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緊迫化する中東情勢と日本経済への波及効果:エネルギー高騰がもたらす産業サプライチェーンへの打撃と経済安全保障の再考

2026/03/03 19:37 FREE
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緊迫化する中東情勢と日本経済への波及効果:エネルギー高騰がもたらす産業サプライチェーンへの打撃と経済安全保障の再考

2月28日に始まった米国・イスラエル対イラン戦争だが、今のところ終息の兆しは見られない。ロシアのプーチン大統領がアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、サウジアラビアの首脳らと意見交換し、周辺各国に戦火が拡大することへの懸念を表明し、UAE大統領との会談では、同国とイランの仲介役を担う姿勢も示した。但し、ロシアは友好国イランへの具体的な支援には乗り出していないのが現実だ。

イラン情勢の緊迫化は、世界の原油輸送の要衝であるホルムズ海峡の通航リスクに直結する。日本は原油輸入の9割超を中東地域に依存しており、このボトルネックの機能不全は日本経済にとって最大のテールリスクである。

仮に原油価格が1バレル130〜140ドル水準で高止まりした場合、輸送コストの増大と広範な物価上昇を引き起こし、日本の実質GDPを年率で0.65%〜1.0%程度押し下げるとの試算も存在する。景気後退とインフレーションが同時進行するスタグフレーションのリスクが顕在化しつつある。ただし、日本は現在約254日分の国家・民間石油備蓄を有しており、物理的な供給途絶による即時の経済活動停止という最悪のシナリオは当面回避される公算が大きい。

原油価格

  • WTI原油価格の急騰: 指標となる米国産標準油種(WTI)の先物価格は、3月上旬の取引で一時1バレル=75ドル台を記録。これは前週末(2月末)の終値と比較して10%〜12%超の大幅な上昇であり、昨年(2025年)の夏以来、約7〜8ヶ月ぶりの高値水準となっている。足元でも70ドル台前半から半ばで推移している。

(NY原油(WTI)相場の推移)

  • ブレント原油も上昇: 欧州の指標であるブレント原油先物も同様に急伸し、1バレル77ドル〜79ドル台をつけている。
  • 上昇の主な背景: 米国・イスラエルによるイランへの攻撃やイラン側の報復措置に加え、世界の原油輸送の要衝であるホルムズ海峡での船舶航行への警告、タンカーへの攻撃報道などが相次ぎました。これにより、中東からの物理的な「供給途絶リスク」が市場で急激に意識され、買いが膨らんだ。地政学的リスクが極めて高まっているため、市場は引き続き関連ニュースに神経を尖らせており、価格の乱高下が起きやすい予断を許さない状況である。

日本総合研究所は、「原油価格が1バレル当たり67ドル(約1万円)から120ドル(約1万9,000円)まで上昇し、最悪の場合、国内総生産(GDP)が約3%減少する可能性がある」と推計しているが、これは真に最悪のシナリオだろう。

ホルムズ海峡

イランの軍事精鋭部隊「革命防衛隊」は、石油輸送の要衝であるホルムズ海峡を封鎖し、通過しようとする船舶を攻撃すると警告した。イランの革命防衛隊の司令官は3月2日、イランとオマーンの間に位置するホルムズ海峡について「通過を試みる船舶はすべて焼き払う。この地域から一滴の石油も流出させない」と警告した。

歴史的にイランは何度も「海峡封鎖」を口にしてきたが、国家の収入源である原油輸出を止める「自殺行為」でもあるため、またこれまでは実行を避けてきた経緯がある。

ホルムズ海峡は、その戦略的重要性のわりに驚くほど狭いのが特徴で、数値で言うと、最も狭い場所(最狭部)の幅は約33kmしかなく、距離感としては東京駅から横浜駅まで(直線距離で約28km)より少し長いくらいだ。

通常ホルムズ海峡を通航する船舶は1日60隻程度だが「昨日は5隻だった」との海外報道もある。

海峡は封鎖されているのか?

ホルムズ海峡の完全封鎖には機雷敷設が最も有効であるが、目下の情報を総合するとその事実は確認されていない。イランの「はったりで」で済めばよいのだが。機雷は、いったん敷設されると除去(掃海)に数週間から数ヶ月を要するため、経済的なダメージが最も大きい封鎖手段と言われている。

コンテナ船社、中東ブッキングを停止

折角のスエズ通航再開という船社の悲願もここに来て振り出しに戻ってしまった。仏CMA CGMは、ペルシャ湾や紅海、一部東アフリカ港湾向けの貨物に対して緊急紛争割増金(ECS)を3月2日付から適用し、料金は20フィート型2000ドル、40フィート型で3000ドル。また、ハパックロイドは同じくアラビア湾、ペルシャ湾発着貨物に対して戦争リスクサーチャージ(WRS)を提供し、金額は20フィート型のドライコンテナが1500ドル、リーファー(冷凍)コンテナが3500ドル。

CNNなど複数の海外報道によると、中東最大のコンテナ港であるアラブ首長国連邦(UAE)のジュベルアリ港(取扱高は世界で第9位)は1日午前、イランからのミサイル攻撃で3月1日時点で閉鎖され、全ての業務が停止しているという報道だ。同港はインドや東アフリカ、欧州を結ぶハブ港として機能しており、国際物流の大幅な混乱につながる恐れもある。

開戦3日後のポイント

ホルムズ海峡通行はどうなるのかは、今後の戦闘状況により明らかになると思われる。上記のように5隻が通過している事実がるのは興味深い。原油高もそう急激、極端には上昇しないのではないかというのが筆者の見解である。やはり、米軍による今後の「壊滅的」な攻撃によりイランが立ち直れないほどの被害を被るのではないだろうか。

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

 

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