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レアメタル千夜一夜 第180夜 レアアース――「中国が武器にした」という半分の真実

2026/08/25 16:32 FREE
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レアメタル千夜一夜 第180夜  レアアース――「中国が武器にした」という半分の真実

過当競争を国家支配へ変えた中国と、それを育てた日米欧
今や世界のメディアは、ほとんど同じ説明を繰り返している。
「中国はレアアースを外交上の武器として利用している」
「中国は鉱山から磁石までを国家戦略によって支配した」
「レアアースは中国が西側諸国を揺さぶる資源兵器になった」
確かに、現在の姿だけを見れば間違いではない。

中国は採掘、分離精製、金属、合金、永久磁石まで圧倒的な供給力を持ち、輸出許可制度を通じて、誰に、何を、どれだけ供給するかを管理できる。
だが、45年間、中国各地の鉱山、地方工場、貿易公司を歩き、実際にレアアースを買い、日本へ輸入してきた私からすれば、この説明は半分しか正しくない。
初めから中国が国家の意思で世界支配を設計し、レアアースを武器として育てたわけではない。
少なくとも、私が取引を始めた頃の中国に、現在のような完成された国家戦略は存在しなかった。
あったのは、外貨が欲しい中央政府、税収と雇用が欲しい地方政府、生き残りたい工場、少しでも多く輸出したい貿易公司である。

それぞれが勝手に動き、互いに競い合い、貴重な資源を驚くほど安い価格で世界へ売っていた。
今日の国家統制とは正反対の世界だった。
中国レアアース支配の出発点は、国家戦略ではない。
統制不能な過当競争だったのである。

そして、さらに言いにくい真実がある。
中国の安値を喜んで買ったのは、私を含む日本の商社とメーカーだった。米国も欧州も、中国から安く買えるなら、自国で鉱山を動かし、環境負荷の大きい分離工程を維持する必要はないと考えた。
中国だけが世界の工程を奪ったのではない。
日米欧が、自ら工程を中国へ押し出したのである。

1978年、誰も見向きもしなかった鉱石
私が初めてイオン吸着型レアアース鉱石のサンプルを入手したのは、1978年の中国の交易会だった。
当時は、まだタングステンやモリブデンの取引に夢中になっていた。中国側の担当者たちと何度も会い、一緒に食事をし、個人的な信頼関係を築いていった。
その関係の中で、ある担当者が中国南部で採れる見慣れない鉱石を、特別に見せてくれた。
江西省などに分布するイオン吸着型鉱石である。
この鉱床には、ジスプロシウム、テルビウム、イットリウムなど、現在では磁石、防衛、航空宇宙、電子産業に欠かせない中・重希土類が含まれている。

しかし、当時の交易会に集まった海外バイヤーの中で、その本当の価値を認識していた者はほとんどいなかった。
私自身も、そこまで重大な戦略資源になるとは理解していなかった。
それでも、何かがあると感じた。
帰国後、中国のレアアース資源について日本の業界紙に投稿した。すると米国大使館から直接連絡があり、中国のレアアース資源の実態を説明してほしいという依頼を受けた。

私自身がまだ手探りだった時代に、米国はすでにその将来性に反応していたのである。
しかし、その米国でさえ、後には中国の安価な供給を利用し、自国のレアアース産業を弱体化させてしまった。
危険性を知ることと、自国の生産能力を守ることは別問題なのである。

日本の技術者と中国の地方工場を歩いた
中国のレアアース産業を見る時、内モンゴルの白雲鄂博と包頭だけを見ていては、その実態を理解できない。
改革開放後、中国では地方分権化が進み、各地に小規模な鉱山や分離工場が生まれた。

地方工場には資源があった。しかし、高純度に分離する技術、安定した品質を維持する工程管理、分析能力は十分ではなかった。
そこで私は、日本イットリウムや三井金属の大牟田工場などの技術者とともに、中国各地のレアアース工場を訪問した。
鉱石を調査し、設備を確認し、分離工程を検討した。日本側が持っていた溶媒抽出法や品質管理に関する知見も、技術交流の範囲で中国側へ伝えた。
中国側が品質を高めれば、日本は安価で安定した原料を確保できる。中国は外貨を稼ぎ、日本企業は混合希土類を高純度化して付加価値を生み出す。
その頃は、日中双方に利益のある分業だった。
私も商売が増えることを喜んでいた。

中国を強くするために技術を教えたのではない。日本の産業界へ良質な原料を供給するためだった。
ところが、中国の技術者は、私たちが想像した以上の速さで知識を吸収した。
彼らが学んだのは、分離方法だけではない。
日本企業が求める品質、分析方法、設備管理、顧客との関係、どの工程に付加価値があるのかまでを学んだ。

私たちは技術交流をしているつもりだった。
中国は、その交流を通じて、世界市場で勝つための産業構造そのものを学んでいたのである。

乱売の中国を、日本は歓迎した
地方分権化が進むと、中央政府による貿易管理は次第に効かなくなった。
中央が資源保護を唱えても、地方政府は税収と雇用を求める。ある地域が輸出すれば、別の地域も輸出する。価格が下がれば、さらに安くして数量を増やす。
私は中国から、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウムを含む濃縮物や、ネオジム、ランタンなどの混合希土類を日本へ輸入した。
それを日本企業が溶媒抽出法によって分離し、高純度品に仕上げ、日本の電子材料、蛍光体、磁石などの産業へ供給した。

この段階では、中国は中間原料の供給国であり、日本が分離・高純度化を担っていた。
ところが、中国品はどんどん安くなった。
日本企業から見れば、わざわざ国内で環境対策費と人件費を負担して分離するより、中国から分離品を買った方が合理的である。
その結果、日本の分離設備は縮小され、技術者は減り、新たな資源開発も必要ないと考えられるようになった。

米国も、欧州も同じだった。
環境負荷の大きい採掘と分離を中国に任せ、安価な製品だけを輸入する。それは企業経営として正しい判断に見えた。
しかし、企業ごとの合理性を積み上げた結果、国家全体の供給能力が失われた。

中国の過当競争は、日本企業を力ずくで追い出したのではない。
中国の安さが、日本企業に自ら撤退する理由を与えたのである。
これが現場から見た真実である。

中国は武器を造ったのではない。武器になることを学んだ
中国は安値によって世界市場を席巻したが、同時に自らも傷ついた。
地方企業同士の乱売で利益は消え、希少な資源が安値で国外へ流出した。南方の鉱山では森林や土壌が傷つき、廃液や残渣が深刻な環境問題を残した。
中国はここで、重要な事実に気づいた。
世界最大の資源を持っていても、国内企業が勝手に乱売すれば、価格決定権は買い手側に残る。
世界最大の生産国であることと、世界最強の売り手であることは同じではない。
この失敗から、中国は企業再編、生産量管理、環境規制、流通管理、輸出許可へ進んだ。

つまり、中国は初めからレアアースを武器として造ったのではない。
過当競争を経験する中で、自分たちが持っている資源と工程が、国家の武器になり得ることを学んだのである。
2010年の対日供給不安、WTOでの敗訴、六大集団への再編、中国稀土集団の設立、2024年の「レアアース管理条例」、2025年の中・重希土類関連品目に対する輸出管理。
これは、最初から完成された一つの陰謀ではない。
乱売の失敗を一つずつ修正し、地方に分散していた力を中央政府が回収していった歴史である。

「中国の武器化」という言葉が隠すもの
現在の中国がレアアースを外交や安全保障上のカードとして利用していることは否定できない。
だが、「中国が資源を武器化した」とだけ言えば、日米欧が果たした役割が見えなくなる。
安価な中国品を買い続けた。
自国の鉱山を止めた。
分離設備を閉じた。
技術者を減らした。
環境負担を中国へ移した。
短期的な経済合理性を優先し、供給網の維持費を無駄と考えた。

その結果、中国に採掘、分離精製、金属化、合金、磁石、モーターの工程が集まった。
中国がレアアースを武器にしたことは事実である。
しかし、その武器へ資源と技術と市場を与えたのは、日米欧でもあった。
これを言わずに中国だけを批判しても、同じ失敗を繰り返すだけである。

「脱中国」の掛け声だけでは何も戻らない
今になって日本、米国、欧州は、レアアースの「脱中国」を叫んでいる。
しかし、鉱山権益を取得するだけでは解決しない。
鉱石があっても、分離できなければ使えない。分離できても、金属、合金、磁石へつながらなければ、モーターは作れない。

さらに、平時に中国が価格を下げれば、中国以外の鉱山や分離工場は再び採算を失う。
市場価格だけに任せれば、供給網の再構築は必ず失敗する。
安全保障には費用がかかる。
多少高くても、国内あるいは友好国に鉱山、分離設備、磁石工場、技術者、環境処理能力を残さなければならない。
安い時には中国から買い、危機が起きた時だけ「武器化だ」と批判する。
そんな都合のよい資源政策は、もう通用しない。

45年間の現場から語れる結論
1978年、中国の交易会で手にしたイオン吸着型鉱石のサンプルから、私のレアアースとの付き合いは始まった。
地方工場を訪ね、日本の技術者とともに設備を調べ、分離技術を伝え、中国から混合希土類を輸入した。

私は中国レアアース産業の発展を外側から眺めていた評論家ではない。
その成長と日中分業に、商社マンとして直接関わった当事者である。

だからこそ、率直に言いたい。
中国だけを悪者にするのは簡単である。
だが、それでは真実には届かない。
中国のレアアース支配は、中国共産党が最初から描いた一枚の設計図によって生まれたのではない。
地方の過当競争が安値を生み、その安値を日米欧が歓迎し、先進国の鉱山と分離工程が消えた。その間に中国は技術を吸収し、川下産業を育てた。最後に中央政府が、分散していた供給力を国家統制の下へ回収したのである。

順序を逆にしてはならない。
最初に国家戦略があり、世界支配が生まれたのではない。
最初に過当競争と世界の安値依存があり、その結果を国家が戦略へ変えたのである。

これが、45年間、中国の現場を歩いた私の結論である。
中国は過当競争を克服したのではない。
過当競争で獲得した世界シェア、技術、設備、人材、顧客情報を、国家の支配力へ変換した。

そして日米欧は、その完成を安価な原料と引き換えに手伝った。
世界がいま恐れている「中国のレアアースという武器」は、初めから北京に置かれていたのではない。
私たち自身もまた、その武器を一緒に鍛えてしまったのである。

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