金融アナリスト川上敦氏の世界経済動向セミナー#5 銅相場、今は景気の先行指標にあらず
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが5月7日に行われた。いつもの通り多彩なデータを使用いた講演で、川上氏は「現在の銅相場の上昇は供給減によるもので、景気の先行指標としての色合いは薄い」とし、中国景気の回復などを示唆するものではないとの見方を示した。
■銅の買い建て玉急増
銅は製造業をはじめ建設や家具家電など幅広い産業で使われるため、その価格動向は「ドクター・コッパー」の異名を取る通り、景気の先行指標として注目される。実際、これまでは景気動向を先取りする形で推移してきた。足元ではロンドン金属取引所(LME)の3か月先物が4月末に節目の1トン当たり1万ドルを超え、2022年春以来、約2年ぶりの高値水準にある。
景気と銅価格の相関
しかし、川上氏は足元の銅価格の上昇は「パナマのコブレ・パナマ銅鉱山の閉鎖や中国の減産などによる供給懸念によるもので、景気動向との関連は一時的に薄くなっている」と指摘。買い建て玉が急増しており勢いは強いものの、「世界の製造業の回復を織り込んでいるとは言いがたい」と話した。
銅の買い建て玉の推移
世界の製造業回復に疑問符が付くのは、「世界の工場」中国の景気が回復したとは断言しかねるからだ。川上氏は「公的発表では、製造業景況感指数(PMI)が好不況の境目である50を上回るなど、4月のデータは小幅に改善してはいる」と指摘。しかし「不動産のデータがなお弱く、固定資産投資は結局のところ2020年から横ばいで民間の部門の伸びはほとんどない。小売りの増え方も悪く、全体に『弱いなあ』という印象だ」と話した。
中国の固定資産投資
■日本の街角景気、「先行き」が鈍化
一方、日本の景気もさえない。英経済紙エコノミストの4月調査では2024年の実質国内総生産(GDP)は前年比1.3%増の予想だ。川上氏は「総じて褒められた状況ではないが、円安で支えられている」と述べた。
具体的には街角景気のうち「先行き」が後退。消費者態度指数が下落し、4月の消費マインドはやや後退した。給与はやや改善したものの物価高には追い付かず、雇用者報酬も実質的にマイナスが続く。
街角景気(先行き)の推移
一方で、輸出は中国以外が改善し、特に対米輸出を中心に輸出額は大きく増えた。これはもちろん円安の恩恵が大きい。
輸出指数の推移
円安要因を除いた救いは求人倍率がやや改善し、銀行貸し出しも微増したこと。川上氏は「もう少し静観したい」と話した。
■円安、一段と進む「根拠はない」
その円安だが、4月末のニューヨーク外国為替市場で円の対ドル相場は一時、1ドル=160円を突破し、1990年6月以来およそ34年ぶりの円安ドル高を更新した。巷では1ドル170円、いや200円の時代が来るとも言われるが、川上氏は「一段の円安になる根拠はない」と述べる。
理由はお金の量的な行き来を表す日米マネタリーベースが横ばいを続けていること。「チャートの方向性はむしろ円高を示唆しているのにこれまで円安に振れてきて、おかしい。これから変わってくる可能性が高い」と予測した。実際、米ドルの総合的な価値を表すドルインデックス(ドル指数)は最新価格が104.96と一時の106からは落ち着き、ドルの強さにも陰りは出始めている。
ただ、足元のCFTCドル円投資家ネット建玉では円売りポジションが急増。4月末から5月初めに行われたとみられる日銀による為替介入で頭を押さえられているだけで、「投資家の円売り圧力は根強い」(川上氏)のが現状ではある。豪ドルやユーロも対ドルでは下落しているが、円はこれらの通貨に比べても弱さが際立っている。
ドル円投資家ネット建玉の推移
円と他国通貨の対ドル推移
■米国、不動産や消費好調も変化の兆し
米景気もやや変調の兆しが出ている。雇用が少し落ちてきて、「特に民間部門でやや力がなくなってきた」(川上氏)。小売りの伸び率が減ってきてもいる。
しかし、川上氏は「不動産が好調で可処分所得も多い。小売売上高も水準自体は過去最高レベルで、消費意欲が非常に強い」と評価した。エネルギー価格はだいぶ下がり、インフレ懸念は収束しつつあると言えそうだ。
米GDPの長期推移
楽観ムードは株式やリスク意識にも反映している。世界の株価指数は4月に過去最高値を更新した。株価収益率はマイナスになったものの、クレジットスプレッドが低下していることなどから、川上氏は「投資家は全くリスクを考えていない」と指摘した。
(IR Universe Kure)
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