米国向け銅流入が続いている。トランプ政権による精製銅輸入関税の可能性を織り込む動きから始まった「タリフ・トレード」は、精製銅が最終的に関税対象から除外された後も、市場構造に大きな爪痕を残している。
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ロイターによると、2025年の米国向け精製銅輸入量は約140万トンと前年から73万トン増加した。2025年12月だけでも約20万トンが流入しており、これは公式通関統計を基にした世界金属統計局(WBMS)の集計である。2026年に入っても輸入は高水準を維持し、市場では関税決定が遅れる間も米国向け輸送が続いたとみられている。
もっとも、この「流入量」はCOMEX在庫とは一致しない。COMEX在庫は認定倉庫へ搬入・登録された数量のみを示すのに対し、輸入統計は米国へ通関したすべての精製銅を対象としているためである。
実際、COMEX在庫は7月初めの66万6,821トンから月末には71万6,175トンへ約5万トン増加した。一方、LME指定倉庫でも米国内在庫が急増している。ニューオーリンズやボルティモアのLME倉庫在庫は、1年前にはほぼゼロだったが、現在では約9万トンまで積み上がっている。Reutersは2月時点で、ニューオーリンズとボルティモアだけで3週間に2万トン超の新規搬入があったと報じている。
さらにReutersは、米国内にはCOMEXやLMEに登録されていない「取引所外在庫(off-exchange inventories)」も大量に存在すると指摘している。商社倉庫やメーカー保管分、港湾施設などを含めれば、米国内に滞留する銅は可視在庫を大きく上回る可能性がある。実際、米国には世界の可視銅在庫の58%が集中する状況となっている。
このことは、7月に「約20万トンが米国へ流入した」との市場観測とも整合する。仮にその数字が税関統計ベースの輸入量を示しているのであれば、COMEX在庫の増加が約5万トンにとどまっていても矛盾はない。輸入された銅はCOMEXだけでなく、LME指定倉庫や民間倉庫へも分散して保管されているためである。
一方、LME在庫全体では5月末以降24%減少し、中国でも上海先物取引所在庫が大幅に低下している。中国ではVAT(増値税)不正取引の摘発によりスクラップ流通が滞り、精製銅輸入が増加していることもあり、米国への在庫集中と中国の輸入需要増加が同時進行する構図となっている。
今回の一連の動きは、COMEX在庫だけでは世界の銅需給を判断できないことを改めて示した。米国への銅流入は「COMEX在庫」「LME米国倉庫」「取引所外在庫」の三層構造で捉える必要があり、今後これらの在庫が再び世界市場へ放出されるのか、それとも米国内で長期滞留するのかが、LME相場やCOMEXプレミアムを左右する重要な焦点となりそうだ。
COMEXとLMEの価格差は、精製銅が今回の関税対象から除外された後も600ドル前後と歴史的高水準を維持している。市場では、将来の関税再導入の可能性に加え、米国内に蓄積された大量在庫そのものが「関税オプション」として評価されている可能性がある。Marexは「市場は常に一定の関税導入確率を価格へ織り込む」と指摘しており、今回のスプレッドも単なる需給では説明し切れない政策リスクプレミアムを含んでいるとみられる。
(IRuniverse S. Aoyama)