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レアメタル千夜一夜 第187夜 中国がレアアース価格を半値にしたら ――南鳥島は「鉱山」なのか、それとも「安全保障インフラ」なのか

2026/09/16 15:08 FREE
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レアメタル千夜一夜 第187夜 中国がレアアース価格を半値にしたら  ――南鳥島は「鉱山」なのか、それとも「安全保障インフラ」なのか

中国の過当競争はなくならない

中国の過当競争について、私はこれまで何度も書いてきた。タングステン、モリブデン、レアアース、マグネシウム、そしてリチウム。私は半世紀近く、その現場を商売人として見てきた。そこで得た結論は単純である。中国の過当競争は、政治体制や政策が多少変化した程度ではなくならない。地方政府は雇用を守りたい。企業は設備を止めたくない。銀行は融資先を潰したくない。中央政府は産業競争力と世界シェアを維持したい。それぞれの行動には、それぞれの合理性がある。ところが全員が同じ方向へ走れば、生産能力が需要を超え、猛烈な値下げ競争が始まる。西側から見れば「なぜ赤字になってまで作るのか」と思う。だが中国では、企業単体の利益だけで産業全体の動きを説明できない。ここを理解しないと、中国との資源競争を読み違える。

市場価格を信用し過ぎてはいけない

南鳥島についても同じである。仮に日本が水深6,000メートルの技術的障壁を突破し、Nd、Dy、Tbなどを含むレアアースを商業的に回収できるようになったとしよう。そして事業計画では十分採算が合ったとする。しかし、その時点の市場価格を前提に20年、30年の国家プロジェクトを設計してよいのだろうか。私はそこが怖い。仮に中国が供給量を増やし、レアアース価格を30%下げる。それでも日本が耐えれば50%下げる。南鳥島の採算ラインを割り、日本企業が「やはり深海資源は商売にならない」と撤退する。巨大な船舶や設備は一度止めれば、簡単には再開できない。技術者も散ってしまう。その後に中国側が生産調整を行えば、市場価格は再び戻る可能性がある。これがレアメタルの恐ろしさである。鉄鉱石や石油のような巨大市場とは違う。市場規模が小さいレアメタルでは、供給側の政策や企業行動が価格を大きく動かしやすい。だから私は、南鳥島の採算性を「現在価格×生産量」だけで計算することには反対である。

安易な外交姿勢は百害あって一利なし

もう一つ、私が長年中国ビジネスを経験して感じてきたことがある。相手との関係を悪くしたくないからといって、こちらが先に譲歩する。摩擦を避けるために曖昧な態度を取る。あるいは、経済問題だから市場に任せればよいと考える。私は、こうした安易な外交姿勢や行動は、資源問題では百害あって一利なしだと思っている。これは中国を敵視せよという話ではない。中国は日本にとって巨大な隣国であり、重要な貿易相手国でもある。正常な商取引は大いに続ければよい。しかし、協調と依存は違う。相手が供給を止めても困らない体制を作った上で付き合うのが、本当の意味で対等な外交である。

日米欧が一緒にならなければ勝てない

日本だけで中国の巨大な供給能力に対抗するのも現実的ではない。私は日米欧がもっと本気で協調すべきだと思う。過剰生産、国家補助、ダンピング的輸出などについて共通のルールを作る。重要鉱物について情報を共有する。豪州、カナダなどの資源国とも連携する。さらに鉱山だけではなく、分離・精製、金属化、磁石、リサイクルまで、中国以外にも複数の供給網を作る。必要であれば、貿易救済措置や投資支援、長期購入契約、戦略備蓄も組み合わせる。一国ずつ対応すれば中国側の規模に負ける。しかし日本、米国、欧州、豪州などが市場と技術と資源を結びつければ、構図は変わる。私はこれを中国包囲網とは考えない。自由な市場を維持するための防波堤である。南鳥島は鉱山なのかここで南鳥島について、根本的な問いを立てたい。

南鳥島は「鉱山」なのか。それとも「安全保障インフラ」なのか。

普通の鉱山なら答えは簡単だ。儲からなければ止めればいい。しかし安全保障インフラなら話が違う。自衛隊に「今年はいくら利益を出したのか」とは聞かない。石油備蓄に「保管しているだけだから赤字だ」とも言わない。国家の安全を守る能力には、平時の損益計算だけでは測れない価値があるからだ。レアアースも同じ段階に来ているのではないか。EV、ロボット、風力発電だけではない。半導体、航空宇宙、防衛産業など、現代国家の基盤を支える戦略物資である。ならば南鳥島には、通常の鉱山採算とは別に、「供給途絶を防ぐための保険料」という価値を認めるべきだ。

世界一安いレアアースを目指す必要はない

南鳥島が中国産より高くても構わない。問題は、どこまでの価格差なら国家安全保障のコストとして許容するかである。これは政治が逃げずに決めなければならない。そして南鳥島だけで日本の需要を100%賄う必要もない。中国からも買う。豪州や米国からも買う。都市鉱山からも回収する。そして一定量は日本の海から確保する。重要なのは、「何かあっても、日本には別の道がある」という状態を作ることである。半世紀近くレアメタルを見てきた私には、これこそ最も価値のある資源政策に思える。南鳥島で本当に掘り出すべきものは、レアアースだけではない。

中国に価格を握られても日本の産業を止めない「国家の選択肢」である。

中国の過当競争は簡単にはなくならない。だから中国が変わることを期待して国家戦略を作ってはいけない。日本が変わる。日米欧が協調する。そして市場価格がどれほど揺れても、守るべき最低限の供給能力は守る。それが資源安全保障というものだろう。南鳥島が「海のアポロ計画」になるかどうか。その答えは、泥を何トン引き上げたかだけでは決まらない。価格戦争になっても撤退しない国家意思を、日本が持てるかどうか。そこまで含めて、南鳥島プロジェクトなのである。

 

 

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