2025年9月17~19日、幕張メッセにて第24回SMART ENERGY WEEKが開催され、「BATTERY JAPAN:第19回[国際]二次電池展」や「FUSION POWER WORLD:核融合発電ワールド」など多彩な展示が行われた。本稿では「FUSION POWER WORLD:核融合発電ワールド」に焦点を当て、次世代エネルギーとして注目を集める核融合発電について紹介する。
核融合発電とは
近年、再生可能エネルギーの導入拡大が進む一方で、その不安定さを補うベースロード電源として核融合への期待が高まっている。核融合は太陽と同じ核融合反応を利用する発電方式であり、燃料が海水中に豊富に存在する重水素などであること、また核分裂発電のような高レベル放射性廃棄物をほとんど生じないことから、「究極のクリーンエネルギー」とも呼ばれる。
ここでは、原子力発電と核融合発電の違いについて説明する。
原子力発電(核分裂発電)
仕組み:ウランやプルトニウムといった重い原子核を中性子で分裂させ、そのとき出る熱エネルギーで水を沸かし、蒸気タービンを回して発電。
特徴
技術としてはすでに実用化され、世界各国で発電に利用されている。
燃料あたりのエネルギー密度が非常に高い。
放射性廃棄物の処理、安全性(事故リスク)、核拡散の懸念がある。
核融合発電
仕組み:太陽と同じように、軽い原子核(例:水素の同位体である重水素や三重水素)が猛スピードで衝突して、より重い原子核を作るときに大きなエネルギーが発生。このエネルギーを利用して水を沸かし、蒸気タービンを回して発電。
特徴
燃料のもとになる重水素トリチウムは海水中に広く存在するため、燃料資源が豊富。
核分裂に比べて放射性廃棄物が少ない。
炉心暴走のリスクが低く、安全性が高い。
数億度の超高温プラズマを安定的に制御する必要があり、技術的に非常に難しい。
まだ商業化には至っておらず、研究段階。
世界30ヵ国以上が協力する巨大事業、ITER計画

ITER(国際熱核融合実験炉)計画とは、核融合発電の実現を目指す世界最大級の国際共同プロジェクトだ。日本、欧州連合(EU)、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドの7極が参加し、全世界の人口の半分、国内総生産(GDP)の4分の3に当たる巨大な事業で、フランス南部のカダラッシュに実験炉を建設している。
世界各国の企業がITER計画に必要な部品の設計・製作にあたっており、ITERの組み立ては2020年より開始された。日本企業も三菱重工や日立製作所などといった大手を中心に部品を提供している。
ITERの目的は、核融合反応によって「投入したエネルギー以上のエネルギーを安定的に得られるか」を実証することにある。具体的には3段階の目標が設定されており、まずは核融合をエネルギー源として現実的に利用できるかどうかを判断する上での重要なマイルストーンとなるGoal01の達成を目指している。
Goal 01:核融合燃焼の実証
実際の燃料で核融合反応を起こし、入力エネルギーの10倍以上の出力エネルギーを300〜500秒間持続させる。
Goal 02:炉工学技術の実証
核融合による燃焼に必要な工学技術を実証する。
Goal 03:核融合エネルギーの取り出し試験
核融合による燃焼で発生する核融合エネルギーから熱を取り出す試験を実施。また、燃料であるトリチウムの自己補給を行うための試験も実施。
日本の取り組み

日本はITER計画の7極の一員として主要機器の製作や技術開発を担っており、量子科学技術研究開発機構(QST)が、日本におけるITER計画の中核的な推進機関としてその実務を統括している。具体的には、世界最大級の超伝導コイルであるトロイダル磁場コイルの製作、真空容器の一部供給、超伝導導体の開発など、日本が得意とする高精度・高信頼性の技術を背景に重要な機器を担当している。また、国際的なプロジェクトであるITER機構との窓口となり、設計調整や工程管理、品質保証などを国際基準に沿って進める役割も担っている。さらに、国内の大学や研究機関、産業界と連携しながら、ITERでの成果を将来の核融合炉実証や商用化に結び付けることもQSTの使命とされている。このようにQSTは単なる部品供給者にとどまらず、日本の科学技術力を結集してITER計画を支える中核拠点としての役割を果たしている。
建設は難航しつつも進展しており、真空容器や超伝導コイルといった主要機器の組み立てが進められているとのこと。日本企業も真空容器の一部製作や超伝導導体の供給を担うなど、基幹技術の分野で重要な役割を果たしている。ITERの成果は、将来的な商用炉開発や次世代エネルギー戦略に大きな影響を与えると見られており、その進捗に産業界や研究者からの注目が集まっている。
ITER計画は、フランス・カダラッシュで建設が進む世界最大規模の実験炉であり、核融合の商業化に向けた実証段階として国際的に注目されている。各ブースでは、その建設進捗や技術課題、さらに日本企業が担う部材・装置開発の役割についても詳しく紹介され、多くの来場者が足を止めていたのが印象的だった。
核融合は依然として「未来のエネルギー」と呼ばれる段階にあるが、会場に並んだパネルや模型からは、研究が着実に実を結びつつあることが伝わってきた。展示ブースを回るうちに、産業界におけるITERへの関心の高まりを感じつつ、「実用化は遠い未来の話」という従来のイメージが少しずつ変わっているように思えた。
後編では、日本企業がITER計画にどのように参画し、どのような技術で存在感を発揮しているのかを紹介したい。
(IRUNIVERSE Midori Fushimi)