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マクセルが拓く「小型全固体電池」の社会実装―山田執行役員がオンライン講演

2026/07/17 18:25
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マクセルで新事業統括本部長を務める山田將之執行役員は16日。オンラインカンファレンス「Battery Next 2026」に登壇し、「小型全固体電池の製品化と社会実装 ~『混ぜる・塗る・固める』技術が拓く未来~」の題の下、講演。同社が世界に先駆けて実現した全固体電池の量産化とその具体的な提供価値について説明した。

 

 

深刻化する労働力不足と電池交換のジレンマ

全固体電池の開発背景には、日本が直面している「2030年の壁」とも呼ばれる生産年齢人口の急激な減少という社会課題があるという。人手不足を解消するために製造現場ではロボットやFA機器による自動化が進められているが、ここで新たな矛盾が生じている。自動化を進めれば進めるほど、それら設備の維持管理、特に定期的な電池交換作業に多くの工数が割かれるというジレンマである。

山田氏によれば、大規模な工場では数万から数十万個ものバックアップ用一次電池が稼働しており、それらが数年おきに一斉に交換されているという。この作業は単に人手がかかるだけでなく、交換時の安全確保や生産計画の遅延リスク、さらには膨大な廃棄電池による環境負荷など、経営に直結する大きな課題となっている。マクセルはこの課題に対し、「世の中から電池交換作業をなくす」というビジョンを掲げ、全固体電池による解決を図っている。

全固体電池が既存のリチウムイオン電池(以下、液系電池)と決定的に異なるのは、電解液を一切使用せず、すべてを固体で構成している点にある。液系電池は高温で蒸発・発火するリスクや、低温で凍結して特性が低下する課題があったが、全固体電池は広い温度範囲で安定して作動し、本質的に安全なデバイスである。山田氏は、「全固体電池は劣化の起点となる成分が少なく、劣化機構も極めてシンプルであるため、高精度な寿命予測が可能になる」と、その技術的優位性を説明した。

マクセルが採用しているのは、三井金属鉱業株式会社と連携して開発したアルジロダイト型硫化物固体電解質である。この材料は高いイオン伝導性を持ちながら、物理的に柔らかく、室温での成形によって強固な固体間界面を構築できる特性を持つ。固体と固体の接点をいかに確保するかという構造的課題に対し、マクセルは粉体制御技術と精密成形技術を駆使し、液系電池の5%以下という極めて低い界面抵抗を実現した。このブレイクスルーにより、無加圧の状態でも良好な電池駆動が可能になったという。

 

過酷環境を制する「セラミックパッケージ」の革新

製品化にあたり、マクセルは当初コイン形の全固体電池を開発したが、高湿環境下での封止性に課題を残した。樹脂を用いたガスケットによる封止では微量の水分侵入を完全に防ぐことが難しく、105℃で10年という高い目標を達成するには不十分であった。そこで同社が選択したのが、京セラ株式会社の協力のもと開発されたセラミックパッケージ型である。

このセラミックパッケージは、金属の蓋を溶接によって接合する完全気密封止構造を採用しており、樹脂を一切使用していない。ヘリウムリーク試験による検証では、コイン形を圧倒する高い密閉性が確認された。さらに、この構造により約250℃の加熱にも耐えられるリフローはんだ付けによる基板表面実装に対応可能となった。山田氏は、「一般的な電子部品と同様に、自動実装ラインで取り扱える電池であることが、産業用デバイスへの導入において極めて重要である」と語り、その利便性を強調した。

 

実証される信頼性と社会実装の加速

セラミックパッケージ型全固体電池の信頼性は、シミュレーションと実試験の両面から証明されている。寿命予測シミュレーションでは、105℃という過酷な高温環境に放置し続けても、10年後に50%以上の容量を維持できるという結果が得られた。また、衝撃試験(2500G)や振動試験、さらにはバーナーで1000℃以上の炎に晒す安全性試験においても、破裂や発火は一切見られなかったという。

この圧倒的な耐環境性能が高く評価され、ニコンの産業用ロボット向けエンコーダにマクセルの全固体電池が採用された。従来、エンコーダのメモリ情報のバックアップには一次電池が使われていたが、これを全固体電池に置き換えることで、高温環境下での長寿命化と電池交換不要のソリューションを実現した。山田氏は、「電池交換によるダウンタイムの削減だけでなく、配線(ハーネス)をなくすことによる故障頻度の低減や、ロボットの動作範囲拡大にも貢献している」と、その付加価値の広がりを語った。さらに、既存の工場で稼働しているロボットの電池交換をなくすための「バックアップ用全固体電池モジュール」も開発されており、SUBARUの大泉工場や、京セラの川内工場において、すでに試験運用が開始されている。

今後のロードマップとして、マクセルはさらなる大容量化と高エネルギー密度化を掲げている。現在は8mAhから16mAhの容量が主力だが、35mAhのコイン形や、数百mAhクラスの円筒形セルの開発も進んでいる。また、150℃の高温動作への対応や、環境発電(エネルギーハーベスティング)技術と組み合わせた「永久電源」の実用化も視野に入れている。山田氏は講演の締めくくりとして、「持続可能な社会の実現に向けて、全固体電池という新しい電池技術で社会課題の解決に貢献していきたい」という強い決意を語った。電池交換という「当たり前」のメンテナンス作業を過去のものにし、過酷環境下でデバイスを駆動し続ける。マクセルが切り拓く全固体電池の道は、製造業、医療、インフラ、そして宇宙開発に至るまで、あらゆる産業の設計思想を根本から変えようとしている。

Kota Kuribara

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