MIRU取材チームは現在、ネオジム磁石モーターの代替として注目される「レアアースフリーなフェライト磁石モーター」について、調査を進めている。
本調査のため、4月16日に「12th Battery Summit in Tokyo」に登壇頂いた名古屋大学の山本真義教授をニュー新橋ビルのオフィスにお招きし、フェライト磁石モーターの研究動向および市場に関する見解を伺った。本稿では前編として、フェライト磁石モーターが注目される背景や現実的な市場予測について報告し、次報の後編ではフェライト磁石の弱点を補うモーター構造とインバータ制御について報告する。
レアアース調達リスクの再燃でフェライト磁石モーターが再び注目
中国商務部は2026年2月24、日本企業・大学(計20団体)に中国両用品目の輸出禁止と現在進行中の取引停止を命ずると共に、特殊事情で必要な場合は商務部宛て輸出許可申請を命ずる旨の措置を発表。これにより、日本国内では中国からの輸入に頼っていたネオジムをはじめとするレアアースの調達が困難となっている。ネオジム磁石は2011年にも尖閣諸島問題を機に価格が高騰している。このような地政学リスクが起きるたび、国内ではネオジム磁石を使わないレアアースフリーなフェライト磁石モーターの性能向上に向けた研究開発が活発化してきた。
山本教授によれば、レアアースフリー化の機運が高まるのは今回で3回目に当たるという。政治的な緊張や供給不安が起こるたびにネオジムの価格が上昇し、フェライト磁石モーターなどといったレアアースフリーモーターの研究開発が進む。しかし、価格が落ち着くと再びネオジム磁石へ回帰するという流れが繰り返されてきた。今後も同様の局面は何度も訪れる可能性が高く、その意味ではフェライト磁石モーターをいつでも選択肢として使える状態にしておくこと自体に戦略的な意味があるという見方が示された。
しかしながら、このような背景を踏まえた上でも、フェライト磁石モーターがすぐにネオジム磁石モーターの領域に置き換えられるとは言い切れない。フェライト磁石は安価でレアアースを使わないという利点がある一方、残留磁束密度はネオジム磁石の3分の1程度しかなく、出力の面で不利になりやすい。このため、同等の出力を出すには重量や体積の増加をある程度受け入れる設計思想が必要になる。
現実味があるフェライト磁石モーターの今後の市場
フェライト磁石モーターの市場を考える上で重要なのは、どの用途から置き換えが進むのかという視点だ。本勉強会ではEVの主機モーターをフェライト磁石モーターに置き換えるには、現時点では性能面でハードルが高いと意見が一致した。一方、EVの補機モーターについては現実的な置き換え余地がある。例えばパワーウインドウや電動パワーステアリングなど、自動車には多くの補機モーターが搭載されており、今後も電動化が進むと考えられる。こうした領域では小型軽量化や出力密度に対する要求が主機モーターほど極端ではない。そのため、まずは自動車の補機分野からフェライト磁石モーターの採用を広げるのが堅実だという。
この考え方の背景には、自動車市場そのものの棲み分けもある。高性能が求められる高級車の主機モーターには、小型で高出力を実現しやすいネオジム磁石モーターの優位性が高い。一方、日常の足として使う普及価格帯の車両の主機モーターでは、多少のサイズ増や重量増よりもコストや資源安定性が重視される可能性がある。つまり、全ての車種で一律にフェライト磁石化を狙うのではなく、求められる性能に応じて用途を分けることが重要になる。
さらに、フェライト磁石には高温に強いという特徴がある。ネオジム磁石は高温環境下で減磁しやすく使用条件によっては耐熱対策が必要になるが、フェライト磁石はその点で優位性がある。インホイールモーターのような高温環境になりやすい用途では、この特性が注目される。
かつて、レアアースフリーの削減を目指すTeslaが前輪(非駆動輪)に磁石を使わない誘導モーター、後輪(駆動輪)にネオジム磁石モーターを組み合わせたように、今後はレアアース削減を意識したシステム全体での棲み分けが進む可能性もある。
このほか、インドやベトナムのような新興市場との相性も論点として浮上し、例えばインドは高温環境下での運用が前提となる場面が多く、耐熱性に優れるフェライト磁石との親和性があるのではないかとの指摘があった。こうした市場で実証的に用途を広げることが、フェライト磁石モーター普及に向けた一つの道筋になるだろう。
名古屋大学フェライト磁石モーター勉強会後編:フェライト磁石の弱点を補うモーター構造とインバータ制御に続く
(IRuniverse Midori Fushimi)