Fe Scrap Watch# 187 迫りくる中国の買いに身構える国内電炉、高炉メーカー
“沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。”
平家物語の冒頭にある言葉だが、良い時代は永く続かないという意味である。
中国という眠れる獅子を目覚めさせてしまった感があるが、米国という盛者が衰退する分岐点になるかもしれない。
今月に入り世界を震撼させていた米大統領ドナルド・トランプの失墜により世界中の中国への包囲網が崩れるという見方から、あらゆるコモディティが上昇。
余りにもドラスティックに政治をしすぎた事で、平和主義者から反発を受けた。
筆者は個人的にも、そして日本に住むものとしてトランプ氏に後4年続けて欲しかったが、世界の商人にはトランプ失墜がプラスに見えたのだろう。。
それでなくても中国国内は共産党がコロナ過からの脱却の為に内需創出に勤しんでおり鉄鋼需要が上向いているところに、コロナ蔓延している東南アジア、中東アジアや欧米までがコロナ蔓延がピークに達したという見方から鋼材手当てを活発化。特に顕著にその効果が表れているのが隣国韓国で、純輸出国である同国の内需は相変わらず弱気であるのにも関わらず、中国マーケットの上昇により安価な鋼材が流入しなくなったことから、内需向け発注が増加。各ミルのロールが埋まっている。
【高まる中国向け鉄スクラップ輸出解禁への期待】
にわかに噂されている中国の冷鉄源輸入解禁。年明け1月から買い始める、という噂は根強い。近隣国で純輸出国である日本と、米国の2カ国が主な対象になるが、すでに日本国内では中国系ディーラーが中心になって、高値で買い出しているという話も聞く。
日本国内は2020暦年はコロナショックにより国内粗鋼生産量は減少。鉄スクラップを使用する電気炉メーカーも粗鋼生産量が増えず、10月までの鉄スクラップ輸出量は年換算で900万トンを突破する勢いだ。通常が700~800万トン前後であるから、今年の輸出量はハイペースであることが見て取れる。
日本産鉄スクラップの輸出先は、2010年代前半までは韓国がメインであったが、2009年のリーマンショック後に初めて輸出されたベトナム向けが向け先のトップを奪取し、その他マレーシアや、特記すべきバングラディッシュ向けがけん引している。
バングラディシュには鉄鋼メーカーは3社が輸入のトップバイヤーだ。
特にバングラディッシュは関税制度の為原料の価格に対して、国内の製品単価が高いことから、鉄スクラップを輸入するには購買可能な価格的に有利な状況にある。
そんな中、筆者が以前書いた中国の鉄スクラップ輸入解禁が、日を追うごとに現実味を帯びてきている。中国国内のディーラーやユーザーが鉄スクラップの輸入解禁をターゲットに準備を進めており、日本国内でも各サプライヤーは積み上げて出荷しないように動いていることから、さらにタイト感を演出している。
加えて、国内市場では発生も増えないなか、国内電炉、高炉もここにきて生産は絶好調。低迷を極めていた山陽特殊鋼ですら12月、1月はフル生産である。他メーカーでも同様で、すでにナイモノ高。そこにきての先日の関東鉄源の3万円超えが騰勢を強める。これもバングラ向け(伊藤忠)だった。
この状況で中国の買いが入れば、文字通り火に油を注ぐことになる。
さすがに高炉メーカーも応戦体制を固めているとも聞く、
製品が日を追うごとに高値を記録している今、鉄スクラップの単価も上昇気流にあり、すでにHSは35,000円近辺をターゲットに上がって行くだろう。これでも慎重すぎる見通しかもしれない。
もし中国が鉄スクラップを購入開始するとしたら、ひっ迫した原料手当て競争が起きるかもしれない。高値すぎて買えなくなるまでだ。
その水準はどこまで製品単価が上がるか、に依る。
注目の一か月。あまり煽りすぎてもよくないが、現実的な商いは今は必要ないかもしれない。
中国ビレット価格と中国国内鉄スクラップ価格の推移 1年
(J.IIDA)
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