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電炉の乱世を生き抜く「柔軟性」を――東京製鐵・伊藤新営業本部長に聞く

2026/07/24 17:34
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電炉の乱世を生き抜く「柔軟性」を――東京製鐵・伊藤新営業本部長に聞く

カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへの関心が世界的に高まる中、鉄スクラップを再利用する電炉メーカーへの期待はかつてないほど大きい。しかし、足元では地政学リスクの増大や原材料費の高騰、国内需要の減退など、乗り越えるべき課題も山積している。こうした激動のさなか、国内電炉最大手である東京製鐵の営業部門を率いることになったのが伊藤岳氏だ。同氏へのインタビューを通じて、電炉の未来と日本の鉄鋼供給の在り方について探った。

 

――営業本部長の就任から約1カ月経った

正直に申し上げて、非常に厳しい環境下での船出になったというのが率直な感想だ。私がバトンを引き継いだこのタイミングは、東京製鐵という電炉メーカーにとって未来が大きく開けている一方で、国際環境の激動があまりにも激しい時期でもある。鉄鋼業、特に原料を外部に依存する電炉業は、国際情勢に左右される面が極めて大きい。現在は戦争を含む国際政治の混乱があり、先を見通すことが非常に難しいタイミングでの就任となったと感じている。

就任からの約1カ月を振り返っても、日々さまざまな事象が起こり、それらへの対応に追われる毎日だった。足元の収益をしっかりと確保していくことは当然の責務だが、周囲の激動ばかりに気を取られていてはいけない。常にビジョンを遠くに見定め、揺るぎない営業戦略を遂行していく重要性を再認識した1カ月であった。現在、世界では貿易障壁の台頭や政治環境の変化、燃料価格の高騰などが相次いでいるが、これらは鉄鋼の内需という観点では決してプラスには働かない。しかし、東京製鐵はこうした「乱世」に強く、フレキシブルな対応を常に取れる組織である。安定を求めるのではなく、変化を前提とした経営こそが当社の真骨頂であり、この特異な環境もまた、我々が実力を発揮すべき場であると考えている。

 

――今後の営業戦略として重視していくことは。

今後の営業戦略において最も重視するのは、やはり柔軟性だ。よく外部からは、東京製鐵が毎月価格を発表することでマーケットを先導したり、コントロールしたりしているように見られがちだが、実態は少し異なる。我々の真の強みは、マーケットの変化を微細に観察し、その変化を逃さず即座に対応する能力にある。この柔軟性を見失わず、状況の変化に即応する姿勢を常に持ち続けたいと考えている。

東京製鐵は、少数の営業員で構成されており、非常に統制が取れた組織といえる。これまでは中央のコントロールタワーである本社が方針を固め、それを実行するスタイルが強みとなってきた。特に利益環境が良好だったここ数年間は、この中央集権的な体制が機能し、大きな成果を上げてきたといえる。前任者が築き上げたこの強固な組織力は、今後も大切に引き継いでいく。

一方で、今後はさらなる変化の激しさが予想されるため、本社がすべてを決めるだけでなく、各地方のマーケットに直面している支店や営業所が、より主体的に顧客と対話していく体制へとシフトしていきたい。これは単なる権限委譲とは異なり、現場の声を吸い上げ、地域ごと、ユーザー分野ごとに異なる競争環境にフレキシブルに対応することを意味する。日本は決して広い国ではないが、鉄鋼流通においては地域ごとに工場の立地、競合相手、輸入鋼材の浸透度合いなどが全く異なる。それぞれのマーケットに最適化した戦術を組み立て、全体として東京製鐵の存在感を高めていきたいと考えている。

また、少人数体制であるからこそ、社外の「仲間」を増やしていくことも重要だ。電炉鋼材の普及拡大に向けて協力し合える企業とは積極的に手を組み、強固なタッグを組んでいきたい。

 

――東京製鐵の強みをどのように捉えているか

最大の強みは、鉄スクラップが豊富に蓄積されている日本という地に立地していることそのものだ。そして、発生するスクラップのうち7割から8割を占める「老廃スクラップ」を使いこなす高度な利用技術を築き上げた点にある。この技術力は、現代社会の要請であるカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーというニーズに不可欠なものだ。

我々は、条鋼から薄板、厚板に至るまで、極めて幅広い品種を展開している。この多様な製品ラインナップを通じて、顧客の幅広いニーズに応えられる点も大きな優位性といえる。かつて電炉鋼板といえば、高炉材に対する「安さ」が主な採用動機であり、我々も後発メーカーとしてその土俵で戦ってきた側面がある。しかし現在は、顧客自身がカーボンニュートラルを達成するための経営戦略として、当社の電炉鋼材をいかに活用するかという、次元の異なる要請へと変化している。この期待に応える技術力と供給体制こそが、我々の事業の源泉といえる。

電炉鋼材に対する顧客の認識は、劇的な変化を遂げている。これまでは「リサイクル材だから安い」というコスト面での評価が中心だったが、今やカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーを達成するための戦略的物資としての価値が確立されつつある。顧客の要請が別の次元に入った今、我々もそれに応じた進化を遂げなければならない。

当然ながらコスト競争力は維持しつつ、今後はさらなる品質の向上と、確実なデリバリー体制の構築が不可欠になる。特に厚板分野などでは、ここ数年でデリバリーの改善を大きく進めてきたが、建設プロジェクトなどの重要案件において、必要とされるタイミングで確実に製品をお届けする信頼性をさらに高めていきたい。顧客の経営戦略を支えるパートナーとして、安定供給の責任を果たしていくことが、今後の需要拡大の鍵を握ると確信している。

 

自工会が再生鉄の活用促進へ電炉鋼板の目標値を公表

こうした環境下で、日本自動車工業会(自工会)が再生鉄の要求項目として、銅(Cu)含有量0.35%以下という目標値(目線)を公表したことは、極めて重要な意義を持つ。これは、日本の製造業の頂点に立ち、最も高度な品質を求める自動車業界が、日本の老廃スクラップを積極的に「使いこなす」ことが重要であるとの明確な意思表示をしたことに他ならない。

現在、日本国内で発生するスクラップの約8割は老廃スクラップだが、この比率をそのまま活用して鋼材を作ると、不純物である銅の含有量はおよそ0.35%程度になる。自工会がこの数値を目標に掲げたことは、高級スクラップに依存するのではなく、既存資源と技術で安価かつ高品質な自動車用鋼板を実現する道を開くものだ。欧州では既に車両循環性向上のためのELV規則案が公表されており、鉄鋼などについても2年以内には再生材の使用率が法制化される見通しだ。

グローバルに展開する日本の自動車メーカーがこれに対応するためには、国内の老廃スクラップを活用した車作りが不可欠になる。我々はこのユーザーサイドの決断を最大限に尊重し、質の高い電炉鋼板の供給を通じてその実現に貢献していかなければならない。

 

――今後、懸念されるリスクは

最大のリスクは、人口減少や建設需要の減退に伴う、日本の鉄鋼内需そのものの落ち込みだ。需要が減る中で、コストを無視した過当競争に陥る懸念は常にある。しかし、我々は国内で発生した原料を国内でリサイクルし、国内の顧客に届けるという「国内循環」の大義を背負っている。目先の競争に惑わされることなく、この社会的責任を果たしていかなければならない。

また、世界的に台頭する保護主義や地政学的リスク、軍事衝突による物流の寸断も大きな脅威となる。かつてのグローバリゼーションのように、世界中のどこでも安く作って安全に運べるという前提は崩れつつあり、経済のブロック化が進んでいる。こうした時代だからこそ、国内に既に存在する原料(鉄スクラップ)を使いこなして製品化する当社のBCP(事業継続計画)上の価値は飛躍的に高まっている。輸入鋼材の価格や関税の動向に関わらず、国内で完結するサプライチェーンを維持・拡大していくことの重要性は、業界内でも深く理解されつつあると感じている。

 

――第1四半期の振り返りを

先日発表した2027年3月期第1四半期の決算については、非常に厳しい数字となった。売上高は729億2700万円と前年同期比で微減にとどまったが、営業損益は23億700万円の赤字に転じている。この最大の要因は、原料である鉄スクラップ価格の急騰だ。我々は前期に3回ほど製品価格の値上げ改定を実施したが、残念ながら原料価格の上昇スピードに追い付くことができなかった。鉄スクラップはマーケット連動で即座に価格が跳ね上がるのに対し、製品の販売価格に反映させるにはどうしてもタイムラグが生じる。このコストアップ分をカバーしきれなかったことが、今回の営業赤字という結果に直結している。

しかし、これは一時的な過渡期であると考えている。東京製鐵は常にマーケットのリーダー役として価格形成の先頭を走っている自負がある。足元では原料高に苦しんでいるが、適切な価格転嫁を進め、この局面を乗り越えることができれば、当社の製品価格は再び顧客にとって魅力あるものになると確信している。長期的には、世界的なブロック経済化や環境意識の高まりによって、国内で完結する資源であるスクラップを主原料とする我々の優位性は揺るがないと考えている。

 

チャンスの神様には後ろ髪がない

 

――伊藤氏の信念やポリシーは

私が仕事をする上で最も大切にしているのは、「すぐやる」ことだ。よく言われることだが、チャンスの神様には後ろ髪がない。好機が訪れたその瞬間に掴み取らなければ、二度と手に入れることはできない。現在のような変化の激しい時代においては、変化を捉えるスピードこそが成否を分ける。

日本が鉄鋼生産の電炉化へと進むことは間違いない方向性であり、顧客もそれを求めている。しかし、当社とまだ接点のない企業は数多く存在する。我々が貢献できることをお伝えし、具体的なソリューションを提示する作業は、まさに「今」やらなければならない。チャンスは待ってくれないからこそ、焦りにも似た危機感を持って、迅速に行動し続けることを自らに課している。

 

――最後に

東京製鐵は、顧客が直面しているカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーという難題に対する、有力な「解」になり得ると確信している。当社の低炭素な鋼材を活用いただくことは、製品の付加価値を高め、社会貢献を武器とした営業戦略の強化に繋がるはずだ。その代表格である低CO₂鋼材「ほぼゼロ」を採用したことで拡販に成功した事例も数多く出ており、コスト以上に効果が出ていると評価されている。環境配慮型の経営を共に推進する顧客のパートナーとして、より良い未来を共に築いていきたい。来春には、業界内から大きな期待を寄せられている冷延鋼板の生産も開始する予定だ。これからも柔軟な発想と迅速な行動で、鉄鋼業界に新たな価値を提示し続けることを約束する。

Kota Kuribara

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