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2025年ステンレス市場最新動向:BIR会議で発表されたアジア・欧州・米国の視点

2025/10/30 14:31
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2025年ステンレス市場最新動向:BIR会議で発表されたアジア・欧州・米国の視点

国際組織 BIR(Bureau of International Recycling)の秋季会議が、2025年10月27日~28日にタイ・バンコクで開催された。会議2日目のステンレス鋼・特殊合金委員会のセッションではOryx Stainless BV 社(オランダ)の Joost van Kleef 氏がチェアマンを務め、世界のステンレス市場を取り巻く不確実性や、グローバル化から地域化への転換といった潮流について、各地域の専門家が最新の分析を共有した。

セッションの冒頭では台湾に拠点を構えるHSKU Raw Material社 のCEOであるVegas Yang氏が、「BIRワールド・ミラー」について報告。Yang氏は世界のステンレス市場が引き続き「挑戦的かつ不確実な」環境にあるとし、中国市場の停滞を指摘した。また、関税戦争の影響が長引き、内需は低調で在庫水準も高止まりしているという。一方、米国市場は50%の輸入関税の効果により国内メーカーが保護されており、国内生産能力の稼働率が80%を超える健全な状況を維持していると報告した。特殊合金分野については、航空宇宙および産業分野から10年先までの受注が確保されており、長期的な成長が期待できるとしている。

アジア市場の分析では、台湾、日本、韓国、中国、インドネシア、インドの動向が取り上げられた。台湾ではAIチップ関連需要の拡大がステンレス需要を下支えする一方で、電力不足と半導体優先政策が製造業の制約要因となっている。日本市場は廃ステンレス価格が比較的安定して推移しており、韓国は第3四半期を通じて平均的な需要を維持している。インドネシアではニッケル関連製品の競争力が引き続き強みであるが、政府規制の厳格化が進んでいると指摘した。

欧州市場に関しては、2026年1月に導入が予定される炭素国境調整メカニズム(CBAM)が注目された。Yang氏はCBAMが炭素排出削減を目的とした制度であり、原則として欧州のスクラップ産業には好影響をもたらすと評価する一方、導入に伴う不確実性や事務負担の増大が懸念されると述べた。

続いて、IRuniverseとメディアパートナーを結んだインドのメディアBigMint社のCEOであるDoruv Goel氏がインドのステンレス産業の成長と変化について発表。インド政府が国内ステンレス産業を守るための施策を強化しており、輸入スクラップへの依存を減らすためにNPI(ニッケル銑鉄)など代替原料の活用が進むと説明した。ステンレススクラップの年平均成長率は8.6%と高水準にあるが、NPIや他の合金成分の生産はそれを上回るペースで拡大しているという。

インドの一人当たりステンレス消費量は2030年までに現在の3kgから5.6~5.8kgへと増加する見通しで、建設・輸送分野での需要拡大が背景にあるため、Goel氏はインド国内で発生するステンレススクラップは非常に限られており、今後大幅に増加する見込みはほとんどない」と述べた。
 

 

セッションでは発表者に加え、他のパネラーも登壇し、発表の合間にそれぞれの意見を展開した。リサイクル業界団体ReMAのチーフエコノミストであるEmily Sanchez氏は、米国からの視点として、今後しばらくの間は世界の貿易環境がより制限的になるとの見方を示した。中期的には貿易の自由化が進みにくく、理性的な市場に戻るには時間を要すると指摘。輸出ライセンスの義務化や輸出禁止、国内加工業者優遇制度などが複雑に絡む現状を「非常に困難」と表現し、政策立案者がリサイクル原料市場と一次資源市場の違いを十分に理解していないため、政策の意図と実際の効果にズレが生じていると説明した。

さらに、脱炭素化や循環型経済の推進というグローバルな流れはリサイクルステンレスにとって追い風となる一方、各国で進む資源ナショナリズムは原料の囲い込みリスクを高めていると述べた。こうした貿易制限は報復措置を誘発し、国際市場の分断や断片化を招く可能性があるとして警鐘を鳴らした。

また、シンガポールに拠点を置くCronimet社の代表取締役である Mahiar Patel 氏は、米国の保護政策がステンレス業界に及ぼす影響について言及した。トランプ前政権期に掲げられた政策の効果はまだ完全には浸透しておらず、政策の実施方法やステンレス加工業者への影響について、多くの企業が模索している段階であるという。短期的には生産能力の拡張に時間がかかるため供給に遅れが生じる可能性があるが、米国内では政策による恩恵が大きく、結果として米国から輸出されるステンレススクラップは減少する見込みだ。

同社は米国にもステンレス加工工場を持つため、 Patel 氏はこれまで米国産スクラップを大量に輸入していた極東諸国は供給面で影響を受ける可能性があると指摘した。

ステンレス鋼の欧州市場に関しては、2026年1月に導入が予定される炭素国境調整メカニズム(CBAM)が注目されている。これに対してYang氏は、CBAMが炭素排出削減を目的とした制度であり、原則として欧州のスクラップ産業には好影響をもたらすと評価する一方、導入に伴う不確実性や事務負担の増大が懸念されると述べた。

 

セッション終了後、ステンレス鋼のアジア市場について発表したVegas Yang氏(左)とチェアマンを務めたJoost van Kleef 氏(右)とアジア産のステンレスにかけられているアンチダンピング関税や欧州で施行予定のCBAM規制について議論する弊社棚町

セッション終了後、弊社棚町がVegas Yang氏とJoost van Kleef 氏に質問。アジア産のステンレス鋼にかけられているアンチダンピング関税や欧州で施行予定のCBAM規制について活発な議論が交わされた(詳細は「アジアと欧州のステンレス市場についてバンコクで聞く」に記載)。

今回のセッションでは世界のステンレス鋼・特殊合金市場が直面する多層的な課題、すなわち貿易摩擦、資源ナショナリズム、脱炭素政策、そして市場の地域化が改めて浮き彫りとなった。登壇者らの共通認識は、循環経済の実現には自由貿易の維持と政策調整が不可欠であるという点にある。

バンコクの会場に漂っていたのは、単なる悲観ではなく「変化を受け止める覚悟」だった。各国の発言者が異口同音に口にしたのは、「不確実性」という言葉。しかしその響きには、未来を悲観する響きよりも、次の一手を探ろうとする現場のリアリティがあった。リサイクル業界は、グローバルからリージョナルへと形を変えつつある。その転換点に立ち会う者として、このセッションが示した対話の重要性を改めて感じた。

 

(IRuniverse Midori Fushimi)

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