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大阪チタニウムテクノロジーズ 尼崎工場見学レポート 航空機品質を支えるスポンジチタン製造の最前線

2026/07/14 10:50
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大阪チタニウムテクノロジーズ 尼崎工場見学レポート  航空機品質を支えるスポンジチタン製造の最前線

IRuniverse(MIRU)は7月10日、航空宇宙用途などで世界的なシェアを持つ高品質スポンジチタンメーカー、株式会社大阪チタニウムテクノロジーズの機関投資家向け工場見学に招待され、同社本社・尼崎工場(兵庫県尼崎市)を訪問した。今回の見学では、世界の航空機産業のサプライチェーンを支える同社の高度な製造プロセスを間近で学ぶ機会を得た。

スポンジチタン製造は、安価なエネルギーコストを背景に中国が世界全体の約60~70%という圧倒的な生産シェアを握る。しかし、航空機エンジン向けをはじめとする、極めて厳格な品質と安全性が要求されるハイエンド分野においては、日本製の高品質チタンが世界のサプライチェーンを支えている。現在、国内で稼働するスポンジチタンの主要製造拠点は、同社尼崎工場と、東邦チタニウムの茅ヶ崎工場(神奈川県茅ヶ崎市)、若松工場(福岡県北九州市)の3拠点のみである。

今回の見学では、原料となる四塩化チタン(TiCl₄)の製造・精製から、還元・真空蒸留工程、製品の破砕、そして最終の品質検査に至るまで、世界トップレベルの品質を維持する一連の製造技術について取材した。

◆ 390億円の効率投資で5万トン体制へ、「高収益体質の確立に向けた販売価格戦略」

同社は今後の航空機需要の拡大を見据え、総額390億円程度に収まる効率的な設備投資計画を進めている。新規の工場建設(グリーンフィールド)であればさらなる巨額の投資が必要となるが、今回は既存設備を最大限に有効活用し、バッチサイズ(1回の製造単位)を大型化して生産効率を高めるアプローチを採用した。これにより、投資額を抑えながらスポンジチタンの生産能力を現在の年産40,000トンから50,000トンへと合理的に増強していく方針だ。

この能力増強において鍵となるのが、同社の川福代表取締役社長が言及している「販売価格戦略」である。中国勢をはじめとする競合他社との激しい価格競争に巻き込まれるのではなく、世界最高峰の品質と安定供給能力という付加価値を武器に、「次期長期契約でしっかりマージンを織り込んだ上でフォーミュラー価格の契約を需要家と締結すること」および「能力増強の投資回収の為、プレミアムという形で販価に上乗せしていくこと」を追求していく考えだ。

もちろん、これは世界の航空宇宙サプライチェーンにおける同社の圧倒的な存在感があるからこそ実現できる戦略と言える。

◆ 四塩化チタン製造:「純度」を決定づける原料選定と放射性元素の制約

スポンジチタン製造の出発点であり、製品クオリティを大きく左右するのが四塩化チタン(TiCl₄)の製造工程である。原料には主に天然ルチル、チタンスラグ、Synthetic Rutile(合成ルチル)が使用される。

天然ルチルは比重選鉱などの物理的手法で不純物を除去して用いられるが、チタンスラグや合成ルチルは、鉄分を化学的に除去するプロセスを経て、酸化チタン(TiO₂)純度を90~95%程度まで高めたものが採用されている。

同社はこれらのチタン鉱石原料を100%海外から調達しており、現在はカナダ、ベトナム、インドが主要な調達先となっている。過去にはオーストラリア、南アフリカなどからの調達実績もあるが、日本国内の操業においては「放射性元素(ウラン・トリウム)」の含有量が極めて厳格な評価項目となる。  

チタンの製造工程では、残渣(廃棄物)の中にこれら鉱石由来の放射性元素が濃縮される性質があるため、国内の廃棄物処理規制や環境制約をクリアしなければならない。そのため、同社の原料選定基準においては、単なる価格競争力だけでなく、放射線レベルの管理が最重要の判断材料の一つとなっている。

◆ 1000〜1100℃の塩化反応と、徹底した色調・分析による品質管理

実際の四塩化チタン製造では、TiO₂にコークスと塩素ガスを反応させる。反応温度は約1000〜1100℃の高温に達する。

ここで生成されたTiCl₄は沸点が約136℃と低いため、一度ガス(気体)として回収された後、コンデンサーによって液化される。しかし、この段階の「粗四塩化チタン」には約2%の不純物が含まれており、そのままでは航空機向けスポンジチタンの原料には使えない。そのため、さらに高度な蒸留工程を経て不純物を徹底的に除去し、無色透明の「高純度四塩化チタン」へと精製される。

現場では品質を担保するため、1日に数回のサンプル採取を実施。化学的な分析値だけでなく、目視による色調確認も併せて行われている。万が一、不純物の混入を示す黄色味が強くなったロットが検知された場合は、即座に前工程へ戻されて作り直されるという徹底ぶりだ。

【解説】なぜ「酸化チタン(TiO₂)から直接チタン」を作らないのか?

見学の際、「TiO₂から酸素を直接取り除けば、よりシンプルな工程でチタンができるのではないか」という本質的な質問が上がった。 案内してくださった荒池常務によると、直接還元法(ダイレクトプロセス)は40〜50年前から世界中で研究されラボレベルの成功例はあるものの、「高純度化の難しさ」「抽出工程の複雑化」「工業規模での安定生産(スケールアップ)の困難さ」「コスト面」といった高い障壁から商業化には至っていないという。そのため、同社をはじめ世界の主要メーカーは現在も「クロール法」を採用している。四塩化チタンという液体を経由することで、蒸留により不純物を極限まで排除し、圧倒的な高純度を実現できることが最大のメリットだ。

◆ 経済安全保障と顧客認証:マグネシウム調達の中国依存脱却への足枷

還元工程に不可欠な副原料である「マグネシウム」については、現在も中国産が市場の中心を占める。同社では経済安全保障の観点から、代替サプライチェーンの開拓・評価を進めている。 

しかし、ここには航空宇宙産業特有の「顧客認証」という高い壁が存在する。

  • 品質評価とプロセスの検証
  • 顧客(航空機・エンジンメーカー等)による認証手続き
  • 代替調達に伴うコストの整合性

特に航空機向け材料においては、原料の調達先や製造設備を一つ変更するだけでも、従来品と同等以上の品質・特性であることを膨大なデータで証明し、航空機メーカー各社から個別に認証を再取得しなければならない。技術的には代替可能であっても、この認証取得に数年単位の長い時間を要することが、航空宇宙サプライチェーンの転換を難しくしている側面がある。

荒池取締役常務の案内による工場見学の様子(AI作成イメージ)

◆ 2週間で13トンを製造する還元工程と、最大の課題である「電力コスト」

続いて見学した還元工場(2008年稼働)では、大型の密閉反応容器(レトルト)が一列に並ぶ圧巻の光景が広がる。ここでは一基あたり約13トンのスポンジチタンを、約2週間かけてじっくりと製造している。

密閉容器内で高純度四塩化チタンと溶融マグネシウムを反応させると、容器内にスポンジチタンの巨大な塊が形成され、同時に副産物として「塩化マグネシウム(MgCl₂)」が生成される。塩化マグネシウムは比重が重いため容器の下部に沈降し、製造期間中に約10回にわたって抜き取られる。

抜き取られた塩化マグネシウムは隣接する電解工場へ送られ、電気分解によって再び「マグネシウム」と「塩素」へと分離され、還元・塩化工程へそれぞれリサイクルされる。一方、容器内に残ったチタンは酸素や窒素と極めて反応(窒化・酸化)しやすいため、密閉状態のまま徹底した真空蒸留を行い、残留したマグネシウム分を完全に揮発・除去する。この「極限まで汚染させない」ハンドリング技術とノウハウこそが、同社の誇るコアコンピタンスである。

しかし、このリサイクルを担う「電解工場」こそが、同社にとって最大の電力消費設備でもある。塩化マグネシウムを分解する電気分解工程だけで、工場全体の電力使用量の約7割を占めているという。エネルギーコストの高騰が続く日本国内において、この高い電力コストをいかに克服し、国際競争力を維持するかが大きな課題となっている。

◆ 最後の砦は「熟練の目視検査」:AIをも超える厳格な品質保証

真空蒸留を終えて容器から取り出された13トンもの巨大なスポンジチタン塊は、ギロチン式の大型破砕機によって細かく粉砕され、用途に応じた粒度(サイズ)ごとに選別される。

航空機用途向けでは、成分や粒度のクリアはもちろんのこと、「異物の混入(コンタミネーション)」の有無が決定的なリスクとなる。そのため、自動化が進む現代の最先端工場にあっても、最終工程における異物チェックは、訓練を受けた熟練検査員による「目視検査」が最後の砦として機能している。

同社では、このプロセスにおいてAIや画像認識技術を用いた自動検査システムの導入に向けた実証・検討を重ねており、自動化への挑戦を弛まず続けている。しかし、航空機メーカーの厳しい要求水準を満たすためには、「人間(熟練工)以上の検出能力と再現性」を完全に証明しなければならない。さらに、検査設備や製造設備を更新する際にも、新旧の設備で製品品質に一切の乖離がないことを詳細なデータで証明し、顧客の承認を取り付ける必要がある。このエピソードからも、航空宇宙産業における品質保証の凄まじい厳格さが伺えた

◆ 脱炭素と資源循環への切り札:岸和田工場「EB炉」を活用したチタンスクラップの利用拡大

同社が未来に向けて注力するのが、環境負荷低減と脱炭素の観点からの「チタンスクラップ」の利用拡大である。 スポンジチタンを一から製造するプロセスに比べ、スクラップを再利用するプロセスは大幅にエネルギー消費とCO₂排出を抑制できる。同社は、岸和田工場(大阪府岸和田市)に保有する高性能なEB炉(電子ビーム溶解炉:Electron Beam Furnace)を活用し、回収されたチタンスクラップを効率的に再溶解して高品質なチタンへと再生させる資源循環を加速させている。この取り組みは、電力コストの削減とカーボンニュートラル達成に向けた、同社のサステナビリティ戦略の大きな柱となっている。

【MIRUまとめ】脱炭素と経済安全保障、次世代へ向けた2つのメガテーマ

今回の大阪チタニウムテクノロジーズ尼崎工場の取材を通じて、同社、ひいては日本のチタン産業が直面する今後の大きな地政学的・環境的テーマが浮き彫りとなった。

  1. 製造プロセスの脱炭素(カーボンニュートラル)化 塩化工程においてコークス(炭素原料)を使用するため、どうしてもCO₂の排出が避けられない。2050年のカーボンニュートラル達成に向け、エネルギー多消費型産業であるチタン製造において、いかに革新的な低炭素プロセスを構築していくかが急務である。
  2. サプライチェーンの多角化(経済安全保障) 鉱石原料や副原料のマグネシウムにおける特定の国への依存度を下げ、クワッド(Quad)圏やリライアブル(信頼できる)な国々への調達分散を進めることは不可欠である。しかし、航空機業界特有の「品質認証の壁」があるため、一朝一夕にはサプライチェーンを転換できないというジレンマを抱える。

チタンという金属は、その優れた軽さ、強さ、耐食性から、これからの航空宇宙、防衛、エネルギー分野に欠かせない「戦略物資」である。それを生み出すには、極めて精密なプロセス制御、厳格な品質管理体制、そして長年にわたり現場で培われてきた暗黙知とも言えるノウハウが必要不可欠だ。

国際情勢が激変するなか、390億円の投資による「5万トン体制」への拡大と「販売価格戦略」、そしてEB炉による資源循環の推進は、世界の空の安全と先端産業を足元から支える日本の「素材技術」の底力と、次世代への強い覚悟を改めて実感させる有意義な工場取材であった。

Risa.S

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