東芝、コバルトフリーのリチウムイオン二次電池開発 電池価格は下落、24年は競争激化か
東芝は11月28日、自社ホームページ上で、コバルトフリーな5V級高電位正極材料を用いた新たなリチウムイオン二次電池を開発したと発表した。各社は電気自動車(EV)向けなどを期待して様々なタイプのバッテリーの開発を進めるが、足元の電池価格全体は下落している。2024年は価格競争が一段と激化する可能性がある。
■東芝の新電池、2028年に実用化 まずは電動工具から
東芝はこの二次電池について、2028年の実用化を目指し、先行して電動工具や産業機器など小型で高電圧を必要とする用途への展開を検討するとした。将来的には車載電池など大型の用途への展開を目標とする。
東芝によると、今回の二次電池に用いた5V級高電位正極は、電極の構成部材を改良することにより、従来型の電解液を使用しながらも副反応を大幅に低減した。この正極技術とニオブチタン酸化物(NTO: Niobium Titanium Oxide)負極を組み合わせたリチウムイオン電池(ラミネート型)を試作したところ、3V以上の高電圧、5分間で80%の急速充電性能、高いパワー性能に加えて、60℃の高温下でも優れた寿命特性を実証することができたとしている。
東芝は、この二次電池はコバルトだけでなくニッケルの含有量も少ないため、低コストでの生産が可能であるほか資源保全の面でも優れていると指摘した。同社はこの研究開発成果について、11月28日から大阪国際会議場で開催の「第64回電池討論会」で発表する。
■リチウムイオン電池パック価格、23年は過去最安値
東芝の開発もEV向けを目標としたものだが、実は電池需給は供給過剰になりつつある。ブルームバーグ通信は11月26日、調査プロバイダーのブルームバーグNEF(BNEF)の分析として、2023年のリチウムイオン電池パックの価格は前年比14%安い139ドル/kWhと、過去最低を記録した。EVの普及需要を見込み、バッテリーの供給網(サプライチェーンの各々の分野で投資が増えたが、実際のEV販売は予想よりも伸び悩んだことが原因という。
BNEFの調査では、EVと定置型エネルギー貯蔵のバッテリー需要は950ギガワット時と前年比53%程度伸びる見通しだが、それでも当初の需要期待には届かなかったという。ブルームバーグは、このため各社が生産目標の見直しなどを急ぎ、結果として一段の需要減につながるという負のサイクルが起きているとの見方を伝えた。
EVは販売の伸び悩みに伴い、価格競争も激しくなっている。2023年4月の上海モーターショーでは、中国EVメーカーのBYDが日本円で約130万円の低価格EVを発表して話題を呼んだ。完成車の価格下落は部品・材料の低価格要求につながり、コバルトやニッケルなどの高価なレアメタルを使わない電池の開発や、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の普及、全固体電池への注目などにつながっている。さらに電池材料としてのレアメタル価格への逆風にも結び付き、コバルトやニッケル、リチウム価格の下落を招いている。
過去5年間の硫酸コバルトと硫酸ニッケルの価格推移(RMB/mt)
過去5年間の炭酸リチウムの価格推移(99.5% China)(RMB/mt)
■24年は電池の需給バランス調整の年か
2024年はこの傾向が一段と進みそうだ。まずEVは世界各国の政府による脱炭素化目標の達成に向けた普及促進プレッシャーもあって低価格への要求が強く、価格が上がることは見込みにくい。必然的にバッテリーも低コストでの生産方法が模索されるだろう。2022年が投資殺到の年、2023年はその結果として供給過剰が鮮明化した年だったとすれば、2024年は需給バランスを整えていく1年になりそうだ。
(IR Universe Kure)
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