マツダは、以前ロータリーエンジンの使い途を、公募したことがあります。自動車エンジンとしては解決困難な問題がある中、ロータリーエンジンの特長を活かせる別の用途があるのではないか?という考えです。マツダは自動車メーカーですが、ロータリーエンジンの供給者という立場でもあります。
そこで、誰もが考えるのは航空機エンジンとしての用途です。実は自動車メーカーは、航空機メーカーに憧れることが多いのです。自動車と航空機には共通点が多く、かつ航空機には機械工学のエッセンスとも言うべき性格があるからです。飛行機に憧れ、実現したのはホンダです。トヨタもかつて航空機のレシプロエンジン開発を試みましたが、無許可で改造したエンジンを積んだ飛行機が墜落して死亡事故を起こし、開発を断念しています。
一方、昔から飛行機を作っていた自動車メーカーも幾つかあります。スバルがそうですし、三菱だって今は別の会社ですが、日本を代表する航空機メーカーです。だから、マツダだって航空機または航空機エンジンに参入する素地があります。
米国のウィスコンシン州オシュコシュには、毎年ホームビルト機などが集まる盛大なエアショーが開かれます。参加する自作飛行機には毎年ロータリーエンジンを搭載した小型機が混じります。マツダの13B型か20型を搭載したもので、製作者がロータリーエンジンの小型軽量の特長に魅せられたものだと思います。それらは型式証明を得たものではなく、エクスペリメンタルの資格で飛んでいる訳ですが、いずれにしてもロータリーエンジンを搭載した飛行機は飛んでいます。
しかしマツダがロータリーエンジンを航空機に適用するなら、ただの内燃機関つまりガソリンエンジンでは意味がありません。ハイブリッド化が時代の流れです。
航空機はCO2排出の元凶とされ、とりわけジェットエンジンは目の敵にされています。そこでエアバス社は航空機の電動化の可能性を探り、E-fanという実験機を製作し、英仏海峡の横断にも成功しています。もう20年ほど前の話です。しかしE-fanは、せいぜい一人から四人乗りの小型機で、滞空時間も1時間程度(カタログでは52分)です。エアバス社はより大型で長距離飛行が可能な旅客機の開発を志向しており、それには純粋な電動機では対応できません。E-fanプロジェクトはキャンセルされました。
E-fanで用いられたのは、韓国製のリチウムポリマー電池で、そのエネルギー密度は174Wh/kgでした。これでは全く足りません。
電動航空機を実現するには、おおむね二次電池に最低限300Wh/kgのエネルギー密度が必要であり、それが実現するのは2030年頃とエアバスは予想していました。実は、2030年を待たずに、このエネルギー密度は達成されそうです。電池の世界は派手そうに見えて、地道な技術改善の積み重ねであり、劇的に性能が向上するということは滅多にないのですが、エネルギー密度が改善される見込みはあります。詳しくは、3月17日に開催されるバッテリーサミットで講演されるADEKA社の攪上(かきあげ)氏のご発表をご覧ください。
第13回 Battery Summit in TOKYO 2026年3月17~18日 2 Days! - IRUNIVERSE アイアールユニバース株式会社
しかし、電動飛行機はエアバス社が計画する航空機のコンセプトとは一致せず、キャンセルされたのです。バッテリーに頼る純粋な電動航空機が無理となれば、後はハイブリッド化を考えることになります。既に過去の記事で触れていますが、エアバス社もその子会社であるATR社も、ハイブリッド航空機を将来の旅客機の有力な候補として考えています。
既に、中国では軍用の無人機ですが、ハイブリッド化を実現しています。
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しかし、このハイブリッドエンジンに用いられる内燃機関は、ターボプロップまたはターボシャフトであり、つまりジェットエンジンです。本質的に現在のターボファンエンジンと大きな違いはありません。そして、航空機特有のハイブリッドを困難にする事情があります。
それは回生ブレーキを用いて電力を回収できないことです。せっかく二次電池を積んでいながら、飛行中は充電できないのです。フライトスポイラーを使って減速することは可能ですが、逆噴射はできません(昔、JALのパイロットで一人だけ空中で逆噴射した人がいましたが)。
回生ブレーキを使えるとすれば、着陸後にプロペラのピッチ角を逆にしてブレーキをかける時だけですが、時間的にはごくわずかです。回生ブレーキを使えないということは、ハイブリッド化による燃費改善効果が減るということです。ハイブリッド車を運転される方はご承知でしょうが、ハイブリッド化による燃費改善効果が高いのは、市街地走行です。ブレーキをかけることが少ない高速道路では、普通の内燃機関車に対する優位性がなくなり、むしろ電池とモーターを搭載することによる重量増で燃費は悪化します。そして航空機の飛行は常に高速道路を走行している自動車のようなものです。
それでも航空機メーカーがハイブリッド化を考えるのは、離陸時の大出力時にハイブリッドシステムを活用することで、エンジンの負荷を平準化できることや、騒音、排気ガスを減らせるとの期待からです。
そこで筆者は考えます。
マツダの8C型ロータリーエンジンを活用したハイブリッドシステムを小型航空機に使うのはどうでしょうか? 現在、乗用車でこのハイブリッドシステムを搭載したマツダのMX-30はあまり売れていません。売れていない理由は観音開きの後部ドアや後席が狭いことなど、複数考えられますが、ハイブリッド車としてはそれほど燃費が良くないことも理由でしょう。やはりレシプロエンジンに比べてロータリーエンジンは燃費が優れなかったことが影響していると筆者は考えます。
しかし、8C型ロータリーのハイブリッドエンジンのみが持つ、小型軽量さと静粛性は評価されるべきで、これをエアバスの電動機プロジェクトの実験機E-fanに搭載したらどうでしょうか?
ちなみに、スペックを比較します。
| E-fan | マツダMX-30 |
エンジン出力 |
| 55Kw(74.8Ps)※ |
電動モーター出力 | 32Kw×2 (合計で60Kw) | 125Kw×1(170Ps) |
推力 | 1.5KN |
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トルク |
| 11.9Kgm(117Nm) |
リチウム電池重量 | 201Kg(120セル) |
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リチウム電池容量 | 27Kwh |
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8Cロータリーの最大出力はマツダ技報告No.40(2023)P.54の資料によるもの。
MX-30のカタログでは、72Psとされる。
E-fanのモーター出力とロータリーエンジンの出力はほぼ同等であり、そのまま載せ替えが可能と思われます。8C型ロータリーエンジンの重量は、どこまで周辺機器を含むかで変わりますが、100Kgを少し超える程度と考えると、E-fanのリチウムポリマー電池よりかなり軽い訳で、余裕ができます。MX-30の走行可能時間を考えると、飛行機の滞空時間はかなり伸ばせそうです。
燃料として8Cロータリーは自動車用レギュラーガソリンを使用しますが、航空機燃料への切り替えは困難ではないでしょう。(有鉛ガソリンは問題ですが)。
上記の事柄を考えれば、廃棄されたE-fanプロジェクトの試験機を購入して、それに8C型ロータリーのハイブリッドエンジンを搭載した飛行機を広島空港から飛ばすことはすぐにでもできそうです。電動機よりは、はるかに長距離を長時間飛べるし、燃費も優れた飛行機になります。
ロータリーエンジンは燃費が悪いという評判も「空では違う」とばかりに払拭することができると思います。今、マツダは、トランプ関税の影響や主力車種のモデルチェンジの端境期といった事情から、赤字決算に陥り、経営的には厳しい状況です。そんな時に飛行機を飛ばすような道楽ができるか!と叱られそうですが、ピンチだからこそ、取り組むべきでは?と思います。
道楽と言えば、松田恒次氏のロータリーエンジンだって一種の道楽かも知れません。もっと言えば、ライバル会社のホンダの本田宗一郎氏だって、道楽をそのまま事業にして会社を大きくしてきました。ホンダジェットは本田宗一郎氏の最後の道楽が結実したものだと筆者は考えます。
マツダ単独での航空機開発はさすがに荷が重いというのなら、既に小型機を数多く生産しているスバルと共同開発にしてエンジンを供給するという方法もあります。また航空機エンジンを一度は断念したトヨタに持ち込むことも可能です。マツダと提携したトヨタは、ロータリーエンジンをどう活用していくかを真剣に考えているはずです。
トヨタは社有機としてホンダジェットを購入して役員の移動に使用しています。ここはロータリーエンジンのハイブリッド飛行機を自ら開発して、社内で活用するという方法もありなのでは? 勿論、その場合は、役員の出張だけ・・ではなく、平社員の出張にも使わせてあげてくださいね。
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久世寿(Que sais-je)茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。
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