MIRU取材チームでは現在、ネオジム磁石モーターの代替として注目される「レアアースフリーなフェライト磁石モーター」について、調査を進めている。
本調査のため、4月16日に「12th Battery Summit in Tokyo」に登壇頂いた名古屋大学の山本真義教授をニュー新橋ビルのオフィスにお招きし、フェライト磁石モーターの研究動向および市場に関する見解を伺った。前編ではフェライト磁石モーターが注目される背景や現実的な市場予測について述べたので、後編となる本報ではフェライト磁石の弱点を補うモーター構造とインバータ制御について報告する。
前回の記事:名古屋大学フェライト磁石モーター勉強会前編:レアアースの地政学リスクとフェライト磁石モーターの市場
フェライト磁石の弱点はモーター構造の工夫で補えるのか
単に磁石材料をネオジムからフェライトに置き換えるだけでは、要求出力を満たすためにモーターの大型化を招く。そのため近年では、モーター構造そのものを見直すことで性能不足を補う研究が進められている。例えば、Astemo株式会社(旧日立オートモーティブシステムズ)が開発を進める磁石補助型の同期リラクタンスモーターは、ローターコア内で磁力を通す経路を複数層に分けるフラックス構造を採用している。これは磁極が形成されるように電流を適切に制御することでリラクタンストルクの増大を狙い、従来ネオジム磁石が担っていた強いマグネットトルクを補う考え方である。
Astemo株式会社はモーターの構造を工夫することで、自動車の主機モーター用途としてネオジム磁石モーターと同等出力を維持しながら、サイズ増加を30%程度に抑えることを可能にしたという。
本勉強会では、モーター構造の工夫としてアキシャルフラックス構造への期待も大きな論点となった。アキシャルフラックス構造は一般的なラジアル構造のように磁束が回転軸に対して放射状に流れるのではなく、回転軸に平行に流れる点に特徴がある。また、ディスク状の構造となるため作用半径を大きく確保しやすい。そのため、磁気回路や巻線設計によってはトルク密度の向上が期待でき、磁力の弱いフェライト磁石との組み合わせにおいても、構造設計による性能補完が見込まれる。特に、インホイールモーターのように薄型かつ大径が求められる用途では、有力な選択肢となり得る。
一方、アキシャルフラックス構造では巻線や磁石配置が複雑になりやすく、従来のラジアル構造に比べて製造コストが上がる傾向にある。フェライト磁石そのものの材料コストは安いため、構造の複雑化で増えるコストをどこまで吸収できるかが実用化の分岐点になるだろう。
このように、フェライト磁石モーターの性能向上にはネオジム磁石に対して劣る部分をモーター構造の最適化によって補い、全体性能を引き上げることが求められる。
フェライト磁石の性能向上はインバーターを含めたシステムの最適化が重要
フェライト磁石モーターの性能を向上させるためにモーター構造を工夫すると、今度は負担がインバーター側に移る。例えば、フェライト磁石モーターとアキシャルフラックス構造の組み合わせで高性能化を狙う場合、多極化や高回転化が進みやすく、結果として高周波駆動が必要になる。
前回、フェライト磁石置き換えモーターの研究が盛んだった2015年頃は、SiCモジュールを用いたとしてもEVの駆動周波数は上限20kHz程度、実質的に使えるのは15kHz程度であることが多かった。これに対し、山本教授がかつて携わったレアアースフリーモーターに関連するプロジェクトでは、50kHzの駆動周波数が求められ、アキシャルフラックス構造ではその倍に近い周波数が必要になるとの認識が示された。この高周波化に対応するため、現在はデュアルインバーター化などで周波数面の課題を分散させる手法が模索されているという。
また、山本教授は中国BYDの車が3万rpm級の高回転化を進めている点を指摘。このような高回転化にはSiCモジュールの使用や高度な電力変換技術が必要になる。つまり、モーターの高性能化の勝負は磁石材料そのものだけではなく、モーター構造、制御手法、インバーターモジュールを含めたシステム全体の設計力に移っている。しかも、SiCの市場環境そのものでも中国に追い風が吹いているという、こうした状況において日本企業がレアアースモータフリーなフェライト磁石モーターで勝つには、モーター構造設計と制御、さらには半導体を含めたシステム提案まで踏み込んだ開発が必要となる。
山本教授はフェライト磁石モーターがネオジム磁石モーターの市場を直ちに奪うとは見ていない一方で、選択肢として持っておくことの重要性を繰り返し強調。政治情勢や供給制約が変われば、同じ議論は今後も繰り返し浮上する。その時に備え、フェライト磁石モーターを成立させる構造設計、インバーター、制御技術を事前に磨いておけるかどうかが、日本企業の競争力を左右することになりそうだ。
今回の勉強会はモーターの制御に関する議論が中心であり、かつて制御開発に携わっていた筆者にとっても示唆に富む内容であった。高周波化に伴うインバーターへの負担については一般にSiCの採用によって解決できると捉えられがちだが、実際にはデバイスの小型化や熱設計との兼ね合いから、理論上の上限と実用上許容される駆動周波数との間には大きな乖離がある。筆者自身も高回転要求に応じた高周波駆動の実現に苦心した経験があり、その難しさは現場レベルで依然として大きな課題であると感じている。
磁石の材料特性やモーター構造、制御技術、さらにはパワー半導体までを組み合わせ、総合的に性能を引き上げていくアプローチは、日本企業がこれまで強みとしてきた領域である。しかし勉強会でも示された通り中国企業も急速に力を伸ばしており、単なる要素技術の積み上げだけでは優位性を維持し続けることが難しくなりつつあるのも事実である。
今後求められるのは、個別技術の最適化にとどまらず、モーターとインバーター、さらには車両やシステム全体まで含めた統合的な設計思想である。とりわけフェライト磁石モーターのように、材料単体では不利を抱える技術を成立させるためには、構造設計と制御、半導体技術を一体で成立させる視点が不可欠となる。
最終的に競争力を左右するのは、単一の材料やデバイスではなく、それらをいかに組み合わせ、制約条件の中で最適解としてまとめ上げるかという設計力にある。今回の勉強会はその原点に立ち返ると同時に、日本企業が今後どの領域で勝負すべきかを改めて考えさせる機会となった。
(IRuniverse Midori Fushimi)