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ドローン攻撃で黒海の海運が新たな高リスク局面へ

2026/02/13 16:26
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ドローン攻撃で黒海の海運が新たな高リスク局面へ

1月23日付の米国メルマガ「gCaptain」によると、 ロシアの最も重要な原油輸出港付近でギリシャ船社運航の石油タンカーがウクライナのドローン攻撃を受け、黒海は商業海運にとってかつてないほど危険な局面を迎えた。保険料が上昇し、運航会社は世界で最も戦略的に高いエネルギー回廊の一つで操業するリスクの見直しを迫られている。

 

事件の経緯

事件は、カザフスタン産のCPCブレンド原油 注)が世界市場向けに積み込まれる、ロシアのノボロシスク沖のカスピアン・パイプライン・コンソーシアム(CPC)輸出ターミナル付近で発生した。少なくとも2隻のタンカー「マチルダ」と「デルタ・ハーモニー」が、ターミナル付近で積み込みを待機中または操業中にドローンの攻撃を受けたことが確認された。乗組員に負傷者はなく、被害は抑えられたと報じられているがが、これらの攻撃はエネルギー輸出に関連する商業船舶への直接的な攻撃が著しく増加していることを示した。

 

注)CPCブレンド原油は、カザフスタンのテンギス油田から生産される軽質原油で、CPC(カスピ海パイプライン・コンソーシアム)を通じて輸送される重要な原油の一種。同油田は、世界最大級の原油生産拠点の一つ。CPCブレンドは、API重度が45.3°の軽質原油で、硫黄分が0.56%のスイート原油で、ガソリンや軽質留の収率が高く、経済的価値が高いとされている。輸送ルートであるCPCパイプラインは、カザフスタンからロシアの黒海沿岸ノボロシースクまで原油を輸送する主要なルートであり、カザフスタンの原油輸出の約80%を占めている。

 

この所謂ウクライナによるとみられる攻撃は、カザフスタンの石油生産が1月上旬に35%減少したというターミナルの使用の困難さを背景にしている。ウクライナはロシアの石油輸出を減少させるために港のインフラを標的にしており、その結果、ロシアの収入に影響を与えている。攻撃はキエフによって公式に確認されていないものの、ギリシャの商業海事省は、2隻の船に対する攻撃を確認し、重大な損害を受けることなくドローンによって攻撃されたと述べている。

 

筆者の調査によると、マチルダは軽微な損傷を受け現在は大西洋を西に向かって航行しているが、デルタ・ハーモニーは依然として2月13日現在、ノボロシースクの攻撃を受けた地点に留まっている模様だ。

 

各国政府の対応

世界最大のタンカー船団を運航管理するギリシャは、迅速な対応を示した。アテネ政府は船主と船舶管理会社に対し、船内セキュリティ対策の更新、ロシア港湾付近での不要不急のデッキ上移動の制限、航海リスク・プロトコルの見直しを求める正式な勧告を発令した。このガイダンスは脅威認識の変化を反映しており、港湾への進入路、錨泊地、待機区域を、ほとんど警告なしにドローンが発射される可能性のある高リスクゾーンと見なしている。

 

ロシア国防省は、少なくとも1件の攻撃はウクライナによるものだと非難したが、当初の報道ではドローンは正体不明とされていた。

 

結果として、海運への影響は即座に現れ、黒海航海の戦争リスク保険料は数日のうちに急騰し、引受会社は保険料をより頻繁に、場合によっては航海ごとに改定したと伝えられている。高額タンカーの場合、わずかな値上げでも大きな追加コストにつながるのは容易に想像できる。

 

CPCターミナル

これらの事件を特に重大にしているのは、その立地だ。ノヴォロシースク近郊のCPCターミナルは、単なる輸出拠点ではない。カザフスタンの原油輸出の大部分を扱っており、世界の石油供給量の約1.5%を占めている。この拠点における混乱、あるいは不安定ささえも、黒海をはるかに越えた影響を及ぼし、原油価格、取引行動、そして世界中のタンカーの配船に影響を与える。

 

攻撃によってCPCの輸出が完全に停止したわけではなく、輸出は継続している。しかし、信頼は揺らいでいる。予測可能性と規模に依存する市場において、たとえ数回のドローン攻撃であっても、物理的な損害ではなく、コスト、警戒、遅延という形で甚大な影響を及ぼす可能性がある。

 

CPCの操業停止は石油市場全体に波及し、特にこの航路に大きく依存し、輸出の生命線であるカザフスタンにとって大きな打撃となりうる。

 

黒海は今や、日常的な商業上の意思決定が戦略リスクを伴う不安定な海域に変わりつつある。エネルギー輸送は今や現代の紛争の標的となっており、そのリスク管理は2026年には燃料費や排出ガス規制への対応と同じくらい重要になるだろう。

 

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

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