金価格は年初の史上最高値から大幅に調整し、足元では4,000ドル台前半から4,000ドル台後半で推移している。しかし、価格調整とは対照的に、世界の中央銀行は依然として金準備の積み増し姿勢を維持しているようだ。市場では「短期相場」と「長期構造」の乖離が鮮明になりつつある。
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世界金評議会(WGC)が6月に公表した2026年中央銀行調査によると、回答した74の中央銀行のうち45%が今後1年間で自国の金保有を増やす意向を示した。前年(43%)を上回り、調査開始以来で最高水準となった。さらに89%が「世界全体の中央銀行による金保有は今後も増加する」と予想している。
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実際の購入も続いている。WGCによれば、5月の中央銀行による金購入は純増41トンと、今年2番目の高水準となった。ポーランドが18トン、中国が10トンを購入したほか、ウズベキスタン、カザフスタン、シンガポールも買い手に回った。一方、売却はロシアとトルコに限られている。中国はこれで20カ月連続の金購入となり、保有量は2,331トンへ増加した。
こうした動きは、最近の金価格の軟調さとは対照的だ。米・イラン軍事衝突以降、市場ではドル高や実質金利上昇を背景に金が売られ、「地政学リスク=金高」という従来の図式は必ずしも当てはまらなくなった。英バークレイズは、この下落についてドル高や米国株高、投機筋のポジション解消が重なった「リセット」と位置付け、ファンダメンタルズそのものは大きく変化していないとの見方を示している。
スイスのUBSも短期的には3,850~4,000ドル近辺まで下落する可能性に言及しているが、中長期では依然として強気姿勢を維持している。背景として、中央銀行需要や米財政悪化、FRBの利下げ再開を挙げ、「今後12カ月では建設的な見方を維持する」としている。
注目されるのは、中国国内でも資金の流れに変化が見られる点だ。報道によれば、中国では華安易富ゴールドETFの運用資産残高が約900億元となり、長らく最大だったCSI300指数連動ETFを上回った。株式市場や不動産市場への不信感を背景に、個人・機関投資家の資金が金へ向かっている可能性がある。さらに、中国工商銀行が個人向け金積立商品の新規募集を停止する一方、税制面の見直しも進められており、中国の金市場は新たな局面を迎えているようだ。
一方、市場インフラでも変化が見られる。米シティグループは6月、ロンドン店頭貴金属市場の決済機関であるLondon Precious Metals Clearing Limited(LPMCL)の清算メンバーに加わった。約10年ぶりの新規加盟となり、西側金融機関も金取引インフラへの関与を強める動きとして注目されている。
こうして見ると、短期的な金価格はドルや実質金利、金融政策に左右されやすくなっている一方で、中央銀行、さらには中国の民間資金までが金への資産配分を拡大する流れは依然として続いているようだ。
市場は目先の価格調整を織り込みつつあるものの、各国中央銀行による準備資産の多様化やドル依存の見直しという長期的な潮流が変わらない限り、金市場の構造的な需要はなお底堅いと見る向きが多いのではないだろうか。
春節前後には、金価格は「押し目待ちに押し目なし」といった熱気に包まれ、強気一色の相場観が市場を支配した。しかし、今回の急落は、市場が最も強気一辺倒になった局面こそ、相場が最も脆くなることを皮肉にも証明したのかもしれない。
「市場は熱狂し、中央銀行は淡々と買う。」
(IRuniverse/MIRU S. Aoyama)
本記事は執筆者個人の分析および見解であり、IRuniverseの公式見解を示すものではありません。内容は情報提供を目的としたもので、投資判断の根拠として用いることを意
図したものではありません。