)予想。半導体向けは73.15億円(6.4%増)と下期からの回復を想定。医療機器向けは下期回復を見込み6.7%増を見込む。化学は欧米で堅調な伸びで52.82億円(0.9%増)と他市場の伸び悩みを補い微増予想。
製品別ではシステム製品を除き増収予想。平均以上の伸びを見込むのが空気駆動ポンプ。下期からの半導体向けの回復を見込み54.13億円(11.7%増)予想。その他は平均を下回る伸びを見込むにとどめた。収益性の最も高い定量ポンプは水処理向け拡大などで84.12億円(4.1%増)としているが、Q1では9.3%増となっており、水処理好調で上振れが期待される。最大売上のマグネットポンプは158.68億円(5.4%増)予想。Q1は2.7%減となっているが、下期にかけて半導体、医療の回復で増収に転ずると見られ、多少未達懸念も増収確保が見込める。
営業利益の増減見通しでは、増収効果・原価率改善で13.31億円の増益効果を見込む。一方、販管費増影響で10.04億円の減益要因があり、全体で5.4%営業増益と緩やかな増益を見込む。
現状、25/3H1予想に対し26/3Q1の進捗率は売上で47.1%、営業利益では43.9%、経常利益で49.3%と、微妙に進捗率が伸び悩んでいる。この要因は半導体、医用向けの伸び悩みにあると見られ、一方で最大市場となっている水処理が好調でこれを補っている状況。Q2以降については特に半導体向けは回復基調が加速すると見られるが、医療向けは不透明感もある。一方、水処理は米国関税問題が課題と見られていたものの、15%関税により、イワキアメリカの負担が増えると見られるが、影響は限定的にとどまると見られ、計画を上回る伸びが期待される。
全体として水処理の上振れと高採算の定量ポンプの伸びがMIX良化となり、総利益率が若干高まろう。販管費増が5.4%増見込まれており、営業利益は会社想定並みの緩やかな利益増となり、連続最高益更新が見込まれる。
中計で28/3期に売上高530億円、営業利益69億円目標
同社は25/5に新中期経営計画2027を策定、収益目標として28/3期に売上高530億円、営業利益69億円を数値目標として掲げた。この中計はNEXT10の「ホップ期」に相当するとして、着実な成長と将来の飛躍に向けた基礎固めを実行するステージとした。そして10年ビジョンNEX10として35/3期に売上高1000億円営業利益率15%以上を目指す。
中計の重点テーマとして海外市場における水処理ニーズへの貢献拡大、水素など次世代エネルギーへの対応、グローバル製品の拡充、グローバル調達の拡大を掲げた。
具体的な市場別の目標数字は開示されていないが、安定して伸長を見込むのは水処理市場とした。現在伸長著しいのが米国市場。米国では上下水処理の民間委託が進んでおり、プール、温浴施設、産業排水処理まで裾野が広い。これらで必要となるのは「次亜塩素酸ナトリウムなどの薬注」であり、イワキの定量ポンプが得意とする高収益の定量ポンプの強みが生きる。同社は早期に米国法人(Iwaki America)を設立し、水処理案件を積み重ねてきた。
Grundfosなど欧州大手が「大規模水循環」を主軸にしているのに対し、同社は「薬液注入の精密制御」に集中、規模では劣るが精密注入で強く、米国の水質規制の厳格化と親和性が高く、今後も成長が期待でき、複数の開発案件が進行、伸びの期待される製品が多くあるとのこと。実際、連邦のインフラ法(IIJA/BIL)が21年11月に成立した包括的なインフラ法案でCWSRF(Clean Water State Revolving Fund:クリーンウオーター基金)へ11.7Bドルの拠出が行なわれ、EPA(米国環境保護庁)の実行メモでは水関連で約430億ドルのSRF資金投入も行う方針にある。また市場とし米国に加えアジア向けの拡大を見込む。
アジア各国で水インフラの整備が進展中で、飲料水の衛生管理、工業団地での排水処理、農業用水の殺菌など、定量薬注ポンプの必須需要から拡大が見込まれる。同社は中国・香港・シンガポールなどに現地法人を持ち、販売網は整備済みで、今後は現地部品調達比率を高め、コスト面・BCP対応で価格競争力も強化し販売拡大を実行する。
半導体向けはAIサーバやGPU生産の拡大で26/3H2以降、伸びが加速し、27/3期以降高い伸び率が期待されるとした。同社は導体製造プロセスにおける多様な流体制御ニーズに対応するため、複数のポンプシリーズを展開している。マグネットポンプMDMシリーズはフッ素樹脂製のプロセス用マグネットポンプであり、ノンコンタクトシステムにより空運転に強い。特長は「シールレス構造」にあり、磁石の特性を利用して動力を伝達するため、ポンプ室を貫通するシャフトがなく、液漏れが完全に防止できる。
このため強酸や強アルカリなどの危険薬液の外部漏洩を防ぎ、半導体製造におけるコンタミネーションリスクを極めて低く抑えることが可能となる。またフッ素樹脂を標準材質として採用しており、半導体製造プロセスで用いられる高純度薬品や超純水の移送に適している。
さらにシールレスにより発熱による樹脂の溶融を防ぎ、空運転やオーバーロードなどの異常運転を検知しポンプを安全に停止させるポンププロテクターDRNとの組み合わせで、設備機器の破損防止とダウンタイム最小化にも貢献できる。さらに同社のマグネットポンプの進化系として磁気軸受構造と駆動方式を組合せた独自構造の渦巻ポンプ「マグレブポンプ」も注目できる。
インペラを完全に磁気浮上させることで部品同士の接触や揺動を排除し、摩耗やパーティクル発生を防止できる設計担っている。製品としては「MJ-100」を2022年10月3日に発売を開始した。主用途は「表面処理プロセス」「各種装置組込み用」で、半導体のウェットプロセス(洗浄・エッチング・メッキ)、CMPスラリー循環、バルク薬液供給、超純水系などで広く使われるとしており、収益性の高いマグネットポンプの進化系でもあり、先端プロセスでの採用で半導体分野での収益拡大とともに収益率向上にも寄与しよう。このほか、収益性は必ずしも高くないものの、金額ベースで大きいのが洗浄工程で多用される空気駆動ベローズポンプ。
薬液補充ポンプCFDシリーズは、高精度な薬液注入が可能であり、1ショットあたり1mLの分注性能が大幅に向上。これは半導体製造プロセスの強酸・強アルカリ補充、特にウェハー洗浄液の濃度管理に適する。圧縮空気を動力とする安全な空気駆動式であり、強酸、強アルカリ、過酸化水素水などの薬液に対応する高い耐食性を持ち、サイホン防止機構も備えている。FSシリーズは、装置搭載に最適な小型・軽量設計が特徴で、高温・高圧にも対応、薬液供給から洗浄用途まで幅広く利用されている。
心臓部のベローズにR形ベローズを採用し、高圧吐出に耐え、長寿命を実現している。このほか電気駆動式定量ポンプや電磁駆動式ポンプも提供、液体を攪拌することなく一定容積を送液でき、吐出量の再現性や正確な注入が求められるプロセスに活用されている。このようにイワキの半導体事業における強みは、半導体製造プロセス全体をカバーする汎用ポンプメーカーとしての広範なシェアではなく、特に「ウェットプロセス」では高純度・耐食性が求められる特定かつクリティカルなニッチ市場に特化し、高い競争優位性を確立している点にある。
半導体ウェットプロセスポンプ市場は、2025年に約25億ドルと推定され、2025年から2033年にかけて8%の複合年間成長率(CAGR)で成長が予測される。同社は従来の洗浄工程に加え、マグレブポンプなど先端プロセスについての新製品の投入により、平均成長以上の成長が見込め、半導体分野は同社での重要性がさらに高まってこよう。
全体として26/3期は会社予想並みの緩やかな収益拡大が期待され、27/3期は水処理向けの拡大継続、半導体向けの伸び、医療向けの伸びも見込まれ、2ケタ増益が期待される。さらに28/3期についても成長分野の拡大が続き、28/3期中計目標については十分達成可能と見られる。
株価は4月の日経平均調整時に同社株も4/7に1579円の年初来安値更新となったが、その後は日経平均と同じ動きで推移していた。しかし5/14の本決算開示で26/3期増益予想が示され5/17には2683円まで上昇、その後は大きな変化がなく推移していたが、相次ぐ扇状降水帯豪雨などでポンプ関連が上昇したこともあり7/28には2827円の高値をつけている。
現在、26/3期会社予想EPS215.82円に対しPER11.6倍は、東証プライム機械平均PER18.4倍に対し割安感がある。なおタクミナ(6322)の9.4倍、日機装(6376)の8.2倍に対し割高感、鶴見製作所(6351)の12.7倍、帝国電機(6333)14.8倍に対し多少割安となっている。現状、26/3期も緩やかながら増益見通しから5期連続最高益更新期待があり、今後、半導体関連、医療機器関連に成長余地があり、27/3期も最高益更新が見込まれることからポジティブ継続と考えたい。
(図表、写真は25/3期、26/3Q1説明資料、会社HPなどから添付もしくはIRユニバース加工)
*鶴見製作所(6351)、タクミナ(6332)、帝国電機(6333)との比較
(H.Mirai)