ハーバード&MIT&東工大でたたら製鉄&和鉄の素晴らしさを学ぶ
真夏日の続く都内目黒区大岡山の東工大(国立大学法人東京工業大学)にて22日、たたら製鉄の実演を学ぶという東工大では40年近く続いているモノづくり交流イベントが行われた。22日当日も32度という炎天下のなかだったが、そこに耐火煉瓦(アルミナシャモット)を積み上げた手製の炉を作り、火入れ後は東工大、ハーバード、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生に東工大の教授らもかわりがわりで人力による「踏みふいご」で空気を入れ続け、炉の温度を1,350度くらいまで上げていく。そのなかに木炭と砂鉄(マグネタイト)を交互に入れまさに「鉄」を作り上げていく。
またたたら製鉄とは別に、すでに出来あがっていた鉄を鍛錬し、ミニチュアの刀を作る作業も行っていた。
この一連の作業を海外のトップクラスの学生と日本の学生がともに行っていくという国際交流イベントなのだが、もともと東工大では学園祭のシーズンにたたら製鉄の実演を行っており、たたら製鉄研究で高名な永田和宏先生が率先して行っていたもの。今回は日本文化を通じた国際交流イベントということで、ハーバードの学生よりリクエストがあり、東工大でたたら製鉄の実演研修を行うことになったという。
このイベントでは「任意団体ものづくり教育たたら連絡会」の方々(TATARA STAFFのつなぎを着ている皆さん)が現場作業を行い、学生らに教えていた。炎天下のまた高温環境で作業を行っているため、つなぎの上にも塩が浮かび上がるほどだった。
東工大の太田絵里特任教授(環境学博士)によると
「これまでも慶応、ハーバード、東工大、横浜市大と提携した国際交流(大倉山フォーラム)を行っており、その一環」なのだという。
また金属工学が専門の東工大の渡邊玄助教(物質理工学院材料系/工学博士)によると
「長年、東工大でたたら製鉄技術の研究を行っていた永田和宏先生(*東工大名誉教授で現在は東京芸大。趣味で刀鍛冶も行う71歳)のライフワークとして40年ほど前からたたらの実演は行っていた。昔のたたらは煉瓦ではなく、粘土を使っており、粘土と砂鉄が反応していわゆる和鉄が出来上がってくるのだが、たたらの特徴として還元力が低いため、不純物は還元されににくいため(リン、硫黄が還元されない)純良な鉄ができる。その鉄のクオリティは恐ろしく高く、日本が鎖国していた時代でもこの和鉄は輸出されていたという話があるほど」だという。
この点をもうひとつ詳しく渡邊先生に語ってもらうと
「たたらの反応は粒が小さいので反応は速いです。炉内温度が低く、還元力が低いため,リン・硫黄は還元されにくいため鋼の中に入りにくく,純度の良い鋼ができます。(注:たたら製鉄でも強く風を送り,温度を上げると銑鉄ができやすい代わりに硫黄濃度が上がってきます) 粘土の炉壁が鋼の純度を上げると言う事は確定しておりませんので,削除した方が良いかもしれません。まだ分からないことだらけなのです。古い文献や,伝聞を元に資料化されたもので,ロストテクノロジーと化しています。日本刀も同じですね」。
この和鉄の完成度、美しさについては千葉の刀匠、松田次泰氏も講演で力説されていたが、和鉄の歴史は2,000年あり、また刀の歴史は鉄の歴史でもあるということで、なかでも鎌倉時代に作られた刀は今も最高峰。松田刀匠はこの鎌倉時代に作られた名刀・正宗を超える刀を作ることが目標なのだという。
和鉄と現代鉄(洋鉄)ではその性質に明らかな違いがあり、和釘は1,000年以上も錆びず、性質も変わらない。日本刀では切れ味と強靭さを備え、包丁や大工道具などにすれば驚くほどの研ぎ易さを生み出す日本の至宝といってよい。和鉄の時空を超えた驚異的な不変性については飽和状態になるほど含まれている酵素が関係しているともいわれている。
松田刀匠はこの和鉄で作った日本刀は武器ではなく芸術品。日本刀は国宝。国宝と重要文化財の違いは品格が有るか無いかで、日本刀はなによりも品格があり、美しいのだという。
さて、22日の午後4時にいよいよ出鋼。
一段一段レンガを外して炉を解体(分解)。
そして海外の学生による出鋼。真っ赤に燃える鉧を取り出し、素早く水を張ったタライに入れるも、鉧じたいがまだ1,000度あるため一気にタライの水は高温の湯となり気化していく。鉄が生まれた瞬間、皆に達成感が得られた充実した喜びの表情が広がった夕日のまぶしい東工大大岡山キャンパスでの一日だった。
(IRUNIVERSE Y.Tanamachi)
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