国内のステンレス鋼材市場は、メーカーによる連続的な値上げと、依然として力強さを欠く実需の狭間で、「下げ止まり感」と「先安観の払拭」が混在する展開となっている。日本製鉄は12日に2月契約分の店売り304冷延コイル販売価格をキロ当たり20円の値上げとした。5か月連続の値上げだ。
1. 市況価格とメーカー動向
現在、市場の指標となるSUS304系冷延鋼板の市中実勢価格はキロ当たり 530円~550円 で推移しており、相場としては下げ止まりの様相を見せている。

(ここ半年のLMEニッケル相場と国内の304系冷延薄板価格の推移 流通価格(円/kg))
- 日本製鉄(NIPPON STEEL): LMEニッケル相場の上昇を背景に、ニッケル系ステンレス鋼材に対し5ヶ月連続の値上げを実施。2月もキロ20円の値上げに踏み切った。
- 海外勢(POSCO): 韓国POSCO社もこれに追随し、1月にキロ15円、2月には同20円の値上げを発表している(輸入材)。
LMEニッケル相場の上昇がコストプッシュ要因となり、国内外のメーカーは価格転嫁を急いでいる状況だ。
2. 流通・実需の現状と課題
メーカー側の強気な価格姿勢とは裏腹に、国内の需要環境は昨年と同様に盛り上がりを欠いている。
- 市中実勢: メーカー値上げが浸透しきっておらず、一部では依然として安値での販売が散見される。特に「I金属」においては、過度な安値受注が響き、減収減益となる見込みであるなど、価格競争の弊害も表面化している。
- コイルセンターの観測: 流通加工業者の間では、コスト転嫁の難しさが意識されている。「3月、4月になってようやくキロ5円程度に転嫁できるかどうか」といった慎重な見方が支配的であり、メーカー値上げ幅に対する市中価格の追随は遅れる公算が大きい。
3. 輸入ステンレス鋼材に対するAD(アンチダンピング)課税の行方
日本政府が進めている中国・台湾製ステンレス鋼材に対するAD調査のスケジュールと市場の見通しは以下の通りである。
- 調査スケジュール:
- 3月: 中国メーカー2社への現地調査
- 4月: 台湾メーカーへの調査
- 5月(GW明け): 調査結果(仮決定)の発表見通し
- 市場の予想:
- 判定と税率: 「クロ(ダンピング認定)」となる可能性が高く、その場合の関税率は 50%程度 になると予想されている。
- 影響の限定性: 仮に中国・台湾がクロ判定となっても、供給ソースが他国へシフトするだけであり、市場へのインパクトは限定的との見方が強い。具体的には、インドネシア、マレーシア、インド、ベトナム からの輸入流入が増加すると予測され、トータルでの輸入圧力は大きく変わらない可能性がある。
ポストADの供給地図:インドネシア・ベトナム・インド・マレーシアの台頭とリスク
日本政府による中国・台湾へのAD調査が進む中、市場の関心は「次はどこから入ってくるか」に移っている。統計データおよび周辺国の通商事情から、インドネシアとベトナムの動向を分析する。
1. インドネシア:急増する「第3の極」
インドネシアは、中国系資本(青山鋼鉄など)の巨大生産拠点を背景に、日本向け輸出を急激に伸ばしている。
- 輸入量の推移:
- 2024年実績において、インドネシアからの輸入量は前年比 約64%増 と驚異的な伸びを記録した(絶対量はまだ韓国・台湾に及ばないが、増加率はトップクラス)。
- 2025年に入ってもこの傾向は継続しており、特に汎用材(ホット、冷延の一部)において、中国・台湾材の「安値代替」としてのポジションを確立しつつある。
- 市場の評価:
- かつては品質のバラつきが指摘されていたが、近年は日系商社の技術指導や現地資本の設備増強により、日本のJIS規格相当材としての採用実績が増加しています。AD回避のための「最も有力な逃避先」とされている。
2. ベトナム:安定した第4の供給国
ベトナムは既に日本へのステンレス輸入国として第4位(韓国、台湾、中国に次ぐ)のポジションを固めており、既存の商流が太いのが特徴。
- 輸入量の推移:
- コンスタントに月数千トン規模の流入があり、中国・台湾がADで止まった場合、即座に増産・輸出シフトが可能な体制にある。ヨンジングループからのものが多い。
- 「インド」発の玉突き影響(重要):
- ここで注目すべきは、2025年10月にインド政府が「中国・ベトナム・インドネシア」産のステンレス冷延に対してAD調査を開始したという事実。
- 分析: インド市場から締め出されつつあるベトナム・インドネシア産の玉が、行き場を求めて規制の緩い(中国・台湾以外には関税がかかっていない)日本市場へ流れ込んでくる「玉突き現象」が加速する可能性が高い。
3. 今後のシナリオ:いたちごっこの様相
中国・台湾へのAD課税(50%想定)が実施されたとしても、国内市況への影響は限定的となる公算が高い。そのメカニズムは以下の通り。
- 中国・台湾材の減少: AD課税により、直接の輸入は減少する可能性はあるが、それでも日本市場が高ければ関税プラスでも日本への輸出は続くかもしれない。
- 迂回と代替:
- インドネシア・ベトナムの増量: 上記の通り、インド市場からあふれた玉も含め、日本への攻勢が強まる。
- マレーシア・インド: これらも有力な候補だが、物流コストとリードタイムの面で、まずは東南アジア勢(インドネシア・ベトナム)が先行する見通し。
- 結論:
- 「安値の海外材」という構造自体はなくならず、「看板(国)が架け替えられるだけ」という結果になる可能性が高い。
- 国内メーカーにとっては、中国・台湾を止めても、次はインドネシアやベトナムとの価格競争が待っており、市中価格の本格的な押し上げには「実需の回復」が不可欠であると言えよう。
(IRUNIVERSE YT)