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東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)が挑むEV開発 学生フォーミュラが育む技術と実践力(後編)

2025/10/30 10:52
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東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)が挑むEV開発 学生フォーミュラが育む技術と実践力(後編)

東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)が挑むEV開発 学生フォーミュラが育む技術と実践力(前編)からの続き。
前編では学生フォーミュラの概要や、東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)EV部門の発足の経緯について綴ったが、ここではUTFFのEV技術について触れる。

技術面の特徴と挑戦

東京大学フォーミュラファクトリーEVチームの最大の特徴は、左右独立駆動(トルクベクタリング)を実現した2基のモーター構成にある。モーターはDENSOから学生フォーミュラ用として提供されたもので、各37kWのモーターとインバータをそれぞれ独立制御し、ECUで統合して制御している。レギュレーションで定められた最大出力80kWに対し、合計で74kWを発揮する。

駆動方式は後輪駆動。車両重量は約250kgで、ドライバー搭乗時には320kgとなる。そのうち約66%の荷重が後輪にかかる設計で、後輪駆動のトラクションを最大化している。前後の重量バランスが大きく異なるためタイヤサイズも前後で異なり、フロントには16-6インチ、リアには20.5-7インチを採用している。

モーターとインバーターをそれぞれ2基搭載する構成は、国内の大学チームでは珍しい。だがこの構成により、EVならではの強みであるトルクベクタリングを活かし、左右のトルク配分を自在に制御することで、コーナリング性能の向上を狙っている。

課題は、ディファレンシャル機構を模擬する制御設計だ。理論上は左右同トルクでも走行可能だが、限界領域ではより最適なトルク配分を探索する必要がある。チームでは現在も、この制御アルゴリズムの改良に取り組んでいるとのことだ。

左:バネ下に設置された駆動モーター。左右にそれぞれ1基ずつ搭載されている 右:モーターに合わせてインバータも2基搭載されている

ガソリン車からEVへと転換する際には、多くの技術的な課題に直面した。特にドライブシャフトは、既存構造ではモーターを搭載できなかったため、新たに加工が必要となった。開発初期には材料選定に関する知識が十分でなく、強度の不足した素材で試作してしまい、破断などのトラブルも発生したという。こうした失敗を通じて少しずつ知識と経験を積み重ねながら、EVの完成度を高めてきた。

マシンフレームにも改良が重ねられている。学生フォーミュラ日本大会は2023年まで静岡県掛川市の小笠山総合運動公園(エコパ)で開催されていたが、2024年大会からはAichi Sky Expo(愛知県・中部国際空港セントレア隣接)に会場が移った。エコパのコースは比較的フラットで傾斜が少なかったため、チームではリジッドサスペンションを採用していた。しかし、セントレアのコースは路面に細かなうねりや段差があるため、これに対応する形でダブルウィッシュボーンサスペンションへと改良を加えたという。

マシンは毎年フルモデルチェンジするのではなく、代々の学生が少しずつ改良を重ねながら完成度を高めている。小さな改良と検証の積み重ねこそが、チームの技術力と信頼性を築いてきた原動力となっている。

 

左:エコパ時代に使っていたマシンフレーム 右:当時の路面状況に合わせてリジッドサスペンションが採用されている

EV作りの知識やノウハウが少しずつ積み重なり、新たな挑戦もしているという。2025年シーズンでは、チーム自作のロガー(データ収集装置)を搭載。テレメトリー通信を活用し、外部からパラメータ変更も可能になった。

 

左:破断してしまったドライブシャフト 右:今年から新たに取り付けた自作のロガー

2025シーズンの成績とこれから

2025シーズンのテスト走行では、「アクセルを全開にするとマシンが停止する」というトラブルにも見舞われた。原因は、強い加速Gによってドライバーの体が後方に押し付けられた際、ドライバー後部のファイアーウォールが制御用のバッテリーの端子部に接触し、ショートが発生したことにあったという。

当初は原因の特定に苦労したが、作業中「この辺を触るとピリピリする感覚がある」との報告があり、そこから問題の核心にたどり着いた。チームでは「作業中の小さな違和感をもっと真摯に受け止めていれば、早期に原因を突き止められたはず」と振り返る。

ドライバー背後の銀色部分がファイアウォール。加速時にドライバーの体がファイアーフォールに押し付けられ、制御用バッテリーを圧迫したことでショートが発生した。

2025年大会では、東京大学フォーミュラファクトリーはベスト車検賞、日本自動車工業会会長賞、プレゼンテーション1位、アクセラレーション3位、エンデュランス2位を獲得し、総合ではEVクラス4位に入賞した。

一方で、学生フォーミュラEV部門はバッテリー廃棄問題が依然として課題として残る。多くの大学では安全な処理ルートを確立できておらず、東京大学フォーミュラファクトリーも同様だ。しかし、他大学での廃棄事例も出てきているとのことで、この事例を参考に東京大学フォーミュラファクトリーも今後の対応を検討していく予定だ。

また、「第12回バッテリーサミットin TOKYO」に参加した教養学部文科二類2年の石田大耀氏は、2026シーズンのチームリーダーに就任する。文系学部の学生としてチームを牽引しつつ、今後もこうしたサミットに参加し、知見を深めていきたいと意気込みを語っている。

 

筆者は10年以上前の大学・大学院時代に学生フォーミュラに青春を捧げており、今回の取材は非常に興味深いものとなった。筆者の学生時代はガソリン車で大会に出場していたが、東京大学フォーミュラファクトリーの学生たちが、自らEV製作のための環境や技術を構築してきたという話を聞き、学生フォーミュラは単なる“ものづくり競技”にとどまらず、チーム運営や課題解決力、さらには社会で通用する実践力を育む貴重な場だと改めて感じた。

取材を通じて特に印象的だったのは、限られた時間と予算の中で試行錯誤を重ねながら、仲間と共にEVを形にしていく学生たちの真剣な姿勢だ。東京大学フォーミュラファクトリーの4年生たちは、まさにベンチャー企業の創業メンバーのような存在で、EV化や新技術の導入といった時代の変化にも柔軟に挑む。自ら考え、手を動かし、走らせて確かめる、この一連のプロセスこそ、エンジニアに必要なスキルであり、社会に出てから大きなアドバンテージになるだろう。

とはいえ、バッテリー廃棄などの課題は依然として残されており、今後は自動車メーカーや電池メーカーのサポートも必要になるだろう。学生たちが社会で実際に問題となっている課題に直面し、解決の糸口を模索する様子は非常に興味深く、今後の取り組みを注視したい。

 

 

(IRuniverse Midori Fushimi)

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