10月14日、(一社)日本機械工具工業会はヒルトン小田原(神奈川県小田原市)にて、2026年度秋季総会を開催した。出席者は67社、140名。
本報告では、秋季総会での主な話題について報告する。
会長あいさつ:住友電工 常務取締役、佐橋氏

秋季総会は佐橋会長のあいさつで幕を開けた。住友電工の常務取締役を務める佐橋会長は冒頭、2026年度上半期の機械工具の生産額を8月までの実績値に9月分を推定値で算出した結果、約3,021億円となり、前年同期比で127.5%の見込み額となったことを報告。数値の上では好調であるが、前年同期が低迷していたことや昨今の価格改定の影響がある。また、原料の供給不安に伴う在庫補充や価格上昇を見越した前倒し発注が含まれる可能性があると指摘し、需要動向の見極めは難しいという。
通期の生産額は下半期が上半期並みに推移すると想定すれば、前年同期比122.9%の約6,021億円となる見通しだ。6,000億円の大台に乗る推定値が算出されるも、佐橋会長はこの予測が保守的なのか、努力を要する水準かについて会員間で意見を交わしたいと慎重な姿勢を見せた。
業界が直面する最大の課題は、昨年に引き続きタングステンの原料調達である。日本機械工具工業会は新設した原料関連の委員会を中心に経済産業省との連携を深め、中長期的な視点から安定調達への対応を進める予定だ。今後は超硬工具スクラップのリサイクル促進に向けたガイドラインを制定し、会員企業を通じてユーザーへの周知と活用を図る。本内容は展示会などを通じ、資源循環の重要性への理解を広げていく考えだ。
最後に佐橋会長は、技術開発やものづくりへの支援と併せて業界の課題克服を後押しする方針を示して挨拶を締め括った。
来賓あいさつ:経済産業省製造産業局産業機械課、是安課長補佐

続いて、経済産業省製造産業局産業機械課の是安課長補佐が、令和9年度の概算要求と税制改正要望について説明。経済産業省は高市政権の「強く豊かな日本」投資枠として6兆3,116億円を設けている。本投資枠の主要項目はAI・半導体・ロボットやナフサ等の供給対応強化、防衛・デュアルユースなどがあるが、特に重要なのが重要鉱物の安定供給に向けた投資で、約6,800億円の予算が割り当てられている。
また、安定供給確保支援事業(重要鉱物)の令和9年度概算要求額は1390億円であり、令和8年度当初予算の約125億円から大きく積み増した。これは特定国への供給依存を低減し、国内製造業に不可欠な鉱物資源の確保を進める狙いによるものである。重要鉱物の確保では、レアアースなどの上流開発を含めた取り組みを支援する。調達先の切り替えに伴う試験・評価などの費用についても支援を進め、サプライチェーン全体の強靱化を図る考えだ。支援対象となる取り組みについては、経済産業省や工業会への相談を呼びかけ、発表を締め括った。
懇親会
秋季総会では業界功労賞や技術功労賞、環境賞や各委員会の活動内容の報告などが粛々と執り行われた。その後の懇親会では業界関係者が各々の意見や現状について情報を共有し、熱い議論を交わすこととなった。

懇親会では、田野井製作所の代表取締役を務める田野井副会長が乾杯の挨拶を務めた。田野井氏は乾杯に伴い、受賞者への祝意を示すとともに原材料問題や地政学的な緊張が続く中で業界を支える各委員会の尽力に感謝を述べた。これまで先人が築いた歴史を次世代につなぎ、日本のものづくりが未来に輝くことを願い、「乾杯」に代えて「ますます栄える」という意味の「弥栄」での唱和を呼びかけた。業界のさらなる発展と出席者の健勝、多幸を祈念し、会場一同が「弥栄」と声を合わせた。
懇親会会場では、そこかしこでタングステンの需給状況や調達先の変化について議論が交わされた。機械工具の生産額は過去最高水準となる見通しだが、価格改定や供給不安を背景とした在庫確保の動きも含まれ、数字だけでは各社の実情を捉えきれない。
中国は2025年2月4日、タングステンなどの関連品目に対する輸出管理を導入した。タングステンでは、製錬の中間原料であるパラタングステン酸アンモニウム(APT)、酸化タングステン、超硬合金の主要原料である炭化タングステンなどが対象となり、輸出には中国当局の許可が必要となった。一律の輸出禁止ではないものの、切削工具の製造に直結する原料が許可制の対象となった点で業界への影響は大きい。さらに、2026年1月には「両用品目の日本に対する輸出管理を強化する措置」を発表。デュアルユースや軍事力の向上に寄与するその他の最終ユーザー・用途に向けた両用品目の輸出を禁止する措置も導入された。民生用途を含む日本向け輸出の全面禁止ではないが、調達を考える上では品目だけでなく最終用途や取引先も確認する必要がある。こうした制度の下では、購入契約の確保と、必要な時期に原料が届くことを分けて考えなければならない。
各社は新たな調達先の開拓とともに、既存の取引先との長年の関係を生かした原料確保に力を注ぐ。使用済みの自社製品を回収し、再び原料として利用する仕組みを少しずつ拡充する取り組みもその一つだ。工具として国内に蓄積されたタングステンを「都市鉱山」として活用することは、海外からの供給を補い資源を循環させる基盤となる。
今回、技術功労賞の対象となったタングステンやコバルトの使用量を大幅に削減した超硬合金も、こうした課題への技術面からの回答である。筆者が主に取材するモーター・磁石分野でも調達が難しい重希土類の使用量を抑える、重希土類を使わない磁石を開発する動きがある。必要な資源を確保する努力と少ない資源で性能を実現する技術開発が、両分野に共通する課題となっている。
資源を巡る国際情勢を企業の努力だけで変えることは難しい。供給不安への対応を一時的な危機回避で終わらせず、調達とものづくりの強さへとつなげられるか。各社の地道な工夫と業界全体の連携が、切削工具産業の次の成長を支えるだろう。
(IRuniverse Midori Fushimi)