3鉱種 中国経済低迷などで下落 一時持ち直すも上値の重い展開に――JOGMEC8月レポート
JOGMECがまとめた8月の「非鉄金属市況と需給動向」によると、中国経済の低迷や欧米の利上げの影響が重石となり、銅・亜鉛・ニッケルの3鉱種とも中旬に月間の最安値を記録、その後一時持ち直したものの、余剰感が出て相場の頭がおさえられた。
8月の市況動向
銅・亜鉛・ニッケル
上旬は世界経済の不透明感を受けて下落傾向、持ち直すも需要減退への警戒感は継続か
8月は銅8,720.5US$/t、亜鉛2,554.0US$/t、ニッケル22,355.0US$/tと、いずれも月の最高値でスタートした。
ただ、7月31日発表の中国国家統計局の製造業購買担当者景気指数(PMI)が49.3と4か月連続で50を割り込むとともに、当局が発表する景気刺激策が金利引き下げなどの小規模なものに留まったため、中国需要の減退見込みに圧迫され、15日に銅が8,126.5US$/t、ニッケルが19,685.0US$/t、18日に亜鉛が2,261.0US$/tと、それぞれ8月の最安値をつけた。
20日に中国当局が中小企業や製造業を支援する具体的な景気刺激策を実施すると表明し、工業需要増加期待により3鉱種とも一時上昇に転じた。
しかし、20~24日にICSG、ILZSG、INSGが発表した2023年上半期の需給バランスがそれぞれ210千t、370千t、105千tの供給過剰となり、欧米各国中銀の金融引き締めによる需要減なども重なって、3鉱種とも市場の余剰感が出て上昇を抑制した。さらに24~26日に開催されたジャクソンホール会議において、米連邦準備制 度理事会(FRB)のパウエル議長が金融引き締めを継続する意向を示したことも重石となり、下旬は横ばいで推移。銅は8,359.5US$/t、亜鉛は2,412.5US$/t、ニッケルは20,225.0US$/tで越月する展開となった。
需給動向 -銅-(8月発表分)
2023年6月の世界鉱石生産量はペルーが貢献し増加、
地金需給バランスは2か月連続で供給不足に
①2023年6月世界鉱石生産量は前年同月比で増加:
国際銅研究会(ICSG)によると、2023年6月の世界鉱石生産量は1,908.8千tで、前年同月比4.5%増となった。干ばつや 鉱石品位低下が続くチリでは、エスコンディダ鉱山の生産量は同比8.7%増となったものの コジャワシ鉱山などの減産に相殺され横ばいだった。ペルーでは、ケジャベコ鉱山の立ち上がりやラスバンバス鉱山の操業再開により20%以上の増産となり、世界生産量の水準を押し上げた。
②2023年6月需給バランスは90千tの供給不足に:
ICSGによると、2023年6月の世界地金生産量は2,245千tで前年同月比5.4%増、世界地金消費量は2,335千tで同比3.3%増となり、需給バランスは90千tの供給不足となった。インド・インドネシアなどの減産で供給不足とはなっているものの、世界経済の減速による需要の冷え込みにより、不足幅は前年同月と比較して縮小している。
需給動向 -亜鉛-(8月発表分)
ILZSG発表の6月鉱石生産量はTara鉱山操業停止も世界全体では増、
需給バランスは供給過剰が継続
①2023年6月鉱石生産量は増加:
国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)の2023年8月発表によると、2023年6月の鉱石生産量は1,075.3千t(対前月比1.7%増、18.1千t増)となった。欧州では、スウェーデンのBoliden社がアイルランドのタラ鉱山を操業停止するなどやや減産となったほか、メキシコではPenasquito鉱山においてストライキにより出荷に対する不可抗力が宣言された。一方、中国やペルーでは5%以上の増産となり、世界全体の生産量は小幅ながら増加した。
②2023年6月の需給バランスは供給過剰:
ILZSGによると、2023年6月の地金生産量は1,171.7千t(対前月比0.1%減、1.6千t減)、地金消費量は1,095.8千t(対前月 比0.9%減、9.8千t減)で76千tの供給過剰となった。地金生産量は、中国の湖南省、河南省などで定期的なメンテナンスサイクルに入ったことにより減産となった。一方、一部の製錬所において夏季の停電や電力価格高騰を考慮して事前に増産が行われたことで減少幅は微小に留まったほか、世界全体でも堅調に推移した。地金消費量は、フランス・ドイ ツ・イタリア・ポーランドなど欧州で増加したが、米国・中国・日本・インド・台湾・ト ルコなどアジアを中心に需要が冷え込んだことで相殺された。
③2023年1~6月需給バランスは370千tの供給過剰:
ILZSGによると、2023年1~6月需給バランスは、370千tの供給過剰となった。供給面では、電力価格高騰などにより減産 していた欧州や中国が回復した。一方需要面では、ゼロコロナ政策からの回復が鈍い中国が低迷した。
需給動向 -ニッケル-(8月発表分)
インドネシア 採掘枠の不正問題により採掘量の割当が遅延、
国内の鉱石供給に懸念が発生しフィリピン産鉱石の輸入も
①2023年6月プライマリーニッケル需給バランス:
国際ニッケル研究会(INSG)の2023年8月発表によると、2023年6月の世界ニッケル需給バランスは27.4千tの供給過剰となった。
②2023年6月の尼ニッケル生産・輸出状況:
INSGの国別データによると、インドネシアのプライマリーニッケル生産量が122.2千t(前月110.7千t)となった。また、同国からのニッケルマットの輸出は、中国向けが15.1千t、日本向けに6.3千tの合計21.4千tとなった。
③インドネシア、フィリピンから鉱石輸入:
インドネシアの国内製錬所は、国内の鉱石供給が不足しているため、フィリピンからの鉱石輸入を開始。鉱物生産量の割り当て作業が遅延していることが、PT Antamの主要鉱山の操業に影響を及ぼしている。
-金・白金族-
■ 金市況動向
米経済が堅調で前半下落、下旬若干不振で上昇しV字の展開
①堅調な米経済・インフレ継続 低調な中国経済で下落基調に:
8月最高値の1,952.0US$/ozでスタート、上旬~中旬に下落基調が続いた。4日発表の米失業率が3.5%と予想をやや下回る等、労働市場の過熱感が少々薄れたことで米連邦準備制度理事会 (FRB)の追加利上げ観測が後退したため、わずかに上昇した。しかし、週明け7日、FRBのボウマン理事が物価安定の完全回復に向け更に一段の利上げが必要と発言、再び下落基調 となった。
8日発表の中国貿易統計(輸出・輸入共に前年割れ)、9日発表の中国消費者物価 指数(0.3%減)、生産者物価指数(4.4%減)等により中国景気の低調ぶりが意識され、8 日はドル高も進行し、下落に繋がった。
11日発表の米生産者物価指数(PPI)が前月比0.3%増、前年比0.8%増となり、依然インフレが高水準であることが示唆され、米長期金利が上昇、ドル高も相まって更に下落した。15日発表の米小売売上高が0.7%増と予想(0.4%)を上回り、米金利の高止まりが継続するとの観測が浮上。17日発表の米新規失業保険申請件数が239千件と、前月(248千件)より減少したことでも米経済の堅調ぶりが示唆され長期金利とドル上昇で一層下落、1,900US$/ozを下回り、週明け21日、当月最安値の1,890.0US$/ozをつけた。
②米経済指標が振るわず利上げ観測後退、上昇:
22日、米長期金利の一時低下を受け上昇に転じ、23日発表の米製造業PMIが47.0と振るわなかったことから更に上昇、1,900US$/oz台に値を戻した。25日、米年次経済シンポジウム(Jackson Hole会議)でFRBのパウエル議長が、適切であればさらに金利を引き上げる用意があると発言、一時的に下落したが、予想範囲内の発言だったため小幅な下落に留まった。28日の英バンクホリデーを挟み、週明け29日、米Conference Board発表の消費者信頼感指数が106.1と予想(116.0)や前回(114.0)を下回り、FRBの利上げ局面が後退したとの見方も出て上昇、1,943.3US$/ozで越月した。
■白金族(PGM)市況動向
白金族は需要減退懸念で低迷継続
プラチナ:
新規用途である新エネ車への需要増期待やガソリン車触媒のパラジウムからの代替需要があるものの、影響は限定的で1,000US$/ozを下回る安値が継続している。936.5US$/ozでスタート。16日、8月最安値の891.0US$/oz。30日、8月最高値の 983.5US$/ozをつけ、翌日979.0US$/ozで越月した。
パラジウム:
EV普及やプラチナへの代替に伴うガソリン車用排ガス触媒の需要減退が意識され、1,200US/oz台の安値が続いている。1,253.5US$/ozでスタート。9日に8月最安値の1,218.0US$/oz、11日に8月の最高値1,314.0US$/ozをつけ、1,230.0US$/ozで越月した。
(IRuniverse G・Mochizuki)
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