世界のリチウムイオン電池市場がEVの普及により急速に拡大する中、リサイクル業界は有価価値の高い電池正極材を回収するための効率的かつ持続可能なプロセスの開発に迫られている。中国を拠点とし国際的に事業を展開するBotree Recycling Technologiesは、従来の湿式や乾式法に比べ、はるかに効率が高いとされるダイレクトリサイクルを牽引する存在である。
拡大するリサイクル市場
リチウムイオン電池業界は急激な成長を遂げており、世界生産量は2030年までに5,127GWhに達すると予測されている。これは2023年の生産量の3倍以上である。この拡大は主にEVにより促進されており、現在では電池生産の大部分を占めている。特筆すべきは、LFP(リン酸鉄リチウム)正極が大きな市場シェアを獲得し、2024年には世界の正極生産の50%を占め、中国では実に80%を占めていることである。こうした現状はリサイクルにも大きな影響を与えている。世界のリサイクル市場は2028年までに100億ユーロを超えると予想されている。2030年までには、約110万トンの正極材が使用済み電池から、50万トンが生産スクラップの処理が必要となる。コバルトやニッケルを含まないLFP電池の優位性により、これらの高価値金属の回収に主眼を置いてきた従来のアプローチを再考することがリサイクル業界に求められている。
ダイレクトリサイクル:環境負荷をさらに削減する代替手段
従来の電池リサイクル方法は、主に2つのカテゴリーに分類される。高温を使用して材料を製錬する乾式製錬プロセスと、化学的浸出と精製工程を使用する湿式製錬プロセスである。双方ともエネルギー集約的であり、かなりの温室効果ガスを排出する。
BotreeのグローバルプログラムディレクターであるDr. Liang Zhuが発表した研究結果によると、ダイレクトリサイクル法は従来(湿式・乾式)のアプローチとの比較では、大幅にエネルギー消費を削減する。同様に、ダイレクトリサイクルからの温室効果ガス排出を大幅に抑えることが可能だ。この処理法では、他の処理法に固有であるエネルギー集約的な「溶解と再構成」の過程を回避するからである。ダイレクトリサイクルの基本原理は、劣化メカニズムに対処しながら正極材料の結晶構造を保存することである。LFP材料の場合、劣化は主にカチオン混合とリチウム損失を伴い、結晶構造はほぼ無傷のままである。これにより、LFPは使用済み電池のダイレクトリサイクルに特に適している。対照的に、NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)材料は、粒子の亀裂や相変態を含むより深刻な劣化を経験するため、特に経年劣化したセルからのダイレクトリサイクルはより困難となる。
技術プロセスと結果
Botreeは、特定の原料タイプに合わせた複数のダイレクトリサイクル法を開発している。電池製造中に発生する廃棄物である電極スクラップの場合、同社はアルミニウム汚染が400ppm未満の正極粉末で75%を超える回収率を実証している。参照方法として指定されている同社の「プロセスA」は、アルミニウム集電体からの正極材料の分離、不純物制御、粒度分布回収、および脱磁を伴う最終スクリーニングを含む。社内およびセルメーカーにより実施されたテストでは、回収されたLFP材料が新品材料の98%を超える電気化学性能を達成し、同一の粒度分布特性を持つことが示されている。フルセルテストでは、回収された材料が複数のパラメータにわたって見事に機能することが明らかになっている。電極加工特性、レート特性、温度性能、および直流抵抗はすべて参照仕様を満たすあるいは上回る。また、45°Cと60°Cでのサイクル寿命試験では、回収された正極材で作られたセルがバージン材を使用したものとほぼ区別できない劣化パターンを示している。
使用済み電池の課題
使用済み電池セルからのダイレクトリサイクルは、生産スクラップの処理よりもはるかに大きな技術的課題を提示する。主な課題には、より低い回収率、集電体からの金属不純物が高いレベルで存在すること(アルミニウムと銅)、および正極材料の状態のより大きな変動などが含まれる。Botreeの「プロセスE」は、専門的なセル処理、粉末分離、電気化学的修復、および粒度分布制御を通じてこれらの課題に対処する。使用済みLFPセルから回収された材料のテストは今後の有望な結果を示しており、159.0mAh/gの放電容量と96.6%の初回サイクル効率を示した。ただし、生産スクラップ由来材料よりもわずかに低い。また、アルミニウムと銅の汚染レベルがそれぞれ500-1,000ppmと105ppmと高いままであり、最適なリサイクルには、分離プロセスのさらなる改良が必要であることを示している。
Botreeの戦略的位置
2019年に設立されたBotree Recycling Technologiesは、電池リサイクルの技術リーダーとして急速にその地位を確立している。同社は中国の蘇州にR&D施設を運営しており、ドイツ、シンガポール、米国にビジネスセンターを所有、10カ国で45以上のプロジェクトを展開している。同社の知的財産ポートフォリオには、約55件の特許と4件のPCT(国際特許)が含まれている。加えて多数の特許も現在出願中である。
今後の展望
電池リサイクル市場が成熟するにつれて、ダイレクトリサイクル法は、特にLFP電池および電池の生産スクラップにおいて、重要な役割を果たす可能性も否めない。本技術は、従来のアプローチと比較して、エネルギー消費、排出削減、およびプロセスの簡素化において多数の利点を提供するが、現在の成功はまだ生産スクラップのリサイクルに限定されているようだ。また一部の専門家の間では、電解質は劣化が早いことから、使用済み電池のダイレクトリサイクルには限界があるとの見方もある。今後需要が大きく高まる使用済み電池リサイクルにおける商業規模での成功は果たして可能なのか。今後のBotreeの動きに多いに注目したい。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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