7月14日、特定非営利活動法人 日本環境倶楽部は環境セミナー「レアアース等重要鉱物の安定供給確保について」を開催。経済産業省 製造産業局 鉱物課の山本 真夢氏が講師を務めた。
前編では、レアアースを取り巻く国際的な状況及び日本と各国の取り組みについて紹介した。後編となる本報ではバッテリーメタルのリサイクルと銅資源確保および日本が進める重要鉱物戦略について紹介する。
バッテリーメタルのリサイクルが重要視される理由
脱炭素社会の実現に向けて電気自動車や蓄電池の需要が拡大する中、リチウムやニッケル、コバルトといったバッテリーメタルの安定確保が重要な課題となっている。その有力な手段として期待されているのが、使用済み電池などから資源を回収するリサイクルである。これは、鉱山開発には長い年月と多額の投資が必要となる一方、リサイクルは国内で資源を循環させることができるため、海外依存の低減や資源安全保障の強化につながるためである。
しかし、バッテリーメタルのリサイクルには課題もある。
一つは、ブラックマスと呼ばれるリチウムイオン電池の破砕・選別後に得られる粉末状の中間原料を安定的に確保することである。現在の国内処理能力は約2万4,000トンあるものの、それを十分に稼働させるための原料確保が課題となっている。
もう一つは、ブラックマスから電池材料となる硫酸ニッケルなどを製造する国内製錬能力の整備である。
このため政府は経済安全保障基金を活用し、ブラックマスからバッテリーメタルを回収する実証事業を支援している。目標回収率はニッケルとコバルトで95%以上、リチウムで80%以上としており、国内で資源循環を完結できる体制づくりを進めている。
国家備蓄制度が支える資源安全保障
重要鉱物の安定供給を支えるもう一つの柱が、国家備蓄制度である。この制度は、1970年代の二度にわたる石油危機を契機に、日本の資源調達の脆弱性が浮き彫りになったことを受け、1983年度に創設された。
現在はJOGMECが実施主体となり、代替が難しく供給国が偏在するレアメタルなどを国家備蓄している。政府は購入資金の利子や備蓄倉庫の維持管理費を支援し、安定した備蓄体制を維持している。対象はリチウム、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、タングステン、アンチモン、レアアース、白金族など35鉱種に及ぶ。ただし、実際に備蓄する鉱種は、供給リスクや産業上の重要性を踏まえて国が指定する。
備蓄日数や保有量、保管場所などの詳細は国家安全保障上の観点から公表されていない。地政学的リスクや産業への影響度を考慮しながら、鉱種ごとに異なる備蓄目標が設定されていることが特徴である。近年は経済安全保障の重要性が高まる中、この国家備蓄制度の役割もこれまで以上に大きくなっている。
銅需要の急拡大と国内、各国の対策
ベースメタルに視点を移すと、今後特に需要拡大が見込まれているのが銅である。銅は高い導電性や熱伝導性を持ち、加工しやすく比較的安価なことから、電線や自動車のワイヤーハーネス、半導体、通信機器など幅広い分野で利用されている。
さらに、電動車や再生可能エネルギー設備、AIやデータセンターなどGX・DXの進展によって、世界的な需要は今後も増加すると予測されている。電動車では、ワイヤーハーネスやバッテリー、駆動モーターに銅のほか、リチウム、ニッケル、コバルト、レアアースなどが使用される。試算では、EVを100万台生産するだけで、日本国内におけるリチウムやコバルトの年間需要量とほぼ同規模の資源が必要になるという。
一方で供給面は厳しい状況にある。
新規鉱山の開発には10~20年程度を要するうえ、大規模鉱床の発見も近年は著しく減少している。開発費用も2000年以前と比べて2~3倍に高騰しており、需要増加に供給が追いつかない可能性が指摘されている。このままではデータセンターの建設や電動車の普及、送電網整備などが停滞し、GX・DXの推進にも影響を及ぼす恐れがある。
世界各国では銅資源の確保に向けた競争が激しさを増している。中国は増大する国内需要に対応するため、製錬設備への積極投資を進め、この10年間で製錬能力を2倍以上に拡大した。現在では世界で輸出される銅精鉱の約65%が中国向けとなっている。中東の政府系ファンドも大型銅鉱山への投資を進めており、資源権益の確保を急いでいる。
欧州では銅を戦略原材料に指定し、「欧州重要原材料法」に基づき2030年までに域内採掘10%、域内加工40%を目標として掲げた。米国も重要原材料に銅を追加し、インフレ抑制法(IRA)の税制優遇の対象とするなど、自国サプライチェーンの強化を進めている。
日本が目指す今後の資源戦略
日本は第6次エネルギー基本計画で、2030年までにベースメタルの自給率80%以上を目標としている。しかし、銅需要の急拡大により、この目標の達成は容易ではない状況となっている。今後は、将来的な資源ポテンシャルが期待されるフロンティア地域への投資を促進するとともに、カントリーリスクや探鉱リスクの高い案件について、日本企業が参画しやすい支援制度を強化する方針である。
また、資源開発を担う「資源ジュニア」への出資促進、海外からの長期安定調達、日本が強みを持つ製錬ネットワークを活用したリサイクル資源の利用拡大なども検討されている。加えて、JOGMECによる事業コーディネートや各国政策の情報収集機能を強化し、資源外交と一体となった総合的な戦略を推進する考えである。
重要鉱物や銅の安定供給は、脱炭素化やデジタル化だけでなく、日本の産業競争力や経済安全保障を支える基盤でもある。今後は資源開発、リサイクル、国家備蓄、国際協力を組み合わせた多面的な取り組みが、より一層重要になると考えられる。
(IRuniverse Midori Fushimi)