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自動車プレス技術で廃竹からバイオ成型炭を開発―ヒロテックに聞く

2026/07/24 15:23
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自動車プレス技術で廃竹からバイオ成型炭を開発―ヒロテックに聞く

ヒロテックと近畿大学が共同で試作したバイオ成型炭(φ60mm × L40mm)

 

自動車産業が変革期に直面する中、広島県を拠点に自動車部品の製造・開発を主導してきたヒロテックが、異分野への挑戦で成果を上げている。同社は、広島県の特産品である牡蠣の養殖に不可欠な「牡蠣いかだ」の廃材を活用し、石炭コークスに匹敵する性能を持つ「バイオ成型炭」の試作実証に成功。事業化に向けた準備を進めている。長年培ってきた自動車部品製造技術をいかにして環境課題の解決へと結びつけたのか。開発の指揮を執った東真司氏(ヒロチャレ二期生・金型技術部所属)に、プロジェクトの意義や、地域循環型社会の実現に向けた今後の展望を聞いた。

 

取材に応じてくれた東氏(左)と鳥岡氏

 

本プロジェクトの出発点は、バイオ燃料の開発そのものではない。東氏は「最初から牡蠣殻や牡蠣いかだの課題解決を入り口として取り組んだわけではない」と、経緯を明かした。当初の社内新規事業プログラム「HIROTEC neXt Biz Challenge」(ヒロチャレ)に提案されたのは、手作業で行われている牡蠣の身を取り出す作業を自動化する「自動牡蠣剥き機」の開発だった。同社が持つファクトリーオートメーション(FA)の技術やロボット技術を活用し、過酷な手作業を効率化できないかという視点が始まりだったという。

開発にあたり、プロジェクトチームは広島県内の牡蠣養殖業者を訪問し、現場での徹底したヒアリング・実態調査を重ねた。その過程で、業者が抱える深刻な悩みとして浮上したのが、牡蠣殻の処理問題と、養殖いかだに使用される膨大な竹材の廃棄問題だった。広島県は全国の牡蠣生産量の約6割を占める一大産地であるが、その裏では耐用年数を迎えた廃竹がいかだから毎年約5000トンも発生しており、その処分の過程においてはCO2排出や地域環境への負荷が指摘されていた。

牡蠣殻の再利用について処理業者と意見交換を行う中で、ヒロテックのコア技術であるプレス技術に業者が興味を持ち、再利用品の製造に技術を応用する話が持ち上がった。さらにその業者を介して、近畿大学工学部が廃竹を炭化し「バイオ成型炭」を作る基礎研究を行っていることを知るに至った。当時の大学側は、優れた基礎理論を持ちながらも、それを産業レベルで実用化するための大型成形技術や量産設備を欠いていた。ここに、ヒロテックが世界中で展開してきた高度な製造ノウハウが加わることで、お互いの強みを生かした産学連携が結成されたという。

 

炭化・粉砕後の竹炭

 

「高圧プレス成形技術」を転用

プロジェクトの核となる技術は、ヒロテックが自動車のドアや排気系部品の製造で磨き上げてきた「高圧プレス成形技術」の転用である。近畿大学の白石浩平教授が持つ材料開発技術と、同社の生産技術を組み合わせることで、従来のバイオマス燃料の弱点であった密度の低さを克服し、石炭コークスと同等の発熱量を実現した。

大学側の設備では小さな試験片しか作れなかったプロセスを、自社の大型プレス機を活用することで、実際の産業利用に耐えうる直径60mm、長さ40mmという円筒形状にまで高密度化させたのはヒロテックが長年蓄積してきたノウハウによるものだ。このバイオ成型炭は、既存の石炭設備にそのまま投入できる「補助燃料・添加剤」としての利用を強く意識して設計されている。東氏は「単なる代替燃料ではなく、燃焼効率を維持しながらCO2排出原単位を引き下げられる、脱炭素移行期の現実的なソリューションとして提供したい」と、社会実装への意欲を示す。

また、この燃料は環境性能においても優れている。竹由来のバイオマス資源が燃焼炉に与えていたカリウム、塩素、ナトリウムといった腐食原因物質を大幅に削減しており、プラント設備を傷めずに運用できるという利点がある。

しかし、既存の設備を転用するだけの単純な作業ではなかった。最大の障壁となったのは、鉄と粉体という素材特性の根本的な違いである。東氏は「弊社がこれまで主業としてきたのは平らな鉄板を加工する鋼板成形であり、粉を固める『粉体成形』の技術や知見は社内に全く存在しなかった」とその苦労を振り返った。まさにゼロからのスタートであり、自動車部品の製造で培った「常識」が通用しない日々が続いた。

具体的には、竹炭を粉砕した際の粒子の大きさをどのように調整すれば密度の高い成型品ができるか、プレス時の圧力をどの程度強めれば加熱時間を短縮して生産効率を上げられるか、といった無数のパラメータの最適化が求められた。特にチームを悩ませたのは、金型の温度管理だった。「型の温度を極限まで精密に制御することで、離型剤などの薬品をほとんど使わずに製品をスムーズに取り出せるようになった」とチームの一員である鳥岡氏は語り、試行錯誤の結果、高品質な表面状態と高密度を両立させたことを明かした。

 

課題は原料の安定供給

 

廃牡蠣いかだ(竹)

 

実証実験の成功を受け、同社は2026年末までの商品化を目標に掲げている。現在、発電事業者や素材産業といった大規模な燃料需要家への提案を進めているが、事業化に向けた最大の課題は「原料の安定供給」にある。広島県内の廃竹を全て回収しても、成型炭としての生産量は年間約1000トンに留まり、火力発電所の規模にもよるがおおよそ1日で消費する石炭量にも満たないのが実情である。

東氏は「原料の供給量をいかに確保するかが、事業のスケールを左右する最大のポイントだ」と述べ、今後は牡蠣いかだの廃竹に限定せず、他のバイオマス廃棄物や地域資源を活用した「地域循環型モデル」の構築を目指す考えを示した。また、本プロジェクトと並行して、当初のきっかけであった牡蠣殻の再利用についても技術立証を進めており、複数の廃棄物を高付加価値な製品へとアップサイクルする事業体系の確立を急いでいる。

さらに、同氏は今回の「ヒロチャレ」を通じて得た副次的な成果についても言及。「既存事業で培ったコア技術をピボット(転換)させ、異業種の課題解決に役立てるという姿勢は、今後の製造業が生き残るための必須条件になる」と強調した。今回の成功体験を社内全体の文化として広げていきたい考えだ。

自動車用部品を一貫して手掛けるグローバル・エンジニアリング企業として世界を舞台に戦ってきたヒロテック。その技術が今、広島の海が抱える地域課題という「足元」の救済に向かっている。「昨日の廃棄物は今日の資源」の理念の下、廃竹から作られた真っ黒なバイオ成型炭は、石炭を燃やし続けるしかない現在の産業界に、カーボンニュートラルへの現実的かつ強力な架け橋をかけようとしている。同社の挑戦は、同じく変革を迫られる日本の多くのモノづくり企業にとって、自らの強みを再定義し、新たな市場を切り拓くための輝かしい先行事例となると期待される。

 

Kota Kuribara

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