2025年9月25日にMIRUが主催した「第12回バッテリーサミットin TOKYO」に東京大学フォーミュラファクトリー所属の石田大耀氏と加藤准也氏が参加。その縁で、10月17日に東京大学・本郷キャンパスにあるフォーミュラファクトリーを取材する機会を得た。今回は東京大学で学生たちが挑むEV開発の現場と、その挑戦の最前線を紹介する。
学生フォーミュラとは
学生が自らの手で小型レーシングカーを設計・製作し、その性能や企画力、ものづくり力を競う「学生フォーミュラ大会」。この大会は「教室の中だけでは優秀なエンジニアが育たない」ことにいち早く気づいた米国が、1981年に「ものづくりによる実践的な学生教育プログラム』としてFormula SAE®を開催したことに始まる。
日本では2003年に自動車技術会の主催で「全日本学生フォーミュラ大会」が初開催され、以来、国内外の大学チームが集う学生エンジニアの登竜門として発展を続けている。
学生フォーミュラの競技は「静的審査」と「動的審査」の2部構成で行われる。静的審査では、車両の設計の合理性や安全性(Design)、コスト管理能力(Cost)、そして製品企画や事業提案力(Presentation)が評価される。
一方、動的審査では実際に製作したマシンを走らせ、加速性能(Acceleration)、旋回性能(Skid Pad)、総合的な走行性能(Autocross)、耐久性能(Endurance)などを競う。単に速さを追うのではなく、設計思想や信頼性、総合的な完成度が問われるのが学生フォーミュラの大きな特徴だ。
2000年代後半には次世代モビリティ技術への関心の高まりを背景に、EV(Electric Vehicle)部門が設立。日本では2012年にEVクラスが導入され、モーターやバッテリー、インバーターといった電動化技術を自ら設計・統合する力が試されている。
EV部門では電気駆動特有の制御設計や安全マネジメントが求められるため、学生たちは新しいエネルギー技術を学びつつ、実践的な開発力を磨きながら挑戦している。世界的なEV需要の波は、実践的な学校教育にも押し寄せている。学生フォーミュラのEV部門は、まさに未来のエンジニアを育成する現場といえるだろう。
東京大学フォーミュラEVチームの挑戦:エンジンからEVへ
東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)は2002年6月に、草加浩平助教授(当時)の呼びかけで発足。“Easy Drive”というコンセプトのもと、スズキ・スカイウェイブ650のエンジンを搭載した車両を開発し、2003年に開催された第一回全日本学生フォーミュラ大会では総合3位という高成績を収めた。
ガソリン車からEVへの転換は2021年に始まる。「東大にEVを開発できる学生主体のチームを残したい」という草加非常勤講師の思いから、ガソリン車チームと並行して「東京大学EVフォーミュラチーム(UTEF)」が立ち上がった。当初は10名ほどのメンバーでモーターやバッテリーの選定・入手などを行い、EV部門への出場を目指して活動を開始した。
ガソリン車からEVへ転換する背景には、ガソリン車チームが使用していた「スカイウェイブ650」の生産終了という問題があった。当時を知るチームメンバー、嶋宏樹氏(工学部機械情報工学科4年)は「エンジンを変更するとなると、ノウハウやデータがすべてリセットされてしまう。それならば、隣にあるEVチームと組んで新しい挑戦をした方がいいのではないか、という話になった」と振り返る。
2021年に発足したEVチームは当初、車両もない準備段階であり、ガソリン車チームとは立場が大きく異なっていた。しかし両チームの度重なる話し合いを経て、2023年の大会からは正式に統合され、「東京大学フォーミュラEVチーム(UTFF)」として出場することとなった。
EVチームはモーター、バッタテリー、インバーターのシステムには強いがフレームやサスペンションなどの知識やノウハウがないのが課題であったため、車両制作の知識や経験のあるガソリン車チームとの統合はEV車製作への大きな一歩であったという。
一方で、エンジンからEVへの転換期には「エンジン専門だった上級生が離れていく」という苦い現実もあった。博士課程に所属し社会人経験もある加藤准也氏(大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程3年)は「実際の企業でもエンジンから電動化への転換には大きな抵抗がある。それを学生レベルで体験できたのは貴重な経験。」と語る
さらに加藤氏は、「この統合を機に、機械の学生も電気を、電気の学生も機械を扱える“フレキシブルな人材”になってほしい」と強調する。分野横断の力こそ、これからの技術者に欠かせない能力であるという信念だ。

EV車製作「0→1」の挑戦を支えた学生たち
EVプロジェクト初期のキーパーソンの一人が、嶋宏樹氏だ。彼はステアリングからバッテリー設計、フレーム設計まで幅広く手掛け、バッテリーもリチウムイオンセルを組み合わせて自作している。近年、リチウムバッテリーの発火事故が多く報じられるようになり、学内でも安全性に関する議論が活発化したという。そのため、バッテリーを新調する際には学内での安全基準の調整に時間を要し、購入から設置までに1年を費やしたという。バッテリーは冷却ファンを用いた空冷システムと一緒にマシンに搭載されている。

EVチーム初期メンバーの本澤悠介氏(工学部航空宇宙工学科4年)は、「入った当初はパソコンの操作もできず、保存と上書き保存の違いもわからないレベルでした」と当時を振り返る。そんな彼を支えたのが、回路設計担当の加藤准也氏だ。
「まず“作る人”を生み出さなきゃと思って、本澤くんに声をかけました。好奇心があって素直だったので、すぐ吸収してくれた」と語る。
彼が最初に完成させたのは、バッテリー監視用の電圧モニタ基板だった。これをきっかけに他の学生にも技術的な刺激が広がり、EVチームの技術力は加速度的に向上していったという。適切なタイミングでの“ひと押し”があれば、学生たちは持ち前の好奇心で自ら学び、成長していく。これはエンジニアとしての基礎力であり、将来の大きなアドバンテージになるはずだ。
また、EVチームではスポンサー獲得や広報活動も学生が主体的に行っている。最初のスポンサーは加藤氏が参加したCQ出版社のモータ制御講座に参加したことがきっかけで、編集長がチームを訪問し、支援が決まったという。
「最初は私が渉外の手本を見せましたが、今では学生たち自身が中小企業の社長さんに直接交渉するなどしてスポンサーを獲得しています」と加藤氏は語る。
こうした“営業活動”を通じて社会との接点を得ながら、学生たちはエンジニアリングだけでなくマネジメントやプレゼンテーションの力も身につけている。まさにEVプロジェクトは「学生ベンチャー企業」と呼ぶにふさわしい存在だ。
東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)が挑むEV開発 学生フォーミュラが育む技術と実践力(後編)に続く
(IRuniverse Midori Fushimi)