ディスクリート半導体#16 SiC製品編と市場予測
1、 SiCパワ半導体デバイスとして製品化されているものは大きく分けて3種類ある。①SiC SBD(Schottky Barrier Diode), ②SiC MOSFET, ③SiC パワーモジュールである。
SiCは高速なデバイス構造であるSBD構造を構築することによって600V程度以上の高耐圧ダイオードの実現が可能である。ちなみにSiの場合はおよそ200Vまでであるといわれている。このため現在主流の高速PN接合ダイオード(FRD:ファーストリカバリーダイオード)から置き換えることによりリカバリ損失を大幅に削減できる。
また、電源の高効率化や高周波駆動によるコイル等の受動部品の小型化、ノイズ低減に貢献する。力率改善回路(PFC回路)や整流ブリッジを中心に、エアコン、電源、太陽光発電パワーコンディショナー、EV急速充電器などに応用が広がっている。
Fig1 シリコンSiとSiC SBDの耐圧比較(ソース:Rom)
2、SiC-SBDの特性
Siの高速PNダイオード(FRD:ファーストリカバリーダイオード)では順方向から逆方向に切り替わる瞬間に大きな過渡電流が流れ、この瞬間に逆バイアス状態に移行することで大きな損失を発生していた。これは順方向通電時にドリフト層内に蓄積した少数キャリアが、消滅するまでの期間(蓄積期間)電気伝導に寄与してしまうために起こるといわれている。順方向電流が大きいほど、また温度が高いほどリカバリ時間やリカバリ電流は大きくなり、多大な損失となる。
一方、SiC-SBDは少数キャリアを電気伝導に使用しない多数キャリアデバイス(ユニポーラデバイス)であるため、原理的に少数キャリアの蓄積が発生しない。接合容量を放電する程度の小さな電流が流れるのみで、Si-FRDと比較して損失を大幅に削減できる。
この過渡電流は、温度や順方向電流にほとんど依存しないため、どんな環境でも安定した高速リカバリを実現できる。また、リカバリ電流に起因して発生していたノイズ削減も期待できる。
SiCショットキーバリアダイオード(以下SBD)の構造について説明する。Fig2のように、半導体であるSiCにショットキーバリアを得るために金属が接合(ショットキー接合)されている。構造に関しては、Siのショットキーバリアダイオードと基本的に同じで、ポイントとなる特徴は高速性であることも同様である。
それでは、SiC-SBDの特徴は何かというと、優れた高速性をもちながら高耐圧を実現していることである。Si-SBDの耐圧を上げるには、図のn-型層を厚くしてキャリア濃度を低くすればよいが、抵抗値が上がりVFも高くなるなど損失が大きく実用にならない特性になってしまうため、Si-SBDの耐圧は200Vが限界である。これに対し、SiCはシリコンの10倍の絶縁破壊電界をもっていることから、実用的な特性を維持しながら高耐圧にすることができる。
Fig 2 Siショットキーダイオード(左図)とSiCショットキーダイオード(右図)
3、SiC SBDの市場環境
Fig3はSiCディスクリートデバイス(SBDはディスクリートの範疇でカウントした)の市場規模と成長予測である。棒グラフは数量(単位:百万個)、折れ線グラフは販売高(百万ドル)である。2021年7億個、800百万ドル程度であったものが2030年には111憶個、7200百万ドル規模になると推定する。(筆者推定値)
Fig3 SiC ディスクリートデバイスの市場予測
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(椿匡之)
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