金融アナリスト川上敦氏の世界経済動向分析 クレディS問題、深刻化する可能性も
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが4月2日に行われた。いつものように各種データを駆使したセミナーから見えてきたのは、目下世界を騒がせているクレディスイスを中心とした欧州の金融機関の財務問題の深刻度だ。
■クレディ連鎖は起きるのか
川上氏のデータによると、クレディの株価は仏同業のUBSによる買収が決まってからも下落が続いている。ただ、クレディと同じく財務に問題があるとのうわさが絶えないドイツ銀行や英HSBCの株価は底堅く推移しており、川上氏は「同業への連鎖については、市場はそこまで心配していないようだ」と見る。
クレディ、ドイツ銀、HSBCの株価推移
しかし、川上氏自身の見立てはもう少し悲観的だ。「世界景気があまり強くなく、欧米が金融引き締めに動いた後での金融機関の財務悪化は良くない状態だ」とし、債券などの動きも考えると「半年後くらいに、2008年のリーマン・ショック級の景気悪化が来てもおかしくない」「クレディは意外に大きな問題になるかもしれない」と話した。
■景気悪化の兆候が各所に
クレディ問題が懸念されるのは、景気悪化の兆候が各データに散見されるからだ。まず、米国では金利の逆イールド(短期金利が長期金利を上回る、一般に景気減退の兆候とされる)が完全に定着した。また、「ドクター・コッパー」の異名を持ち、景気の先行指標とされる銅相場も勢いを取り戻せていない。
株式相場も日米株がさえず、中国株もまあまあの値動き。こうした景気の先行指標が各所で弱含んでいるなかで金融機関の財務問題が起きていることに、川上氏は警鐘を鳴らした。
■世界経済、米国のピークアウトが重荷に
セミナーでは、最新の世界各国のGDP成長予想値も示された。
世界各国のGDP成長予想値
特に米国の成長率が1%を下回っており、世界経済の下押し要因になりそうだ。川上氏は「米国について新型コロナウイルスによる景気停滞からは回復したが、反発度合が縮小している」と指摘。住宅市況の悪さが足かせになっているとも話した。
日本は1.0%で、川上氏によれば「相対的に頑張っている」。輸出は外需の低迷を反映して対中・対米・対アジアとほぼすべての地域向けが減ったが、円安で相殺されているとも話した。輸出については今後、回復の見込みがあるという。
また、川上氏は中国について「5.7%との予想だが、達成は難しいのではないか」と疑問を呈した。小売売上高が完全に頭打ちになっているうえ、発電も横ばい。不動産投資や工業生産高も伸び悩んでいるとしている。ユーロ圏もコロナ前の2019年の水準には戻したものの本格回復とは言い難く、消費者信頼感指数などは「一時良くなったのにまた悪くなっている」と指摘した。
■インフレはピーク越え
一方、商品相場は落ち着きが続き、今後も再過熱の可能性は低そうだ。川上氏はコモディティ(CRB)指数について「ピークは2022年7月だったようだ」と指摘。エネルギー価格、穀物価格ともにピークアウトしたとの見方を示した。
さらに、株式市場では天然資源株が伸び悩んでおり、川上氏によると「先行きを期待されていないようだ」。今後のインフレ再燃は過度に警戒する必要はなさそうという。
このほか、これまでの低金利継続などから世界の金融流動性が歴史的な水準にあること、円ドルの変動性上昇なども指摘があった。
(IRUNIVERSE/MIRUcom Kure)
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