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パーム椰子の燃料利用の最大化を—国際農林水産業研究センター・小杉領域長に聞く

2026/07/14 13:15
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パーム椰子の燃料利用の最大化を—国際農林水産業研究センター・小杉領域長に聞く

世界で最も多く生産・消費される植物油であるパーム油は、日本にとっても油脂供給量の約30%を占める極めて重要な食料資源である。しかし、その生産拡大の裏側では、生産時に排出される年間1億8千万トン規模(マレーシアのみ)という膨大な未利用バイオマスが、温室効果ガスの発生や水質汚染を招くという深刻な課題を突きつけている。こうした状況下で、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、これまで「ゴミ」として扱われてきた残渣を燃料や資材へとアップサイクルする革新的な技術開発を進めている。JIRCASの小杉昭彦氏(国際農林水産業研究センター・生物資源・利用領域長)に、パームバイオマス利用の最前線とその展望について聞いた。

 

国際農林水産業研究センター・生物資源・利用領域長の小杉氏

 

PKS以外の部位の多くは未利用

パーム椰子を用いたバイオマス燃料として、現在、日本国内で最も広く利用されているのはパーム椰子殻(PKS)である。PKSは発熱量が高く、扱いやすい固形燃料として重宝されており、2020年度の輸入額は約574億円に達している。しかし、パーム産業全体から見れば、PKSは発生するバイオマスのごく一部に過ぎない。パーム油を搾油する過程では、PKS以外にもパーム幹、葉柄、空果房(EFB)といった多種多様な残渣が大量に発生するが、その多くは農園や工場に放置されている。

これらの未利用バイオマスや廃液は、放置されることで腐敗し、強力な温室効果ガスであるメタンを放出するだけでなく、河川の水質汚染の原因にもなっている。また、生産国であるマレーシアやインドネシアでは、搾油廃液の河川放出禁止や、未利用バイオマスを資源として活用する規制が強まっており、パーム産業の持続可能性を確保するためには、これらを効率的に資源化する技術が不可欠となっている。

日本国内の視点に立てば、バイオマス発電へのニーズが高まる一方で、燃料の供給不足が深刻な課題として浮上している。現状、日本が輸入しているPKSだけでは、国内の需要を十分に満たすことは困難である。「日本国内で必要とされるバイオマス燃料の量は、現状の供給体制では到底足りていないのが実情であり、パーム椰子の特定の部位だけでなく、全体をいかに燃料化していくかが問われている」と小杉氏は指摘する。既存のPKS依存からの脱却と、未利用バイオマスの網羅的な活用こそが、エネルギー安全保障と環境保護を両立させる唯一の道といえる。

これまでのパーム産業において、パーム幹(OPT)や葉柄(OPF)、空果房(EFB)などは、水分量が多く、処理に時間やコストがかかることから、有効な利用が進んでこなかった。しかし、JIRCASが開発した「原料マルチ化プロセス」は、これら多様なパームバイオマスを国際市場価値の高い燃料用ペレットや家具・建材向けの原料ペレットに変換することを可能にした。特に注目すべきは、老朽化したパーム樹の更新時に発生するパーム幹の活用である。パーム樹は25年から30年で更新期を迎えるが、その際に伐採される膨大な幹をこれまでは農園に放置するしかなかった。JIRCASの技術は、このパーム幹を含む性状の異なる多様な残渣を同一ラインで処理し、輸送効率と燃焼効率に優れたペレットへと加工するもの。

このアップサイクル技術の導入により、これまで無価値だった未利用バイオマスから利益を生み出す新たなビジネスモデルが構築されようとしている。「これまで捨てられていた膨大な残渣を、いかにして付加価値の高い資源に変えるかが、産業の持続可能性を左右する鍵となる」と小杉氏は強調する。また、ペレット製造過程で生じる残渣を微生物資材として活用し、パーム苗木の生育を1.2倍から1.5倍に促進させる研究も進んでおり、バイオマスの循環利用モデルはさらに深化している。

 

処理廃液をエネルギー・資源に

Palm Oil Mill Effluent(パーム油製造廃水)

 

ペレット製造では、パームバイオマス中のミネラル分を除去するため洗浄工程を行う。この工程から発生する洗浄廃水は有機物濃度が高く、その処理が課題となる。またパーム椰子の処理工程で発生する多量の廃液(POME)の処理は、パーム産業における最大の環境負荷要因として知られている。単に処理・廃棄するだけでは、環境負荷やコストの観点から大きなロスになると小杉氏は指摘する。JIRCASでは、こうした有機性廃液や未利用バイオマスを対象に、独自の微生物糖化技術とメタン発酵技術を組み合わせた資源・エネルギー回収システムを開発している。

従来のメタン発酵技術では、廃液中のセルロース繊維を十分に分解できず、エネルギー回収率が低いという課題があった。これに対し、JIRCASは「微生物糖化」と「バイオメタネーション」を統合した革新的な「バイオメタンプラットフォーム」を提案している。この技術の核となるのは、JIRCASが特許を持つ「微生物糖化法」である。これは、高価な市販酵素を用いることなく、特定の微生物(Clostridium属やPaenibacillus属など)の働きによってセルロース系バイオマスを糖や有機酸へ変換する技術である。パームバイオマスやその処理過程で発生する有機性残渣にも適用でき、洗浄廃液中に含まれる微細な繊維分の可溶化・糖化することが可能だ。本技術はバイオメタン生産に加え、バイオ燃料や化学品原料の製造にも応用可能な基盤技術として期待されている。 またこの工程で生成される糖や有機酸をメタン発酵に回すだけでなく、一部の糖化菌が併産する水素(H2)と二酸化炭素(CO2)をさらに活用してメタン生成を促進する。

 

セルロース繊維

 

この統合プロセスにより、従来のメタン発酵と比較して、最終的なバイオメタン生産量を2倍以上に高めることを目指している。また、外部から水素を調達する必要がないため、生産コストを約40%削減できるという圧倒的な優位性を持つ。さらに、酵素糖化と比較した試算では、微生物糖化にかかるコストを30分の1以下に抑えられることも大きな特徴だ。

「糖化微生物の力を最大限に引き出すことで、高価な酵素を使うことなく、未利用バイオマスや有機性廃液から効率的にエネルギーを回収する道が開けたことは、資源循環と排水問題の解決に向けた大きなブレイクスルーである」(小杉氏)

現在、マレーシア国内の2箇所で実証プラントの構築と運転に向けた準備が進められており、商業規模での運用に向けたデータ取得が行われている。低コストで施工可能なガラス被覆型鋼板製発酵タンクの採用など、開発途上地域でも導入しやすい工夫も施されており、ASEAN地域全体への技術展開が期待されている。この技術が普及すれば、パーム搾油工場は単なる油の生産拠点から、クリーンエネルギーと高付加価値資材を供給する「グリーン工場」へと変貌を遂げることになるだろう。

Kota Kuribara

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