再エネ電力導入でオークション急増、その背景は?――仕組み提供のエナーバンク村中健一氏に聞く
取材を受けるエナーバンクの村中健一CEO
国際的な情勢などを受けて、電力料金の高騰が続く中、再生可能エネルギー電力の導入において利用が急増しているサービスがある。自治体や事業者など向けの電力仲介プラットフォーム「エネオク」だ。利用して電力導入に至った施設がこの2年で約3・6倍に膨れ上がっているという。脱炭素の潮流の中、ニーズを確実に捉えていると言える。サービス提供をするエナーバンク(東京都中央区)の共同創業者でCEOの村中健一氏に取材し、その背景を探った。
――サービスは、事業者などが無料で参加できるオークションシステムが肝です。
村中健一氏:
当社の創業は2018年7月だが、仕組みは、ほぼ変えずに続けてきている。再エネ電力を導入したい企業などの需要家が、電力を使う施設の過去12か月分の電気料金の請求書を登録する。システムでは、新電力など電力小売事業者の50社近くと連携しており、各社が見積額を提示。複数企業の提案から、需要家側が最適な提案を選べるという仕組みを提供している。
自治体向けと民間事業者向けの大きな2本柱でやってきた。需要家は、導入する再エネ電力の割合についても指定することができ、少しでも再エネ電力を導入することを条件づけしているオークション利用者は、全体の4分の3に達している。
――利用の広がりが好調さを示しています。
村中健一氏:
当社のオークションで導入が決まった電力の電気料金(1年間分)の総額に相当する総取り扱い額が、今年6月現在で、925億円に及んでいる。システムを利用して導入した施設は1万608施設に達した。2年前の2022年6月と比較してみると、総取り扱い額が5・5倍に急増し、施設数でも約3・6倍に増加している実績が出ている。利用は、市町村など自治体と民間事業者の割合は5割程度ずつで推移している。
急増の背景には、大きなトレンドとして、脱炭素経営が、計画策定から実行フェーズに移行してきていることがある。実行する場合、計画は立てたものの、予算額には限界もあり、再エネ電力の調達担当者らはどうやるべきかの方法について悩みを抱えている実態がある。
さらに、もう一つ。電力が高騰したことで、大手電力会社を含めて電気料金メニューの変更や値上げなどが相次いで起こってきた。市場連動型など複雑さが増してきている。調達する担当者らは、従来の単純な単価比較だけでは対応できなくなっている。当社のエネオクでは、すべてのメニューに対して条件をクリアにして、オークションが実施されるため、需要家にとってどの社、どの提案が安いかなどが明確化できるようになっている。こうした点が、ニーズと合致したと言えるだろう。
――順調さの一方で、電力高騰など大きな問題にも直面し、苦境も経験しました。
村中健一氏:
環境省自体がシステムを利用し評価したうえで、50年に温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すゼロカーボンシティに取り組む自治体などに向けて、環境省が20年に提示した再エネ調達実践ガイドに、当社のサービスが記載されたことが大きな起点になっている。国土交通省なども一部のエリア施設で利用し、すでに全国の45以上の自治体に広がっている。
だが、ロシアのウクライナ侵攻が起きた直後の22年3月から、その年の夏くらいまでは、当社ではオークションがほぼできない状態が続き、実績が伸び悩んだ。ただ、需要家サイドでは脱炭素に向けた動きは止まらないと確信していた。自家消費などで電力コストを抑制するため、太陽光発電設備の導入を希望する需要家に、設置目的や条件などに応じて対応できる複数の設置事業者を紹介して比較できる新しいサービスも、当社が立ち上げた。営業できない状態を回避する狙いもあったが、電力の再エネ化とコスト抑制という当社の目的にかなった事業で、現在、当社が持つ4つのサービスの一つになっている。
――コスト削減の方法としても選ばれています。
村中健一氏:
再エネ電力を初めて導入するには、企業などの組織内では様々な説明が必要になり、適正な価格かどうかを見極めるロジックが必要になる。再エネ電力は高いという一般的なイメージがあるが、当社のシステムを使えばコスト削減にもつなげることができる。そうだからこそ、当社は「やらない理由はありますか」と、需要家に問いかけることができる。そうすることで、組織の意思決定を誘導することができてきた。
21年9月には、共同調達オークションというサービスの提供も始めた。地域の民間事業者が、自治体が旗振り役になった共同のオークションに参加する。事業者の施設ごとに電力使用量にはバラつきがあるが、一まとめにすることで電力需要が平準化される効果が出て、電力料金がさらに割安に設定できるサービスになっている。
神奈川県で初めて取り組んだが、東京・世田谷区、足立区など首都圏に広がりを見せてきた。また、大阪などにも広がり始めている。実績でメリットを見ても、共同調達を利用することによって平均で電気料金を17・8%抑制できる結果が出ている。それでも、全体で90%が再エネ電力を導入できた成果がある。
――将来の課題や目標はいかがでしょう。
村中健一氏:
50年カーボンニュートラルに向けては、物事を後回しにする日本的な癖があるのが気がかりだ。最後はどうにかなると思いがちなところがある。だが、再エネ電力の導入については、急に取り組むにしてもコストや仕組みの導入方法などを選択していくのは難しい。再エネ電力100%に達した企業でも、議論を繰り返してきたことを実際に見てきた。特効薬はない。試行錯誤していくことが大切であり、そのために、当社などが、最新の情報を提供していかなければならない。
中小企業の一社一社が、再エネ導入に取り組むことは難しい面があるのは事実だ。そのため、当社の共同調達のサービスは、大手企業がサプライチェーン全体で一括して、導入する仕組みとして利用できる。今後、このサービスは重要になってくるし、すでに数社と動き出している。
国内の電力取引は20兆円程度の規模があるとされる。うち企業などの需要が14兆円ほどとされるが、当社が再エネ化で関与しているのはまだ1000億円に満たない規模だ。できることはたくさんあるはずだ。信頼を積み重ねていきながら、サービスの認知を高めていく必要がある。そのために進めているのが、パートナー企業の開拓だ。エネオクのサービスを、脱炭素を目指している事業者に紹介してもらえる銀行や保険会社、不動産会社などのパートナーは30~40社ほどになったが、この数を増やしていきたい。
自治体に対しては唯一のサービスである当社の強みがあり、5年後前後までには1700ある自治体のうち30%程度に導入してもらえることを目標にしていく。当社の株式上場も視野に入れていきたい。
(IRuniverse Kogure)
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