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第66回電池討論会:徳島バッテリーバレイと茨城県中性子ビームラインが描く各自治体の成長戦略

2025/12/09 17:10
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第66回電池討論会:徳島バッテリーバレイと茨城県中性子ビームラインが描く各自治体の成長戦略

2025年11月18日から20日にかけて、愛知県産業労働センター(ウインクあいち)にて「第66回電池討論会」が開催された。電池討論会は、電気化学会電池技術委員会が主催しており、講演会だけでなく企業・自治体・研究機関による展示も行われ、産学官の参加者が活発に交流する場として広く認知されている。

徳島バッテリーバレイ構想に見る自治体主導の蓄電池産業政策


第66回電池討論会の開催地である愛知県では、次世代電池産業の世界市場規模が2050年に100兆円規模へ拡大するとの試算を背景に、地域企業の強みを同産業へ確実に接続していく方針を掲げている(詳しくは「第66回電池討論会:開催地である愛知県が描く『あいち次世代バッテリー推進コンソーシアム』」を参照)。こうした自治体が一体となって蓄電池産業の育成を進める動きは徳島県でも進んでおり、同県は蓄電池関連事業を新たな産業の柱として確立するべく「徳島バッテリーバレイ構想」を立ち上げている。

徳島県の強みは、自治体として蓄電池産業に必要な関連企業が一通り揃っている点にある。セルメーカー・材料メーカー・製造設備メーカー・品質検査設備メーカー・部品メーカーが県内に集積しており、サプライチェーンを一地域でほぼ完結できる体制は全国的にも稀少だ。さらに、電極材料で世界シェアを有する企業や国内有数の蓄電池メーカーを抱えるほか、蓄電池関連の製品出荷額は愛知県を抜き全国4位(2022年度)を記録しており、産業基盤の厚みを裏付けている。

また、国内の蓄電池産業が集積する関西圏に近く、臨海部で物流面の優位性も確保できるという地理的利点も、産業クラスターとしての成長を後押ししている。徳島県はこの構想実現に向け、最大100億円の補助金支援や新規雇用1人につき70万円補助を行うなど、企業立地補助制度を拡充。加えて、高校・高専・大学と連携した座学・実習・工場見学を通じた蓄電池教育、2024年7月の関西蓄電池人材育成等コンソーシアムへの参画、さらに独自のバッテリー教育プログラムの導入など、人材育成と供給の強化にも注力している。担当者は「徳島県を電池産業で盛り上げ、蓄電池で世界を牽引していきたい」と意欲をみせる。

蓄電池産業はEV・再生可能エネルギー・脱炭素社会の進展を見据え、自治体の産業競争力を左右する「戦略産業」になりつつある。徳島県は企業誘致だけでなく、生産拠点・物流・教育・研究開発を包括的に押さえる「産業政策としての蓄電池クラスター形成」を志向しており、その本気度は全国的にも際立つ。今後は国内外企業との協業やリサイクル・セカンドライフ市場への展開といった拡張性が重要な焦点となるだろう。

茨城県、中性子による電池材料解析の産業利用を促進
 

茨城県那珂郡東海村に立地する世界最高性能の研究施設「大強度陽子加速器施設(J-PARC)」。同村は原子力・放射線科学の研究拠点が集積し、先端研究に必要なインフラ、人材、安全管理体制がすでに整っているという地の利があり、高度科学研究の中核として国内外からの注目を集めている。J-PARCは日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で運営し、2008年12月に供用を開始。加速器で生み出した大強度陽子ビームを使って中性子やニュートリノなどを取り出し、物質・生命・宇宙の解明に向けた研究が進められている。

中性子は主に原子核により散乱されるため、原子番号とともに散乱強度が増大するX線では検査しにくい水素やリチウムなどといった軽元素の検査にも優れており、電池材料研究との親和性が非常に高い。さらに中性子は金属部品の評価にも適している。X線では金属に対する透過率が低いため内部の腐食や劣化の観察が難しかったが、電荷を持たない中性子は金属を透過しやすくその内部の検査を可能とする。そのためセルを分解せずに充放電を行いながら電池内部挙動を可視化できるなど、電池開発に向けた新たなアプローチも可能とする。

J-PARCには21本の中性子ビームラインが整備され、このうちビームラインNo.3「iBIX」とNo.20「iMATERIA」は、茨城県が保有する産業界の利用に特化したラインである。特にiMATERIAは、電池材料をはじめ多様な先端材料分野の研究に活用が進んでいる。従来の分析手法では対応が難しかった条件・材質の評価を可能にすることで、茨城県としては電池産業を含め幅広く産業界の競争力強化につなげていく考えとのことだ。

筆者はかつて東海村に数年間居住し、J-PARCを見学した経験がある。しかし、中性子による検査が電池産業にこれほど大きく貢献していることは今回の取材で初めて知った。蓄電池をはじめとする先端材料開発では、実際の稼働条件下で材料内部の挙動を把握できるかどうかが競争力を左右する。今後、中性子を活用した検査の産業応用の成功事例が蓄積されていけば、電池産業の技術革新を加速するとともに、地域経済の発展、電池エコシステムの形成、さらには国内サプライチェーン強化を後押しする可能性は一段と高まるだろう。

 

(IRuniverse Midori Fushimi)

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