富山高等専門学校の物質化学工学科教授であり、校長補佐を務める袋布昌幹氏は25日、IRuniverse主催の「クリティカルマテリアルスタディシリーズ(CMSS)第1回 硫酸編」に登壇。「排⽔中和の硫酸代替となる未利⽤資源の活⽤と脱炭素化の試み」の題で講演を行った。袋布氏は、現在の緊迫した国際情勢や資源価格の高騰を受け、従来の「硫酸」そのものの議論から一歩踏み出し、その最終形態とも言える硫酸塩鉱物の「石膏」を基軸とした新たなサーキュラーエコノミーの構築を提唱した。
石膏の主要用途の一つである石膏ボードは現代の建築に欠かせない建材であるが、解体時に発生する廃石膏ボードの処理は課題が多く、そのリサイクル技術の確立は長年の懸念事項であった。石膏は化学反応の最終形態として安定しているため、様々な不純物を取り込みやすいという性質を持つ。
特に、多くの石膏ボードにはフッ素化合物が含まれており、これが環境流出を防ぐ上での大きな障壁となっている。袋布氏の研究グループは、このフッ素を無害化する資材の開発など、長年廃石膏の環境対策に取り組んできた。石膏という未利用資源をどのように高付加価値な素材へと転換し、国内の資源循環の中に再定義するかが、サーキュラーエコノミー推進の鍵を握っているという。
排⽔中和の硫酸代替として廃石膏を
課題解決の一手として袋布氏はリターナブル瓶の洗浄排水を利用した石膏の再資源化プロセスだ。リターナブル瓶は環境負荷が低いイメージがあるが、洗浄工程で大量の苛性ソーダ(アルカリ)を含む排水が発生し、その中和のために多額の費用をかけて硫酸を購入・投入しているという隠れた環境課題があった。
そこで、袋布氏の研究グループは、このアルカリ排水と硫酸代替としての品廃石膏を反応させることで、高価な硫酸を使わずにアルカリ排水を中和する技術の確立を試みた。具体的な話は特許の関連で言えないとしつつも「かなり高効率で(中和が)できる」と強調した。
また中和ができるだけでなく、副生物として消石灰が得られる点にも言及した。袋布氏は「カーボンフットプリントはほぼマイナスであり、副生物として脱炭素資源が作れる点を同研究の訴求ポイントとしている」とし、「現在はベンチプラントを設計して製造し始めているところ」と報告。「来年ぐらいにはある程度サンプル品が出せるところまで研究を進めていくため、硫酸業界が抱える課題に対する解決策の一つとして頭の片隅に置いといていただければ幸い」と述べ、講演を締めくくった。
二束三文にしかならない石膏ボードの粉が硫酸の代替として機能するとなれば、社会的意義は大きく、袋布氏の研究の社会実装化が期待される。
講演後の質疑応答では、中和のメカニズムなどについて質問が挙がった。袋布氏は、化学平衡論の観点から、石膏を介在させることで硫酸イオンがカウンターパートとして機能し、効率的にpHを低下させることができる仕組みを解説。「硫酸として考えると難解になるが硫酸イオンとして捉えるとマイナスの2を補うためにHプラスが必要となりpHが下がるという考え方でご理解いただきたい」と答えた。
また、ガラス業界が抱えるリサイクル問題について解決案を求める質疑もあった。ガラス業界ではエッチングの際にフッ酸(フッ化水素酸)を大量に使用しており、フッ酸廃液は生石灰などで中和して廃棄している。この廃棄物を上等な蛍石として再利用する案があったが、フッ酸の中に硫酸が混じっているためにリサイクルが成立しなかったため、良い解決策が無いかという問いかけだった。
袋布氏は「ある程度までは混合物からのフッ素の解消はできるようになっているが、効率的には良くない」と回答。一方で、「フッ素がどう動くかはみえてきたため学術的にはそろそろ発表されるかもしれない」と述べた。