イランの「焦土作戦」は、米国とイスラエルによる攻撃が自国の存立を脅かすものと認識したことへの対抗措置とみられる。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった米国の同盟国のインフラを攻撃することで、テヘラン当局は、世界経済にとって「体制転換(レジーム・チェンジ)」の代償が耐え難いものになることを示唆している。
2026年3月初旬、米国およびイスラエル軍がイランの標的に対して共同攻撃を開始し、これに呼応してイランが湾岸地域全域で広範な軍事報復に出たことで、中東情勢は危険な新局面を迎えた。最も重大な進展として、イラン革命防衛隊(IRGC)は戦略的要衝であるホルムズ海峡の事実上の閉鎖を宣言した。さらに、イランによる攻撃は湾岸主要国の石油・ガスインフラを標的にしており、これらの動きが相まって世界のエネルギー市場を揺るがし、供給フローの先行きに深刻な懸念を抱かせている。
なぜホルムズ海峡が重要なのか
ホルムズ海峡は、世界で最も重要な海上交通のチョークポイントの一つである。ペルシャ湾とアラビア海を結び、世界の海上輸送原油および液化天然ガス(LNG)の約20%が通過するゲートウェイとして機能している。湾岸の主要産油国は、この狭い海峡を頼りにアジア、欧州、そして世界各地の市場へエネルギーを供給している。この海峡での混乱は、世界のエネルギー供給と価格の安定に対して直接的な圧力となる。
革命防衛隊の声明はあるものの、この閉鎖が国際的に認められた封鎖という意味で法的拘束力を持つわけではない点には注意が必要だ。しかし、通過を試みるいかなる船舶も火の海に沈めるという警告を伴うこの宣言は、海上交通量を大幅に減少させ、海運会社に安全上の懸念からルート変更や通航停止を促すという実質的な効果をもたらしている。

攻撃を受けるインフラ:ラス・タヌラ、カタールのLNGプラント、その先へ
ホルムズ海峡の閉鎖が輸送路への脅威であるならば、湾岸エネルギーインフラへの直接攻撃は供給源そのものへの脅威である。今回の攻撃の規模と特定性は、これまでのタンカーへの嫌がらせの段階を超え、世界のエネルギー貿易を支える生産・輸出施設を意図的に標的にした危険なエスカレーションを意味している。
3月2日、日量55万バレルの処理能力を誇り、同国最大のオフショア原油積み込みターミナルを擁するサウジアラビアのラス・タヌラ製油所が、イランのドローンによる攻撃を受けた。サウジアラムコは、同施設で火災が発生し、予防措置として操業を停止したことを認めた。これとは別に、アラムコは今週初めに構造的な被害を受けた近隣のジュアイマ・プラントからの液化石油ガス(LPG)輸出をすでに停止していた。ラス・タヌラは単なる製油所ではなく、日本を含む世界の顧客に対する輸出公約を果たすためのサウジアラビアの能力の要である。
カタールでは、影響はさらに深刻だ。3月2日、イランのドローンがカタールエネルギーの操業施設2か所(ラス・ラファン工業都市およびメサイード工業都市)を攻撃した。世界供給の約20%を占める世界最大のLNG生産者であるカタールエネルギーは、LNGおよび関連製品の生産を停止したことを発表した。ラス・ラファン・コンプレックスだけでも、年間総生産能力7,700万トンを誇る14のLNG生産ライン(トレイン)が稼働している。
米国とイスラエルの攻撃後、エスカレーションへ
イランによる攻撃は、米国とイスラエルがイランの軍事インフラを標的にし、イランの最高指導者ハメネイ師を殺害した一連の軍事攻撃を受けて行われた。2月28日、米国とイスラエルは「オペレーション・エピック・フューリー(Operation Epic Fury)」の下、イランの軍事施設、核関連施設、および指導部を標とした組織的な攻撃を開始した。イランはこれに対し、カタール、バーレーン、クウェート、UAEにある米軍基地へのミサイルやドローンによる攻撃、さらにイスラエル領土への直接攻撃で応じた。
こうした状況下、海事当局は海峡周辺での軍事活動の活発化を確認しており、商船に対して可能な限り当該海域を避けるよう促している。 最初の攻撃から数時間以内に、革命防衛隊は商船に対して警告の放送を開始し、海峡を事実上の立ち入り禁止区域とした。船舶追跡データによると、タンカーの交通量は約40%から70%減少しており、原油タンカーやLNG船を含む150隻以上の船舶が、通航を試みることなく湾岸の公海上で停泊している。海峡付近では3隻のタンカーが飛翔体の直撃を受け、オマーン沖ではそのうち1隻が炎上した。
主要海運会社は即座に対応した。マースク、ハパックロイド、MSC、CMA CGMはすべて、追って通知があるまでホルムズ海峡の通航を停止し、喜望峰経由へのルート変更を開始した。これにより航海日数は10日から15日増加し、輸送コストは大幅に上昇している。海上戦争リスク保険の引き受け手も、ペルシャ湾に入る船舶への補償を停止し始めており、交通の停滞に拍車をかけている。
市場の即時反応
船舶に対する革命防衛隊の威嚇的な姿勢は、すでに市場に影響を及ぼしている。
- 原油価格の急騰: 危機発生直後、北海ブレント原油は最大13%上昇し、1バレルあたり82ドルに達した。Kplerのシニアエキスパートは、さらなる大幅な価格上昇を予想している。
- 輸送の停止: 一部のタンカー運航業者や商社は、安全面や保険条件の明確化を待ち、海峡を通過する原油、燃料、LNGの出荷を停止したと報じられている。専門家は「最も差し迫った圧力は物流、戦争リスク保険、運賃経済、そしてホルムズ海峡周辺での潜在的な混乱であり、原油に関してはアジアが最も大きなリスクにさらされている」と警告している。 市場のボラティリティは金融市場全体にも波及しており、投資家のリスク回避姿勢が他地域の株式やコモディティにも影響を与えている。
危機に瀕する世界のエネルギー貿易
世界の石油・ガス貿易の極めて大きな割合がホルムズ海峡を通過するため、混乱が長期化すれば世界経済全体に波及する恐れがある。日本や韓国、多くの欧州諸国など、中東エネルギーへの依存度が高い国々は、価格上昇やサプライチェーンのボトルネックに対して特に脆弱である。 たとえ閉鎖が完全な形で強制されなくとも、リスクが高まっているという認識だけで商業的な計算を変えるには十分である。海運各社は保険コストや紛争リスクを最小限に抑えるために海峡を避ける可能性があり、それがルート変更や運賃の上昇を招くことになる。
不透明な期間と今後のリスク
現在の緊張がいつまで続くのか、あるいはこの「閉鎖」が事実上の長期的な混乱となるのかは依然として不透明である。アナリストは、世界的な交通の完全な停止には軍事および文民当局間の持続的な強制力と協力が必要であり、それは戦時下であっても達成が困難なものであると指摘している。 しかし、革命防衛隊による脅威と地域的な軍事紛争が続く限り、エネルギー市場は安全保障条件のさらなる悪化に対して極めて敏感な状態が続く可能性が高い。 米国とイスラエルの攻撃を受けた、イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡の閉鎖宣言は、近年の世界のエネルギー貿易に影響を及ぼす最も深刻な地政学的エスカレーションの一つである。たとえ閉鎖が絶対的なものでなくとも、輸送、エネルギー価格、および市場の信頼感への影響はすでに現実のものとなっている。
Sources:
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ゴヌルタス メーメット
トルコ・イスタンブールを拠点とするフリーランスジャーナリスト。国際関係および外交を中心に執筆しており、特に日土関係、軍事問題、民主的ガバナンスを主なテーマとしている。趣味はランニング、語学学習、旅行。
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