私は中国レアアースの入口を見ていた
私と中国レアアースとの付き合いは半世紀近くになる。1978年以前から、私は内蒙古・包頭で生産された塩化希土を日本へ輸入し、三徳金属に納入していた。当時の中国レアアースは、今日のような国家戦略物資として世界から注目される存在ではなかった。1979年には江西省の龍南鉱と尋烏鉱のサンプルを、海外需要家として初めて日本へ輸入した。後に世界の重希土類供給を左右することになる南方イオン吸着型鉱床である。当時の私は、四十数年後にレアアースが米中経済安全保障の中心にまで登場するとは想像していなかった。しかし振り返れば、中国が世界を支配するまでの道筋を私は商売の現場から見てきたことになる。そこで学んだ最大の教訓がある。
資源を持っているだけでは、資源大国にはなれない。
中国が強くなった本当の理由は、鉱山だけではなかった。中国は「工程」を取りにいったのである。鉱石から製品までには長い川があるレアアースは掘ればそのままモーターに使えるわけではない。鉱石を採る。選鉱する。浸出する。不純物を除く。希土類元素を一つ一つ分離する。酸化物にする。金属化する。合金を作る。磁石を作る。そしてモーターへ組み込む。私はこれを一本の「川」だと考えている。中国は長い時間をかけて、この川の上流から下流までを自国内につないできた。最初は安い原料の輸出国だった。やがて酸化物を売るようになった。次には金属、合金へ進んだ。そして磁石、モーター、EVへと下流に降りてきた。輸出政策も変化した。原料を大量に海外へ出す時代から、輸出管理を強め、できるだけ付加価値の高い製品を国内で作る方向へ動いた。私には、この流れが非常に重要に見える。中国の資源戦略とは単なる「鉱山支配」ではない。
付加価値を一段ずつ国内へ取り込む産業政策だったのである。
南鳥島にも同じ落とし穴があるここで私は南鳥島を見る。水深6,000メートル近い海底からレアアース泥を引き上げる。これは世界的にも素晴らしい技術的挑戦である。しかし、船上に泥が上がった瞬間に万歳をしてはいけない。問題は、その泥をその後どうするかだ。もし日本で採泥し、脱水した原料を海外へ送り、そこで分離・精製してもらい、金属や磁石になったものを日本が買い戻すなら、私はそれを資源自立とは呼ばない。極端に言えば、日本が鉱山労働を担当し、最も重要な付加価値を海外へ渡すことになりかねない。これは私が半世紀、中国の発展を見てきたからこそ強く警告したい点である。中国が四十年以上かけて築いた工程支配を、日本が南鳥島で逆方向に再現してはいけない。
日本には「下流」という武器がある
しかし悲観する必要はない。日本には中国にはない強みもある。高性能磁石、特殊材料、精密加工、モーター、工作機械、自動車、ロボット、半導体製造装置。つまり日本は、レアアース産業の最終需要に近いところに強力な産業を持っている。ここから逆算すればよい。普通の鉱山開発は、「何が採れるか」から始まる。私は南鳥島については逆に、「日本産業が何を必要としているか」から始めるべきだと思う。例えば日本の自動車、ロボット、防衛、航空宇宙産業が2035年にDyやTbをどれだけ必要とするのか。必要量を決める。そこから必要な磁石量を逆算する。合金量を逆算する。金属量を逆算する。酸化物量を逆算する。最後に必要なレアアース泥の量を計算する。
鉱山から市場を見るのではなく、市場から鉱山を見る。
これが南鳥島を成功させる新しい発想だと思う。「日の丸サプライチェーン」は全部国産という意味ではない私は「日の丸サプライチェーン」と言っても、何から何まで日本国内だけで作れと言っているのではない。そんな発想は現実的ではない。豪州、米国、カナダ、欧州、東南アジアなど信頼できる国々と組めばいい。中国とも通常の商取引は続ければよい。重要なのは、どこか一国が止まれば全部止まる構造を作らないことである。南鳥島、海外鉱山、都市鉱山という複数の原料。日本と友好国に複数の分離・精製拠点。複数の金属・合金メーカー。そして日本が得意とする磁石、モーター、最終製品。一本の鎖ではなく、何本もの道が交差する「網」にする。これこそ本当のサプライチェーン強靱化である。
国家が支援すべきは「つなぎ目」だ
そして私は、国家政策で最も重要なのは巨大な採鉱船だけではないと思っている。産業政策では、華々しい大型設備に目が行きやすい。しかしサプライチェーンが切れるのは、意外に小さな工程である。分離設備がない。金属化する企業が一社しかない。特殊な薬品が海外依存である。技術者が高齢化して後継者がいない。年間数百トンしか使わないため民間企業だけでは設備投資できない。こうした「細い首=ボトルネック」を一つずつ見つけ、国家が補強する。私はここにこそ政府の仕事があると思う。南鳥島に1,000億円を投じるなら、その先の工程が途中で切れていないかも同時に調べるべきである。
泥ではなく磁石を国家プロジェクトの出口にせよ
私は1970年代、包頭から塩化希土を日本へ運んだ。1979年には江西省の龍南、尋烏のレアアースに触れた。あの頃、中国は世界へ原料を売る側だった。それから半世紀。中国は鉱石から分離・精製、金属、合金、磁石、そしてEVまで巨大な産業の川を作った。その歴史を見てきた私には、南鳥島のゴールははっきりしている。
泥を引き上げることを成功と呼んではいけない。
日本の工場で磁石になり、モーターになり、自動車、ロボット、半導体製造装置、防衛・宇宙産業を動かして初めて成功なのである。南鳥島から磁石まで。上流から下流までを一つの国家戦略として設計する。そして日本だけで抱え込まず、友好国とのネットワークにする。中国の半世紀から日本が学ぶべき最大の教訓は、中国と同じ国になることではない。中国が「工程」を握ることで資源大国になったのなら、日本は「工程をつなぐ力」で資源立国を目指せばいい。南鳥島から掘り出すべきものはレアアース泥だけではない。日本が一度失いかけた、資源から最終製品までを自分たちで設計する力なのである。