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脱炭素の部屋#274 経済安全保障と資源循環

2026/06/16 17:03
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以前もこのコラムで取り上げたとおり、去る4月21日、政府は新たな「循環経済行動計画」を決定しました。今回の計画を見て興味深く感じたのは、「循環経済」と「経済安全保障」という二つのキーワードが強く結び付けられていたことです。

一見すると、この二つは別々のテーマのようにも見えます。循環経済は環境政策の話であり、経済安全保障は外交や安全保障の話だと考える方も少なくないでしょう。

しかしながら、昨今の国際情勢を見ていると、この二つを切り離して考えることは難しくなっています。むしろ今後の日本経済を考えるうえで、両者は密接に関係するテーマになりつつあるのです。

思い返せばこの数年、世界経済は大きく揺れ動いてきました。コロナ禍による物流の混乱、各国で進むインフレ、地政学的な対立の激化、そしてエネルギー価格や資源価格の高騰です。

以前までは「必要な資源はお金を払えば世界中のどこからでも調達できる」という考え方がある程度成立していました。しかし現在は、必ずしもそうとは言えなくなっています。資源を持つ国と持たない国の差が改めて意識されるようになり、サプライチェーンの強靭化が経営課題として語られる場面も増えました。

こうした状況の中で注目されるのが循環資源です。使用済み製品やスクラップ、再生原料などの循環資源は、従来であれば廃棄物あるいは副産物として扱われることが少なくありませんでした。しかし今では、それらが新たな資源供給源として大きな意味を持つようになっています。

ただし、ここで一つ誤解してはいけないことがあります。循環資源は、地下資源の代替になり得る存在ではありますが、決して無限に存在するわけではありません。どこにでも潤沢にあるわけでもありません。

例えば自動車由来のスクラップは自動車産業が盛んな地域に集まりますし、高品質なアルミや銅のスクラップも産業集積地に偏在します。リチウムイオン電池のリサイクル原料であれば、当然ながら電池が大量に普及している地域に集中します。つまり循環資源もまた、地下資源と同じように偏在性を持つ資源なのです。

しかも循環資源は、一度海外へ流出してしまうと簡単には戻ってきません。良質な循環資源を確保できるかどうかは、将来的な産業競争力にも影響を与える可能性があります。その意味で、循環資源を経済安全保障の文脈で捉える考え方には一定の合理性があると言えるでしょう。

では、循環資源を確保するためには何が必要なのでしょうか。私は、そのカギの一つは「情報」にあると考えています。いつどこで発生し、どのような品質を持ち、誰が保有しているのか。さらには、その資源がどのような用途に適しているのか。

循環資源は、情報が不足すると単なるスクラップとして扱われてしまいます。しかし十分な情報が付与されれば、高品質な原料として新たな価値を持つことができます。

実はこの問題は、以前から業界関係者の間で繰り返し指摘されてきました。日本のスクラップ市場は伝統的に「質より量」を重視する傾向が強かったからです。特に鉄スクラップ市場では、長らく棒鋼や鉄筋向けの電炉原料としての利用が中心でした。求められるのは大量かつ安定的に集荷できることであり、細かな品質差は必ずしも価格へ反映されませんでした。

極端な言い方をすれば、優れた品質を持つスクラップであっても、その他大勢のスクラップと同じ価格で取引されることが少なくなかったのです。いわば「掃きだめの鶴」が適正な評価を受けにくい市場だったと言えるかもしれません。

日本の鉄鋼産業は長らく、高炉が高級鋼を担い、電炉が比較的汎用品を担うという役割分担で発展してきました。その結果、スクラップ市場にも同様の構造が形成されてきた面があります。

一方、中国は事情が異なります。中国市場には高級品から普及品まで幅広い製品群が存在しており、市場構造そのものが重層的です。そのためスクラップについても品質に応じた価格形成が行われやすく、良い材料には相応の価格が付きます。

結果として何が起きるのでしょうか。日本国内では十分に評価されなかった良質な循環資源が、より高い価格を提示する海外市場へ流出していくのです。

実際、この問題は長年にわたって議論されてきました。国内で発生した高品質なスクラップや再生原料が海外へ輸出され、日本の製造業が必要とする資源を十分確保できないという状況は決して新しい話ではありません。

今回の循環経済行動計画でも、国内の循環資源確保の重要性が強調されています。その方向性自体は間違っていないと思います。経済安全保障を考えれば、国内で発生した良質な循環資源を有効活用できる体制づくりは重要です。

ただし、その実現には大前提があります。それは国内にしっかりとした需要が存在することです。いくら流出防止策を講じても、国内市場が適正な価値を認めなければ資源は集まりません。良質な循環資源を求める製造業が存在し、その品質に見合った価格を支払う市場が形成されて初めて、国内循環は機能し始めます。循環資源の確保は供給側だけの課題ではありません。需要側の産業政策とも表裏一体のテーマなのです。

今回の行動計画が、単なる資源確保に留まらず、国内需要の創出や高品質な再生材市場の育成まで踏み込めるのかどうか。その成否によって、日本の循環経済は大きく姿を変えることになるかもしれません。

経済安全保障と循環経済。この二つの言葉が並ぶことに違和感を覚える時代は、もう終わりつつあります。これから問われるのは、国内に眠る資源をどう確保するかだけではありません。その価値を正しく評価し、活用できる市場をどう作るかです。

循環資源を巡る競争は、すでに始まっています。今回の行動計画がその第一歩になるのかどうか、今後の展開を注意深く見守っていきたいと思います。

西田 純

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