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日産のEV戦略 LIBSUMMIT2019より

2019/02/08 12:09 FREE
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 学士会館(千代田区神田錦町)で行われた、IRRSG『LIB SUMMIT 2019』(1月31日)。3人目の登壇者は日産自動車 渉外部・技術渉外部 部長 吉田誠氏だ。多様に変化する自動車社会、環境保護、そしてEVの未来について縦横に語った。

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■日産のEV戦略

 日産自動車株式会社 渉外部・技術渉外部 部長 吉田誠氏

写真 まず自動車が電動化へ向かってきた背景を説明する。

 

 筆頭に上がるのは「温暖化防止」である。この動きは欧州において顕著である。さらに「排ガス対策」が挙げられる。有名なところではカリフォルニア州のゼロエミッションがある。

 

 また「エネルギーセキュリティ」の問題がある。中国、インドには人口問題があり、十何億人もの人口を支えるには、原油だけでは無理がある。サウジ、湾岸国も、原油を高く売るためには、自国での消費をセーブする必要がある。

 

 さらに「産業振興」という課題。中国、インド、ASEANではEV導入にはインフラ投資コスト(設備投資、設置コスト)が安く済み、運営費、個人負担も安い。技術困難度も低く、産業振興の核に据えている。ドイツではディーゼルゲートが問題化しており、ここからEVの開発を加速されることも考えられる。

 

 

中国と次世代高出力規格を共同で作る

 さて、EVに欠かせない急速充電の規格だが、残念ながらいまのところ世界的に統一されたものはない。また急速充電スポットは、現在日本全国で6,953ヶ所、7,241基あるが、そのほとんどは「自動車販売店」「道の駅」「宿泊施設」「コンビニエンスストア」などが付加価値的に設置しているもので、充電専門の施設は少ない。新たなビジネスモデルの構築を進める必要性が感じられる。

 

 充電プラグも多様化しており「大型」では重機、ヘリコプター、セスナ、船舶向けがあり、これらは海外では既に販売されている。また「現行型」として乗用車(高級車タイプ)、「小型」ではフォークリフトや二輪車用があり、これらをあわせて世界的に提案したい。

 

 昨年10月、安倍首相と中国の李克強首相との間で、次世代高出力規格の共同製作について会談が持たれた。ここでは日本の急速充電規格であるCHAdeMOと中国の規格GBT共通のCAN通信を使用するなど、具体的な合意がなされ、中国国内法規として採用が予定されている。ASEAN、インドなどに世界レベルの標準として売込み、将来的には国際規格として提案していく。

 

 中国と協業することにより、高品質(安全性、耐久性、互換性)な規格が作れ、また中国と規格を同じくすることで実質的な世界標準化が可能。数量の目処がつくことでコスト削減が期待できる。従来の充電器も無駄にならない。

 

非接触充電など、充電への気遣いは無用に

 充電の未来の話をすると「非接触充電」が挙げられる。2020年頃にはワイヤレス普通充電@自宅、2025〜35年にはワイヤレス普通充電と@立体駐車場、公共ワイヤレス普通充電が、2035年以降ではタクシーの断続充電、交差点充電、専用レーンで走行中給電などが考えられる。

 

 逆にクルマから給電するV2Hシステムも進展する。EVの蓄電能力を利用することで、住宅での節電や再生可能エネルギーの利用促進、効率向上が可能に。太陽光など再生可能エネとの連携、ピークシフト・電気代節約、VPPやスマグリへの接続、さらに非常用の電源としても利用出来る。

 

 このようにEVは分散電源利用が可能だが、自動車の“動ける”メリットを活用できる。例えば過疎地への電力供給(送電線→EVが電力を運ぶ)、非常時の備え(EV1台で通常家庭4〜5日分の電力供給可能)、被災地へのエネルギー運搬(東日本大震災ではLEAFを提供、電気は48時間で復旧したので移動手段が中心/熊本地震の際は、移動+分散電源として避難所などに電力供給)として用いられる。

 

 優れたバッテリー性能の開発には、リソースリスク、パックコスト、安全性、充電性、エナジーデンジティーなど、各種性能の高次元でのバランスが必要だ。

 

 日産の実績を紹介すると、現在バッテリーのワンパックにはセル192枚が使われている。EVの販売実績が49万台なので、セルは約9400万個にもおよぶ。全日産EVの走行距離は93億kmにもなるが、ここで発火などのバッテリー重大不具合は0件を誇る。

 

 日産でもLIBの需要は今後大きく伸びると予測しており、二次市場の形成が大きな課題と捉えている。LEAFのバッテリーもリユースしようとしているが、運搬の難しさなどからリサイクルにまわされるケースが多い。効率の良い運用体制の構築が急務で、回収を含めた運搬・管理など共通商流の構築、リユースを目的とした二次電池市場の創出、安価なリサイクル(材料取出し)技術の開発、バッテリー性能の保証制度(経産省はじめ各関係で詰める)、法規・規格・システムの整備が必要だろう。

 

 日産が51%出資しているフォーアールエナジーでは、使用済みパックを再生工場にて状況分析(独自技術)、用途に応じて組直し(独自技術)、再パック化している。これらは家庭用蓄電池、産業用蓄電池、予備電源、移動電源などにリユースしている。また、バッテリー性能の保証が必要となる。お客様にどういう電池かをわかりやすく説明、提示する数値には公的裏付けが必要となるだろう。

 

【質疑応答】

Q:日産では、自動運転車はEVを前提に開発しているか?

A:モーターに限らず、さまざまな細かなレスポンス、制御の面で考えるとEVが最も適している。

 

Q:次世代高出力規格を日中で共同作成するとのことだが、米中貿易摩擦が強まるなか、中国とアライアンスを組むことに懸念はないか。リスクヘッジが必要ではないか?

A:現在、3つの国に対し、日中規格の採用を呼びかけている。ひとつはEVの普及が急速に進むと考えられるインド、次に韓国(輸出向け)、さらにドイツ(2020年に同規格の採用を要請)。こうして、徐々に採用国を広げていくことで、米などとの競争のリスクヘッジとしたい。

 

(IRuniverse kaneshige)

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