EVは「魔法の杖」か 恒大汽車に見る中国電気自動車界のあだ花たち
中国不動産大手の中国恒大集団の経営危機が世界中の注目を集めている。債務不履行(デフォルト)危機や幹部の拘束などが日本でも連日、報道されている企業だが、この会社が傘下に電気自動車(EV)メーカーを抱えていることをご存知だろうか。実は、不動産をはじめ他業種企業がEV事業に手を出すことは、中国では珍しくない。その理由を考えてみたい。
■恒大会長「10年以内に自動車会社に転身する」
中国恒大新能源汽車集団(恒大汽車)。香港株式市場に上場する、恒大傘下のEVメーカーの社名である。同社は2018年から事業を展開し、2022年に初の独自ブランド車を発売した。しかし、納品車数は1000台未満との報道もあり、事業は事実上停止状態。2023年夏にはドバイの同業が出資すると伝わったものの、工場が荒廃しているとの報道もあり、親会社が揺らぐ中で事業どころではないのが現実のようだ。
恒大汽車はもともと医療サービスなどを手掛ける企業だったが、他社買収などを経てEV企業に転じた。恒大グループは事業多角化の象徴として恒大汽車に注力し、9月に中国当局の監視下に置かれていると伝わった恒大グループの許家印会長は「10年以内に自動車会社に転身する」と息巻くほどだった。特に、中国の不動産市況に陰りが出てからは「魔法の杖」よろしくEVに望みをかけていたと伝わっている。
■EV工場の建設を申請→実は…
実は、不動産会社がEVを手掛けるのは恒大が初めてではない。深圳市の不動産開発系複合企業である宝能集団も、2017年から「宝能汽車」を展開している。宝能は深圳の同業である万科企業に敵対的買収を仕掛けたことで知られるが、投資アイテムとしてのEVにも早くから目を付けていたわけだ。なぜか。
実は不動産企業にとって、EVは使えるアイテムだった。中国では不動産会社が工場建設案を提出し、地方政府から土地を借りてそこに住宅も建てる手法が珍しくない。つまり、工場建設に名を借りた住宅建設なのだが、特に中国政府が普及を促進するEV向け工場なら認可が下りやすいという事情があった。
これは、地方政府にとっても工場建設で税収や雇用が増える他に、住宅用地の使用料も見込めるおいしい案件でもある。実際、恒大汽車も2019年に傘下企業を通じて「住宅用地」を購入している。
■楽視集団は英米での展開目指すも
思えば、他業種企業による「おいしい」EVへの投資活動はさらに以前からあった。
例えば、中国の深圳株式市場で一時は時価総額最大の企業となった中国動画配信サービスの楽視集団(LeEco)。2016年に高級車の英アストンマーティンとEV「ラピードE」の共同開発で合意したほか、米EVベンチャーのファラデー・フィーチャー(FF)にも出資した。しかし、EVを含む事業の多角化が急すぎて、その後は経営が悪化した。創業者は米国で破産申請し、会社自体も2020年に深圳証券取引所での上場を廃止した。浙江省での大型工場建設も発表したEVは結局、コンセプトカーの発表にとどまった。
「ウィーチャット」などを手掛ける中国ネットサービスのテンセントが立ち上げたEVメーカー「拝騰汽車(バイトン」も、2021年に破産している。同社とは一時、丸紅が提携していた。
■あだ花たちを踏み越えて
株の神様ウォーレン・バフェットがBYD株に投資していた2000年代から、中国ではEVは「魔法の杖」のごとく「儲かる」「おいしい」商売だった。それは今も同じで、EVと言えば政府の認可が下りやすく、投資資金が集まりやすい。結果、大小新旧問わずEVメーカーは乱立し、価格競争も激しくなっている。
もちろん、こうしたあだ花も踏み越えて、産業の歴史が培われてきたのも事実だ。隆盛を極めるように見える中国のEV産業とて、一朝一夕でできたわけではないと言えるだろう。
(IR Universe Kure)
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