環境ビジネス問わず語り 安いものを好む、というわけではなく
昨今、携帯電話の値下げに絡む話をあちこちで聞くような気がします。菅首相肝入りの政策ということで、ケータイ各社に値下げ圧力がかかっている、という読み解きも耳にします。でも良く見ると、いわゆる格安スマホと呼ばれるサービスが前面に出ていることが多く、大手各社がメインのサービス、すなわち5Gや新型iPhoneについて大幅な値引きをした、というわけではないようです(やがてそうなる、と言う期待は小さくないようですが)。
格安スマホで新型端末を使おうとする場合は、SIMフリー端末を自分で買わなくてはいけないわけですが、こちらは当然それなりの価格を覚悟しなくてはなりません。5Gのサービス開始も、大手より早いということは考えにくいでしょうから、しばらくは今と同じかそれ以下の通信環境を覚悟することになります。
それでも毎月支払う価格の安さは魅力、というギリギリのレベルに料金設定されているようで、5Gをあきらめても新型iPhoneのSIMフリー版を買って格安スマホに乗り換える!といった声を聞いたりします。
いわゆる経済のサービス化という観点から見ると、このオプションはいささか逆行しているように見えます。いわゆるサブスク、あるいはレンタルが広まってゆく流れの中で、敢えて高額な投資をし(SIMフリー端末を買う)、毎月の料金を気にしながら(サブスクはしない)使おうというわけですから、むしろ一昔前の購買行動に近いと言えます。
価格が安ければ、顧客はやはり買取りへと流れてしまう、価格の影響力がどこまで強いかを端的に示す事例だと思います。環境ビジネスでもこの点は重要で、単にサブスクだから、サーキュラーエコノミーだから、あるいはESGに関わる認証を取っているからビジネスを乗り換えてもらえる、というほど単純にはできていません。むしろ価格で全てが決まる、と言う要素が相変わらず主体です。その中で今なぜ新しいビジネスモデルが注目されているのでしょうか?人が好んで高いものを買う、そんな市場があるのでしょうか?
ヒントの一つがお歳暮やお中元などの贈答需要と自家消費の差に隠れているような気がします。あくまで一般論ですが、世の中には自家消費には第三のビールでも、贈答用にはプレミアムビールを贈ると言う方が少なくないのではないでしょうか。安いから、と言う理由で第三のビールを贈るという選択肢は、ないとは言えないかもしれませんが一般的とは言えないと思います。
たとえば燃料油を売る仕事について、かつて燃料はお客様にとって自家消費財の典型でした。それを使って作ったモノや運んだ商材を次のお客様に届ける中で、燃料油は完全にその姿が消えてしまいます。安いものを安定供給することだけが燃料油のサプライヤーに求められた仕事でした。
ところが、新しくカーボンフットプリントと言う形で、次のお客様へとその価値が引き継がれて行く時代が見えてきました。スコープ3と言われる区分でCO2排出量が最終消費者にまで影響する仕組みが出来て来たからです。市場でも、バイオ燃料などの台頭もあって、燃料油についても価格的に安いだけでなく、少しでも環境に優しいことが求められるようになりつつあるのです。
環境ビジネス的に言えば、お客様の先に更なるお客様がいるという、サプライチェーン構造を想起する中で、提供する商材が自家消費に向けられていた時代から、贈答品的な色彩を帯びてきたという変化がやって来つつある、という説明になります。もっともお歳暮とちがって、CO2対策はかなり強制力を持った話になりそうですが・・。
CO2を排出しても安ければ良いのか、あるいは多少高くてもCO2を出さないものが良いのか、なかなか難しい話に見えるかもしれません。でも、次のお客様へと価値が引き継がれて行く時代、好むと好まざるに関わらず、CO2削減を謳った取引でないと相手にすらしてもらえないという時代がすぐそこまで来ているのです。
2021年、時代はさらに動きます。変化に対応することで生き残る、そんな経営判断が待ったなしで求められる時代がやってきます。時代の方向を見誤らないように、気を付けたいと思っています。
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西田 純(環境戦略コンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、2008年にコンサルタントとして独立。サーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会会員、サーキュラーエコノミージャパン会員
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