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レアメタル千夜一夜 第190夜 岡部徹教授とアルケミスト、「作れる」と「売れる」の間

2026/09/25 10:00 FREE
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レアメタル千夜一夜 第190夜  岡部徹教授とアルケミスト、「作れる」と「売れる」の間

――アカデミアと商売人が見るレアアースの最後の一里
前回、第189夜では東京大学の加藤泰浩教授とアルケミストの南鳥島論を比較した。
加藤教授が「海底に何が、どれだけあるのか」を科学の力で明らかにする人なら、僕はその泥が市場に出てきた時、「誰が、なんぼで買うんや」と考える商売人である。
では、東京大学の岡部徹教授はどうか。

岡部先生とは、もう30年ほどのお付き合いになる。
加藤教授と僕を一本の線の両側に置くとすれば、岡部先生はかなり僕に近いところに立っている。
なぜなら岡部先生は、鉱床を発見する研究者ではなく、レアメタルを「取り出す」「分ける」「精製する」「循環させる」ことを考え続けてきた研究者だからである。

僕は以前から思っている。
レアアースという商売で本当に難しいのは、
「あるか、ないか」だけではない。「分けられるか、作れるか、そして売れるか」なのである。

この最後のところに、岡部先生とアルケミストの「近くて遠い一里」がある。
「レア」という言葉に騙されてはいけない
レアアースという名前を聞くと、誰もが「地球上にほとんど存在しない珍しい金属」と思う。

しかし実態はそれほど単純ではない。
問題は、存在するかどうかよりも、目的元素を経済的に取り出し、分離し、精製できるかである。
レアアース元素は化学的性質がよく似ている。
だから分けるのが難しい。

しかも製錬・分離には薬品もエネルギーも設備も必要になる。
廃液や残渣など環境問題も避けて通れない。
岡部先生が長年取り組んできたのは、まさにこの世界である。
ネオジム磁石などからレアアースを回収する研究もその一つだ。

つまり、鉱山から掘ってくるだけが資源ではない。
都市に眠っている使用済み製品もまた資源である。
この考え方は僕にも非常に馴染みがある。
僕も以前から都市鉱山を日本の資源戦略の一つに据えるべきだと考えてきた。

中国は「鉱山があるから強い」のではない
ここでも岡部先生と僕の考えはかなり近い。
中国のレアアース支配を、「中国には鉱山がたくさんあるからや」と説明する人がいる。

それだけでは半分しか見えていない。
中国の本当の強さは、鉱石を掘る力だけではなく、それを分離し、精製し、金属にし、合金にし、磁石へ持っていく巨大な産業基盤を築いたことにある。
しかも環境コスト、人件費、設備投資、国家支援など、さまざまな条件の違いを利用して世界市場で価格競争力を築いてきた。

僕は1970年代から中国のレアアースを扱ってきた。
最初は原料供給国に見えた中国が、いつの間にか分離精製を押さえ、金属を押さえ、磁石まで押さえる姿を現場で見てきた。
ここは研究者の岡部先生と商売人の僕が、ほとんど同じ景色を見ているところだと思う。

それでも二人の視点は少し違う
では、何が違うのか。
僕なりに一言で言えば、岡部先生は「どうすれば合理的に作れるか」を考える。
アルケミストは「作った瞬間、相場はいくらになっているか」を考える。

ここである。仮に素晴らしい新製錬法が完成したとしよう。
環境負荷も小さい。回収率も高い。製造原価も従来より30%下がった。

技術者なら、「これは世界に勝てる」と思うかもしれない。
僕は商売人だから、その瞬間にこう聞いてしまう。

「先生、その時、中国品はなんぼです?」
嫌な男である。しかし商売というのは、そういうものだ。

原価は自分で下げられる。相場は自分では決められない
ここにアカデミアと市場の決定的な違いがある。技術開発では、原価を下げる努力ができる。

回収率を上げる。工程を短くする。薬品使用量を減らす。エネルギー消費を減らす。設備を改良する。
これは努力と技術革新によって改善できる世界である。

しかし市場価格は違う。
自分だけでは決められない。
今日100ドルのものが、来年70ドルになる。50ドルになる。
逆に200ドルになることもある。

しかもレアアースでは、中国という巨大な供給者が存在する。
日本が新しいプロジェクトを始めたからといって、中国が黙ってこちらの事業計画書を眺めていてくれるわけではない。
増産するかもしれない。
値段を下げるかもしれない。
輸出政策を変えるかもしれない。
一方で、価格が上がれば新しい鉱山も出てくる。
リサイクルも増える。

代替材料も開発される。
技術者が動けば、市場も動く。
これが資源ビジネスの難しさである。

研究室の「成功」と商売の「成功」
だから僕は、研究開発の成功と商業的成功を分けて考える。
これは研究者を批判しているのではない。
研究者が研究室で、「この方法ならレアアースを高効率で回収できます」と証明する。

これは立派な成功である。
次にパイロットプラントで連続運転に成功する。

これも成功だ。さらに工場を建てて年間何千トンも安定生産する。ここまで来れば産業技術として大きな成功である。
しかし商売人には、もう一つ関門がある。
売ることである。

品質認定を取る。数量契約を結ぶ。納期を守る。
為替が動く。相場が動く。在庫を持つ。運転資金を用意する。
そして最後に、代金を回収する。

僕にとって商売の成功は、銀行口座に代金が入って初めて完成する。
研究論文には「売掛金」という項目はあまり出てこない。
商社マンの頭には毎日出てくる。
南鳥島でも同じことが起きる
南鳥島のレアアース泥も同じである。

6000メートルの海底から泥を揚げる。
これはものすごい技術である。
日本は挑戦するべきだと思う。
しかし泥が船の上に上がった瞬間に、

「日本は資源大国になった」と言うのは早い。
そこから脱水し、運び、選鉱し、浸出し、分離し、精製し、金属化する。
さらに合金にする。

磁石にする。モーターにする。そしてトヨタや日立や三菱電機や世界の需要家が、「この品質、この価格なら買います」と言って初めて、サプライチェーンが閉じる。
僕が南鳥島について何度も「泥から磁石まで」と言っている理由はここにある。

岡部先生の「循環」とアルケミストの「複線化」
もう一つ、岡部先生から学ぶべき重要な考え方がある。
リサイクルである。日本には巨大な鉱山は少ない。しかし日本社会には、すでに大量のレアメタルが入っている。

自動車。モーター。電子機器。ハードディスク。工場設備。

これらは言ってみれば、地上に積み上がった鉱床である。
ならば南鳥島一本に賭ける必要はない。

海の鉱山。
都市の鉱山。
海外鉱山。
備蓄。
代替材料。
これらを組み合わせればよい。
岡部先生が「循環」を考えるなら、僕は商売人として「供給源の複線化」と考える。
言葉は違う。しかし目指すところはかなり近い。

アカデミアには百点がある。商売には百点がない
30年ほど岡部先生と付き合ってきて感じるのは、研究者と商売人は、同じレアメタルを見ていても時間の感覚が少し違うことである。
研究では仮説を立てる。
実験する。
データを取る。
再現する。
論文にする。
一つずつ確実性を高めていく。
商売はそうはいかない。
データが全部そろった時には、相場が終わっていることがある。
中国が政策を変える。

為替が動く。需要家が仕様を変える。昨日まで儲かった商品が、今日は赤字になる。

だから商売人は、六割分かったところで決断しなければならない。
ここが山師の世界である。
学者が不確実性を減らしてから前へ進む人なら、山師は不確実性を抱えたまま前へ進む。
ただし、無謀に進むわけではない。間違ったら逃げる。損切りする。方向を変える。
この「逃げ足」まで含めて商売の技術なのである。

岡部先生と僕は、かなり近い
だから加藤教授との比較とは少し違う。加藤教授が「資源」を見る。
岡部教授が「プロセス」を見る。アルケミストが「市場」を見る。

こう並べると三人は別々に見えるが、岡部先生と僕の距離はかなり近い。
なぜなら岡部先生は、研究者でありながら、

コスト、環境、リサイクル、産業競争力
という現実の世界を見続けてきたからである。それでも最後のところで違う。

岡部先生なら、「このプロセスなら合理的に金属を作れる」と考える。
僕ならそこからもう一度電話をかける。
「上海はいくらや?」「包頭はいくらや?」「需要家は何トン買う?」「支払い条件は?」

そして最後に、「ほんまに儲かるんか?」と聞く。
この少々下世話な問いこそ、商売人の仕事なのである。

科学者が金属を作り、商売人が市場を作る
だから岡部先生とアルケミストは、どちらが正しいという関係ではない。

むしろ両方が必要だ。
加藤教授が海底に資源を見つける。
岡部教授が、それをどう分離し、精製し、循環させるかを考える。
そしてアルケミストが、それを誰に、いくらで、何年間売るかを考える。

資源。
技術。
市場。
この三つがつながって初めて、産業になる。
南鳥島国家プロジェクトに必要なのも、まさにこの三角形だろう。
研究者だけでもできない。商社マンだけでもできない。
官僚だけでもできない。企業だけでもできない。

それぞれが自分の専門領域から少しだけ外へ出て、同じ算盤をのぞき込む必要がある。

右手に算盤、左手にロマン、背中にガマン
僕は国家プロジェクトには三つ必要だと思っている。

右手に算盤。
左手にロマン。
そして背中にガマン。
岡部先生の研究には、僕から見るとこの三つがかなり入っている。

だから30年付き合っていて話が合うのだろう。

ただ僕の算盤には、もう一つ余計な数字が入る。

「明日の相場」である。
今日作れるかではない。
明日売れるか。
中国が値段を下げても売れるか。

10年後も需要家が必要としているか。
そこまで考えるのがアルケミストの仕事だ。
研究者は元素を分ける。
商売人はリスクを分ける。
そして国家は、その二つを束ねなければならない。

南鳥島の泥を「宝」に変える最後の錬金術は、製錬技術だけではない。
科学を技術へ。技術を商品へ。商品を市場へ。
そして市場を国家の安全保障へつなげること。
そこまでできて初めて、レアアース泥は本当の意味で日本の資源になる。
30年来の友人である岡部徹教授の研究を見ながら、アルケミストはそんなことを考えている。

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