開発中のエポキシ樹脂
絶縁用樹脂として広く普及しているエポキシ樹脂は、加熱や化学反応によって一度硬化すると再溶融しない熱硬化性樹脂の一種である。絶縁材料に求められる耐熱性や流動性に優れる一方で、その化学的な特性からリサイクルが極めて困難であり、廃棄時には焼却処理が行われるのが一般的であるため、環境負荷の低減が長年の課題となっていた。これを受け、三菱電機は電気系統の分離や安全性の確保に欠かせない絶縁材料として、バイオマス由来成分を40%以上含有しながら、高い耐熱性と流動性を兼ね備えた画期的なエポキシ樹脂を開発した。この新材料は、電力機器や電子機器の環境負荷を大幅に低減する可能性を秘めており、サプライチェーン全体での脱炭素化に貢献するものとして注目を集めている。
植物由来のバイオマス材料は、成長過程で二酸化炭素を吸収するため、焼却時の排出を相殺できるカーボンニュートラルな特性を持ち、ライフサイクルにおける実質的な排出抑制が期待されている。しかし、従来の技術ではバイオマス由来成分の比率を高めようとすると、絶縁材料に必須となる耐熱性や、複雑な成形を可能にする流動性を維持することが非常に難しかった。その結果、これまでのエポキシ樹脂におけるバイオマス率は、実用的な性能を優先するあまり、おおむね20~30%程度に留まっていたのが実情である。

バイオマス率を10%向上
今回、三菱電機が打ち出したアプローチは、材料の配合と硬化プロセスの両面から抜本的な見直しを図るというものである。具体的には、樹脂の主剤の一部にバイオマス率100%のエポキシ化合物を選定し、さらにバイオマス率約70%の添加剤を独自に配合することで、全体としてバイオマス率40%以上という高い数値を達成した。
性能面においては、液状の主剤と低粘度の添加剤を採用したことが功を奏し、流動性を確保することに成功している。これにより、複雑な形状への成形が必要な製品を含め、注型製品全般に対応することが可能となった。単に環境性能を追求するだけでなく、従来の石油由来材料と同等以上の加工性を備えることで、実用的なサステナブル材料としての完成度を高めている。
「40%以上」を目標に設定した意義について、同事業の担当者は「単にバイオマス由来原料の使用比率を高めるだけでなく、実用性能との両立を重視したため」と話す。従来材料に比べてバイオマス度を10%以上向上させつつ、高い耐熱性と流動性を確保できたことは「石油由来原料への依存低減や環境負荷の軽減に直結するだけでなく、製品としての付加価値向上にもつながる」という。
また、高いバイオマス率と必要な性能を両立できたことは、エポキシ樹脂の用途拡大や、業界全体の環境対応を後押しする点でも極めて重要な意味を持つ。担当者は「環境性能と機能性を同時に確保できるため、サステナブル材料としての価値がある」と、その普及への自信を覗かせている。
「Semi-IPN構造」を採用
技術的な核心部といえるのが、高耐熱性を実現するために導入された「Semi-IPN(半相互侵入高分子網目)構造」である。これは多段階の硬化プロセスを適用することで、架橋ポリマーと線状ポリマー(添加剤)が複雑に絡み合い、多重網目を形成させる技術だ。この構造の構築により、樹脂が硬いガラス状態から柔らかいゴム状態へと変化する指標であるガラス転移温度(Tg)において、180℃以上という優れた耐熱性を実現した。
開発過程で最も苦労したのは、「架橋ポリマーと線状ポリマーの組成バランスを最適化しながら、必要な特性を両立させることだった」と担当者は振り返る。絶縁用樹脂には、高耐熱性だけでなく、加工時の流動性や硬化後の絶縁性、機械特性といった、トレードオフの関係になりやすい複数の性能が求められる。Semi-IPN構造を実現するにあたっては、樹脂の反応挙動や相互作用を細かく制御する必要があり、そのための条件設定が特に難度の高い課題であったという。
三菱電機は、この新開発の絶縁用エポキシ樹脂を今後自社製品へ適用し、電力・電子機器分野の脱炭素化を推進していく方針だ。今後の展開については「今後は個別製品への適用検討において課題を抽出し、さらなるバイオマス度や耐熱性の向上を目指していく」と展望を語っている。環境負荷の軽減と高度な産業性能を両立させた本技術は、サステナブルな社会の実現に向けた重要な一歩となるだろう。