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中国、自動車輸出「世界一」でEV主導型イノベーション加速―日本勢は投資比率で課題

2025/12/02 10:45 FREE
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中国、自動車輸出「世界一」でEV主導型イノベーション加速―日本勢は投資比率で課題

中国が自動車輸出とAI(人工知能)投資の両面で「量とスピード」を武器に製造業のイノベーションを加速させている。2024年の自動車輸出は約640万台と前年比約23%増加し、日本を抜いて世界最大の輸出国となった。輸出台数に占めるEV(電気自動車)比率は約4割に達し、25年前半には約半分まで上昇したとみられる。一方、AI関連投資は25年に約8900億元(約1250億ドル)と推計され、世界全体の約38%を占める規模に拡大した。こうした「EV輸出」と「AI投資」の組み合わせが、中国の産業競争力を押し上げる新たなエンジンとなっている。対する日本勢は総額では過去最高水準の投資を続けているものの、売上高に対する投資比率では相対的に弱含む構図が鮮明になっており、電動化とソフトウエア競争での巻き返しが急務となっている。

 

中国汽車工業協会などによると、2024年の中国の自動車輸出台数は約640万台で、輸出額は約1174億ドルに達した。19年時点では輸出台数が約70万台にすぎなかったが、わずか5年間で約550万台超の増加を記録。日本やドイツ、メキシコを上回り、「輸出立国化」の速度を示す代表的なデータとなっている。中国政府は国内市場の飽和を見据え、海外市場開拓を戦略の柱に据えており、東南アジア、中東、欧州、南米など多方面への輸出網を急速に拡大してきた。

 

この急拡大を牽引したのがEVだ。民間会社の調査だが、米マッキンゼーの分析では、24年時点で中国の乗用車輸出のうちEVが約4割を占め、25年前半には約半分に達したとされる。自動車輸出増加分のかなりの部分をEVが押し上げており、従来の内燃機関車中心だった輸出構造から、電動化を前面に押し出す構造へと急速にシフトしている。比亜迪(BYD)、上海汽車集団、吉利汽車など中国メーカーは、低価格帯から高級車まで幅広いEVラインナップを武器に、欧州や新興国市場でシェアを拡大。特にBYDは24年のEV販売台数で米テスラを上回り、世界首位に躍り出たとされる。

 

AIへの投資も中国の産業政策の中核を占める。調査会社セカンドタレントの推計によると、25年の中国のAI関連投資総額は約8900億元で前年比18%増。このうち政府系資金が約3450億元(全体の約4割)で21%増、企業の研究開発(R&D)が約2580億元で22%増とされ、「国家主導と企業」の二重構造でAIに攻めの投資が行われている。中国政府は「次世代AI発展計画」を掲げ、30年までにAI分野で世界の主導的地位を確立する目標を掲げており、巨額の公的資金を投入し続けている。

 

「中国AI投資ブルーブック」によると、24年の中国AI投資案件数は1156件、開示ベースの投資額は約850億元に上った。地域別では北京、上海、深圳など5地域に約85%から90%が集中。サブセクター別では「AI+ヘルスケア」「自動運転・インテリジェントドライビング」「AIインフラ」「大規模モデル」「AIチップ」「産業向けAI」などに案件の約8割が集中し、AIが自動車、医療、製造などリアル産業と結合しつつあることを示している。特に自動運転分野では、百度(バイドゥ)や小馬智行(ポニー・エーアイ)などが都市部でロボタクシーの商用サービスを拡大しており、実用化の速度で欧米勢を上回る場面も出てきている。

 

こうした中国の攻勢に対し、日本勢は総額では過去最高水準の投資を続けているものの、売上高に対する投資比率では相対的に弱含む構図が鮮明になっている。

 

日本の大手自動車7社は、直近年度で設備投資を前年比20%増の約4・3兆円、R&D費を13%増の約3・9兆円と見込んでおり、総額としては過去最高水準に達する。トヨタ自動車単体でも、ある年度の計画で設備投資約2・1兆円、R&D費約1・3兆円と「額の大きさ」では世界有数だ。

 

しかし、売上高に対するR&D比率は概ね4%未満にとどまる見通しで、米テスラや中国の新興EVメーカー(5%から10%前後とされる)より低いという指摘が出ている。日本の自動車大手は既存のハイブリッド車やエンジンビジネスが大きく、ポートフォリオ全体としてのEV・ソフトウエア偏重度は中国勢より低いと見なされやすい。既存事業の高収益性が、逆説的に電動化シフトの速度を抑制している側面も指摘されている。

 

トヨタは24年もグループ世界販売で5年連続首位を維持したが、EV販売台数やラインナップは中国の比亜迪(BYD)など中国勢に比べるとまだ少なく、ハイブリッド依存が高いと報じられている。日本市場全体で見ても、純EVの新車販売比率は欧州や中国より低く、充電インフラや電池サプライチェーンなどで構造的な遅れがあるとする分析が増えている。政府は補助金や税制優遇でEV普及を後押しするが、消費者の購入意欲や充電網整備は欧中に比べ道半ばだ。

 

ただし、中国側にも課題は残る。AI投資額は巨大だが、民間クラウドや基盤モデル企業の収益化が遅く、AI関連の資本支出は25年でも約7000億元(約980億ドル)程度と、米国大手クラウド事業者の合計水準に比べると見劣りするという試算もある。また、生成AI市場については、米国に比べ「民間需要や高単価エンタープライズ案件」の厚みが不足しており、国家主導の投資が自己強化的に続く一方で、収益面のボトルネックが解消しにくいというリスクも指摘されている。過剰投資や重複開発による資源の非効率配分を懸念する声も出始めている。

 

日本勢は高収益と既存技術に支えられつつも、EV・AI分野での投資比率を引き上げ、ソフトウエアや電動化での競争力強化が急務となっている。中国の「量とスピード」に対し、日本がどこまで「質と効率」で対抗できるかが、今後の産業競争の焦点となりそうだ。

 

(IRuniverse T.Morio)

 

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