特集 循環再資源化高度化法について その2
4月17日にハリタ金属㈱張田社長のインタビュー記事をMIRU.COM誌上で独占掲載させていただいたことに続き、今回は環境省 環境再生・資源循環局総務課長の波戸本 尚さんによるご講演を拝聴する機会に恵まれましたので、その内容についてご報告します。
1.「循環再資源化高度化法」について
5月22日に参議院を通過し、29日に公布されました。法案提出の段階から様々な注目を浴びる中、各方面からの問い合わせも多かったそうです。
環境省としては、現在作成中の「第五次循環型社会形成推進基本計画」に謳われた「地方活性化と質の高い暮らし」「産業競争力の強化」「循環経済とカーボンニュートラル、生物多様性との一体的な展開」を進めるための法的な措置と位置付けているとのことです。同基本計画においては、循環経済への移行が日本の国家戦略と位置づけられ、循環経済への移行を前面に打ち出すことになるだろうのことでした。
2.そもそも何が「高度化」なのか
ここで言う高度化とは、①動静脈連携の構築によって、動脈企業と静脈企業が目標を共有しつつ、素材や物品の性質に応じた循環の輪を形成する、②官民の連携処理システムの構築により、自治体が資源循環をリードする、③資源循環設備の高効率化を通じた脱炭素への取組が推進される、④脱炭素化製品に含まれる有用資源の資源循環が進むなどの場合がイメージされているとのことで、ある程度イメージができている部分と、今後の議論に依存する部分とが混在している段階のようです。
法律案が公開された段階で喧伝されたような「広域化」という方向性はそれほど大きな扱いではなかったように思います。環境省としての政策的な整合性から言っても、たとえば「地域循環共生圏」が目指す効率的な循環と相反するような方向性ではないとのことでしたので、「連携」そして「脱炭素」あたりがカギになってくるように受け止めました。
3.取組みのタイミング
波戸本課長によると、高度化法の中身については、法律公布後半年間に実施される部分と、2025年を目途に時間をかけて実施される部分の二つに大きく分かれるとのことで、第五次基本計画の策定作業は前者に、また企業など関係先との意見交換を踏まえて対応する部分、具体的には高度化が何を意味するのかといった部分は後者に位置づけられるとのことでした。
4.国がリーダーシップを取る部分について
第五次計画を含む大きな政策の方向性や高度化事案の審査などもそうですが、やはりポイントになりそうなのは企業に対する報告の仕組み作りだと思われます。課長のご説明では、大手民間企業トップ1000社程度を想定した枠組みに対して取り組みの成果報告を求めるようなイメージを持っており、これについては国がまとめて公表する流れになるだろうとのことでした。
5.民間企業側の関心事項
ご講演については、聴衆からも色々と質問がありました。その中で高度化認定のあり方についての質問に対しては、課長から「製品ではなくプロセスや施設が評価の対象となる」との説明がありました。しかしながら細かい定義まで決まっている段階ではないので、今後スピード感を持ちながらプロセス要件についても早急に詰めてゆきたいとのことでした。
また、市場のコスト要求に屈する形で悪質業者が跋扈する危険性については、懸念事項として留意されるということでしたので、どのような規制が織り込まれるかについても今後注視したいと思います。
6.機会と展望
質疑応答の中でも、政府によるグリーン調達などの制度について言及があり、今後は循環性の基準も盛り込まれる方向にあるとのことです。さらには有価物の取り扱いとの整合性をどう考えるか、また入札万能主義をどう変えて行くかと言った大きな課題についての質問もありました。
最後に
循環経済を推進する中にあって、高度化法への期待感はかつてなかったものだと思います。しかしながら、その多くが脱炭素に依存する建付けであること、何をもって高度化とするのかが今一つ見えないことなど、議論の進展に期待する部分がまだ大きいように感じました。
脱炭素、そして循環プロセスの高度化というキーワードについては、この先ある程度のリードタイムを取りつつも、スピード感を持ちながら確認してゆくということのようです。「循環経済を国家戦略に」とのキャッチフレーズがどこまで重みを持つことになるのか、今後しっかり見極めてゆきたいと考えます。
***
西田 純(オルタナティブ経営コンサルタント)
国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、コンサルタントとして独立。SDGsやサーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。国立大学法人秋田大学非常勤講師、武蔵野大学環境大学院非常勤講師。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会幹事、循環経済協会会員
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