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ABC 21 kotakinabal #3 バッテリー産業の持続可能性への取り組み

2025/09/22 09:09
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ABC 21 kotakinabal #3 バッテリー産業の持続可能性への取り組み

2025年9月3日(水)より、第21回アジアバッテリー会議・展示会(21st Asian Battery Conference and Exhibition)がマレーシア・サバ州都であるコタキナバルのSabah International Convention Centreで開催された。
9月4日のセッションでは、製造業全般における持続可能性の取り組みが大きなテーマとなり、環境負荷を抑えた工場運営と、新技術の統合によるエコフレンドリーな生産体制の重要性が示された。

 

鉛バッテリー産業

アジア市場に関してはビッグデータの活用と産業変革を背景に、特に南アジアでの急速な成長が報告され、新たなビジネス機会があると同時に、適応の難しさが課題として浮き彫りとなった。

米国のバッテリー産業政策については貿易法、関税、リサイクル義務、そしてIEC基準遵守の課題が解説された。また、所有権規制が業界クレジット制度やサプライチェーン運営に複雑な影響を及ぼしていることも指摘された。

サプライチェーンにおいては中国依存リスクが依然として高く、原材料調達に関する規制強化や所有権ルールが企業経営の不確実性を増している。さらに、材料科学分野では、二元アルゴリズムやカーボンナノチューブ分散技術などの研究成果が紹介された。これらはバッテリー性能やサイクル寿命の改善に直結するものであり、プロセス制御や構造解析の進展が品質向上の鍵となる。

 

リチウムバッテリー産業

セル電圧や保護性能の向上を裏付ける試験データが示され、耐久性改善が明らかになった。マレーシア、イギリス、アメリカといった国際的製造拠点の活用が強調され、研究と量産体制を結びつける戦略の重要性が確認された。

総じて、会議は政策変化と技術革新に柔軟に対応し、持続可能性を実現しつつ競争力を確保するための継続的な戦略的関与の必要性を呼びかけて締めくくられた。

 

(現在はコンサルタントとして活躍されている古川先生(右から2番目)と交流を図るMIRUの記者)

会議ではMIRUが主催するバッテリーサミットに登壇経験のある古川淳氏(元古河電池所属、現在はコンサルタントとして活躍)と交流を図り、バッテリーに関する以下の知見を共有いただいた。

鉛バッテリーには主に正極板のグリッド合金にアンチモンを添加したタイプと、カルシウムを添加したタイプがある。従来のアンチモン系鉛バッテリーは耐久性や放電特性に優れる一方、自己放電が多く定期的な補水が必要となる。そのため「使い捨て」と誤解されることもあるが、実際には再充電やリサイクルは可能であり、寿命を迎えたバッテリーは回収・再生されている。

日本では1990年代以降、カルシウム系合金を採用したメンテナンスフリー鉛バッテリーが普及しており、乗用車向けではすでに主流となっている。ただし、商用車や大型車両(バスやトラック)では、耐久性や高温環境での安定性を重視し、依然としてアンチモン系を採用するケースが多い。

一方、アジア新興国市場では製造コストの低さやリサイクルの容易さから、依然としてアンチモン系鉛バッテリーが広く使われている。このため、国際市況でアンチモン価格が上昇すると、現地バッテリー産業に直接的な影響が及ぶ。

インドでは近年、鉛バッテリーに加え、産業用リチウムイオンバッテリーの導入が進んでいる。エネルギー貯蔵システム(ESS)用途を中心に、従来ニッケルカドミウム(Ni-Cd)バッテリーが使われてきた分野がリチウムへとシフトしつつある。特に、大型の樹脂筐体に収められた定置用リチウムバッテリーが増加している点は注目される。

世界的に見ると、産業用バッテリーは鉛とリチウムの二本立てとなりつつある。米国のフォークリフト市場はその典型例である。フォークリフトは工場や倉庫で一晩中稼働するケースも多く、従来は鉛バッテリーが中心であったが、充電効率や稼働時間を考慮し、燃料バッテリーやリチウムバッテリーへの転換が進んでいる。そのため、米国の大手バッテリーメーカーは鉛とリチウムの双方を製品ラインアップに組み込む戦略をとっている。

(会場であるSabah International Convention Centreからみる夕日)

9月4日の会議では単なる技術紹介や政策解説にとどまらず、持続可能性と競争力の両立という製造業全体の根幹課題を浮き彫りにしていた。特に、アジアにおける新興市場の伸長、米国の規制変化、そして材料科学の進展は、今後の産業構造を左右する決定的な要素となるだろう。

印象的だったのは、参加者の多くが「適応」と「協調」をキーワードに掲げていたことである。変化のスピードが加速する中、個別企業の取り組みだけではなく、産学官の枠を超えた連携が一層求められている。リチウムバッテリーのみならず、鉛バッテリーの需要は国際的に未だ健在であるため、バッテリー技術や持続可能な取り組みに対して産業界がこれらの知見をどう実装し、次世代エネルギー戦略に結びつけるかが、今後の持続的成長の成否を決めると感じた。

次回の会議は2026年の10月、もしくは11月にアラブ首長国連邦(UAE)を構成する首長国の一つであるドバイで開催される予定とのこと。

 

(IRUNIVERSE MidoriFushimi)

 

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